セミナーレポート

知財戦略、「特許」とハサミは使いよう

イノベーション・ジャパン2013を取材

2013/9/26

 米粉のシュークリーム、リアルな反応をする歯科医研修用ロボット…。日本の産学連携を活性化させるためのイベント「イノベーション・ジャパン2013」が2013年8月29日、30日の2日間、東京ビッグサイトで開催された。研究者の開発成果がところ狭しと並べられる中、開発された知財の扱い方についての講演も行われた。

音声認識で口をあける「シムロイド」
音声認識で口をあける「シムロイド」

イノベーションの萌芽、あちこちに


 ユニークな研究開発の成果が並ぶブースの中に、診察台に横たわっている人がいる。「どんな体験ブースなんだろう」と近寄ると、のけぞるほど精巧にできた「人形」であった。こちらは、モリタ製作所が開発した歯科医師の臨床実習用患者ロボット「シムロイド」だ。


 ブース担当者がインカム越しに「口をあけて下さい」と言うと、診察台に横たわっていたシムロイドが音声認識で口をあける。口の開き方はもちろん、不規則に動く目や瞬きなどのそぶりは、黙ってそばに立っているのが気まずいくらい、本当によくできている。


 従来のマネキンによる実習は、患者に対する力の加減を練習することができなかった。この「シムロイド」は、力を入れ過ぎると「イタイ!」と、声を発し、顔を振って表情を歪ませるので、実際の患者に対する診療に限りなく近づく。また、診察の様子を録画しているので、実習後のレビューも的確になる、ということだ。


 別の一角で、山形名産・ずんだが入ったシュークリームが配られていた。このシュー皮、実は山形大学の西岡昭博教授が開発した装置で作られたアルファ化(糊化)された米粉が原料だ。従来は炊飯作業が必要だったアルファ化を、穀物の持つ水分だけで行う。アルファ化された米粉に水を加えると、粘りが出て「おかゆ」になるという。


 米に限らず、小豆など澱粉を含んだ穀物ならアルファ化できる。価格は900万円程度で、小ロットの中小のベーカリーなどをターゲットにしていく。粉末化してすぐに食べられるので、「災害時の簡易食としても活用できる」(ブース担当者)とのことだ。


 また、5万人が自給自足できる人工島「グリーンフロート」を作る、というプロジェクトも紹介されていた。赤道直下の太平洋上に、地上1000メートルの浮揚島を作る、というもの。野村証券や清水建設、博士人材の育成などを行うスーパー連携大学院などが参加している。


 このプロジェクトは、実際に島を建設するというよりは、島を作るにあたっての要素技術の研究を進める、という意味合いが強い。島の建築素材にするための海水からのマグネシウム精錬技術、島の位置制御技術、都市ゴミのバイオエタノール化技術から、人工島を作るための資金調達方法まで、多様な研究テーマが提示されていた。

アルファ化された米粉の製造装置と、米粉シュークリームを配る山形大のスタッフ   特許戦略を語るソニーの守屋氏
アルファ化された米粉の製造装置と、米粉シュークリームを配る山形大のスタッフ   特許戦略を語るソニーの守屋氏

変わる特許戦略


 こうして生まれる新技術のメカニズムは、もちろん大切な知財だ。30日には、ソニーのVP知的財産センター長・守屋文彦氏、経済産業省産業技術環境局の土井良治氏による知財戦略についての講演が行われた。


 講演では、特許について言及された。従来ならば技術の特許を取ってライセンス料を得る、というビジネスモデルでもよかったが、昨今は状況が違う。自社の技術が「国際標準化」にかかわることも重要になってきているという。


 一例が米半導体製造大手のインテルだ。同社はUSBやDVDなどの標準化活動に参加している。CPUと直接関係ない同社が標準化に取り組む理由は、自社CPUに関連する周辺装置であるからだ。守屋氏も自社の標準化活動は「マーケットを広げるため」と断言する。


 「特許の取得方法」についても一工夫がいる。経産省・土井氏は「2013年版『ものづくり白書』では、「特許の数を稼ぐ」企業よりも、「特許にする技術を絞り込む」企業の方が儲かっている」と指摘した。


 特許出願戦略も、日本は国内に同業他社が多いため、クロスライセンスの取得が目的になっていることが多い。このため、特許侵害訴訟を避ける傾向にある。一方海外では、特許技術であっても特許取得企業が裁判を起こされなければ、技術コピーをし続ける企業が存在する。土井氏は「(自社特許を無断使用した)相手を訴える気がないのならば、特許は取得すべきではない」と主張した。


「パテントトロール」問題と知財戦略


 特許権だけを持ち、グローバル企業などが該当する技術を使った製品を販売した際に損害賠償で訴えを起こす「パテントトロール」と呼ばれる組織や団体がある。


 パテントトロールは、メーカーの持つ特許を低価格で買い取り、投資家を募る。特許権の侵害で企業相手に損害賠償訴訟を起こし、賠償金や和解金を得るのが目的だ。訴訟をする時は、原告が有利になるような裁判所(原告の地元など)を選び、特許侵害の警告状は送らない。できるだけ多くの企業を相手取り、訴訟を行う。「無線LAN機器に使われている技術について訴訟が起こった場合、機器を使っているカフェチェーンもパテントトロールに訴えられる」(ソニー・守屋氏)といった有り様だ。


 訴えられた企業側も、100万ドル単位でかかる訴訟コストを避けるため、パテントトロールと和解をすることがほとんどだという。パテントトロールの中には堂々と株式上場を行い、時価総額1000億円の企業体となっているものもあるという。急増するパテントトロールに対し、米国では2013年6月に「特許申請時に技術の内容や用途などを明示させる」などの対策案を大統領府が提言した。


 今後、知財のマネジメントは必要不可欠になっていく。特に大企業の開発部門、生産管理部門、研究所、知財部門など、企業を横断した綿密なマネジメントが求められるだろう。

(中西 啓)

【セミナーデータ】

イベント名
:イノベーション・ジャパン2013
主催   
:科学技術振興機構(JST)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
開催日  
:2013年8月29日~30日
開催場所 
:東京ビッグサイト(東京都江東区)

【関連カテゴリ】

IT政策