セミナーレポート

未来の長友は出るか? サッカーとデータ分析

日本代表コーチ経験者が語るサッカーとデータ分析

2013/10/3

 2013年9月5日、東邦大学理学部の公開講座「サッカーにおけるデータ分析」が行われた。

 対戦相手をどう攻略するか、トレーニングを含めた選手の体調管理はどうするか…。サッカーで取得できるデータや現場での活用方法について、日本代表コーチ経験者など「サムライブルー」を支えるスタッフが集まって講演した。

「サムライブルー」のコーチ陣は
データをどう分析するのか
「サムライブルー」のコーチ陣は データをどう分析するのか

ツールとしてのデータ


 「数字に表れない部分の方が重要だと思っている」と口火を切ったのは、日本サッカー協会(JFA)代表チームのテクニカルアナリスト、湯浅理平氏だ。


 2013年8月に行われたアルクディア国際ユースサッカートーナメントのU-19(19歳以下)日本代表の試合。湯浅氏は8月17日に行われた対アルゼンチン戦の前日に、選手へ見せたビデオを披露した。


 ビデオは、アルゼンチン代表の基本的なフォーメーションパターン、セットプレー時の特徴、対策ポイントなどをコンパクトにまとめたものだ。湯浅氏は、試合までに中1日しか練習できない時間的制約があったことを振り返り、「選手には映像だけに集中してもらった」と意図を述べた。


 湯浅氏はデータよりもストーリーを重視。「パスの本数などのデータはいくらでも取れるが、例えばデータでは『パスミス』としか出てこないところでも、パスに込められた意図を読み解く方が重要」と指摘した。


 一方、JリーグやKリーグ(韓国)のクラブチームでフィジカルコーチの経験がある東邦大学理学部講師の澁川賢一氏。チームや選手個別のトレーニングメニュー構築から、リハビリ、選手へのライフスタイル指導、心拍数などのトレーニングデータのほか、選手の情熱に訴えかけるなどのメンタルケアも行ってきた。


 トレーニング1つ取っても、1週間でこなすメニューを監督とすり合わせ、天候によるグランドコンディションも踏まえてスケジューリングする必要がある。また、「体重が80kgはあるだろう(ポルトガル代表の)クリスティアーノ・ロナウドと、体幹はあるが線の細い(ブラジル代表の)ネイマールではトレーニング方法が違う」(澁川氏)と述べ、個々の選手にベストな練習メニューも考えなければならない。


 体力測定や故障履歴などを元に、様々なデータを取得して選手1人1人のカルテを作ってきた澁川氏は、データの使い方に気を配る。「選手にとって、数字はシロかクロ(いい数字か悪い数字)にしかならない。測定している方は『クロではない』と考えていても、選手はクロと捉えてしまう」(澁川氏)と述べ、数値のデリケートさを強調した。

W杯日本代表コーチを務めた大熊清氏も登壇   セットプレーからの失点数とチーム順位のグラフを見つめる来場者
W杯日本代表コーチを務めた大熊清氏も登壇   セットプレーからの失点数とチーム順位のグラフを見つめる来場者

「勝てるサッカー」のためのデータ


 FC東京テクニカルダイレクターの大熊清氏は、FC東京の監督経験のほか、ワールドカップ南アフリカ大会では日本代表のコーチも務めた。サッカー日本代表の舞台裏をよく知る人物だ。


 「データや映像の使い方は監督次第。オシム(元監督)は、いいものでもあからさまにほめることはなかった。気が付いたら(映像などのツールを)使っている、という具合。岡田(前監督)さんはいい・悪いがはっきりしている。映像にしても、いいと思ったものはすぐに使う」と、データ活用には監督のキャラクターが如実に表れるという。


 代表選手のデータ取得についても、活用方法は様々だ。南アフリカ大会では順化(高地などの気候に体を合わせる)が大変だった。このため、糖の出る量を測り、一定の数値を基準に選手を休ませる対策をとったという。ただ、選手ごとの細かいフィジカルデータは、クラブチームと選手間の契約関係もあり、あまり取っていないという。


若手育成にデータは必須


 ワールドクラスの活躍が期待できるサッカー選手になるためには、少なくとも12~15歳の段階で才能を見出していかなければならない。例えば、30メートル走を4秒以下で走れる子どもならば、成長した後も脚力は衰えないという。大熊氏は、「データの持ち腐れにならないよう、フィジカルはもっともっと数値化して、育成につなげていかないといけない」と、データ活用の必要性を訴えた。


 現在、JFAでは「フィジカルフィットネスプロジェクト」というプロジェクトで、選手のデータの積み上げをしている。「グラスルーツ(草の根)で教える人間を増やしている」(大熊氏)とのこと。スカウト段階での選手の層を厚くするためにも、データの有効活用に取り組んでいるところだ。


 1993年のJリーグ誕生以前は「90分のビデオをひたすら見続けるだけの『分析』」があったという。比べて現在はサッカーについての知見も増え、欧州クラブチームでトップクラスとなっている選手もたくさん抱えるようになった日本。2014年のワールドカップブラジル大会の次を見据えた、新しい日本のスター選手誕生を待ちたい。

(中西 啓)

【セミナーデータ】

イベント名
:サッカーにおけるデータ分析
主催   
:東邦大学
開催日  
:2013年9月5日
開催場所 
:東邦大学習志野キャンパス(千葉県船橋市)

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