セミナーレポート

電子書籍で問われる作家、編集者の役割

第17回国際電子出版EXPOセミナーをレポート

2013/7/29

 Kindleが誕生した2007年から、6年あまり。米国での電子書籍市場は大幅に伸びている。パラダイムシフトを受けている日本の出版業界も変革を迫られている。

 第20回東京国際ブックフェアが2013年7月3日から4日間、東京ビッグサイトで行われた。同時開催された第17回国際電子出版EXPOのセミナー「電子出版最前線2013、そして未来はどうなるのか!」では、電子書籍を踏まえた、書き手、編集、売り手のあり方が模索された。

大勢の聴衆が詰めかけたセミナー
大勢の聴衆が詰めかけたセミナー

紙と電子のアピール方法


 「米国は、2010年以来、電子書籍市場の伸びと同時に紙の書籍も伸びている」と指摘したのは、インプレスホールディングス取締役の北川雅洋氏。北川氏は「音楽業界はオンラインに比べてCDは減少している。しかし、出版業界は電子・紙ともに盛り上がっている」と米国の現状を踏まえて、日本も同じような流れになることを期待していると述べた。 ただ、オンラインと実店舗では、書籍の“見せ方”が異なる。「書店の平積みと、スマホのスクロールで見る印象や、眼に入ってくる書籍の量も違う」(北川氏)ために、アピール方法にもひねりが必要になる。 販売機会の少ないものでも多数そろえることで売り上げを伸ばす、いわゆる「ロングテールモデル」についても、アマゾンジャパンの友田雄介氏は「電子は紙以上にテールへ行かせることができない」と実態を述べた。


セルフパブリッシャー


 こうした中、販売手法で工夫を加えたのが、『Gene Mapper』の作者、藤井太洋氏だ。『Gene Mapper』は藤井氏が個人で電子出版した作品で、Kindleの小説文芸ランキングで1位を獲得。2013年4月には、早川書房で紙の書籍が再出版された。


 iPhoneで執筆されたという『Gene Mapper』。2012年5月に脱稿後、友人に読んでもらった以外は、データ処理、価格設定、PRなど、全ての部分を1人で行ったという。フォーマットもPDFを始めEPUB、Kindle用の縦書き、横書き版を含めて8種類を用意する周到ぶりだ。

セルフパブリッシャーの藤井氏   日米の電子書籍市場を解説する北川氏
セルフパブリッシャーの藤井氏   日米の電子書籍市場を解説する北川氏
 販売に当たっては、作品を「デジタルグッズ」として位置付け、自身のWEBページをベースにSNSで告知を展開。反応を見てリスティング広告を7~8種類用意して打ったという。『まとめサイト』などのキュレーションサイトでのムーブメントも大切にすることも含め、WEB上で可能なあらゆる手段を講じた。


 『Gene Mapper』の価格は500円。セルフパブリッシングされている電子書籍は100円の設定もあるが、藤井氏に言わせると「100円は商品の価格とはいえない」とのこと。「期間限定で300円に値下げしたが、それ以外は500円で通している。レビューを荒らさないための対策という側面もある」と、理由を述べた。


 職業として成り立つかはともかく、『Gene Mapper』は「セルフパブリッシャー」が出した本も注目を浴びることを証明した。


書き手、編集者、売り手の立ち位置


 作家が執筆以外までをも手掛けることができる電子書籍だが、そうなると編集者の立場がない。PHP研究所の太田智一氏は、「電子書籍の場合、メタデータやコーディングもかかわってくる。作家さんには書くことに集中してもらいたいし、その方が楽だろうと思う」と述べた。


 一方で、「編集者」にも再定義が必要と訴えた。出版社から出される雑誌や書籍は、下請けの編集プロダクションが誌面作りを行っていることも多い。太田氏は「昔の編集者は、レイアウトデザインから紙選びなど、原稿以外の全てを作っていた」とかつての編集者が持っていた役割を振り返り、電子書籍の時代になって、再びこうしたマネジメント・クリエイティブスキルが必要になってくると述べた。


 配本制度が整っている日本と米国の電子書籍事情を、いたずらに比較することはできない。ただ、少なくともセルフパブリッシャーの可能性が見えてきた現在、作家や編集者の「作り手側」は、電子書籍をビジネスへ結び付けていく必要がある。一流の作家が電子版の発売に重きを置く「デジタルファースト」をメインにする時代も、そう遠くはないだろう。

(中西 啓)

【セミナーデータ】

イベント名
:第17回国際電子出版EXPO
主催   
:東京国際ブックフェア実行委員会、リードエグジビションジャパン
開催日  
:2013年7月3日~6日
開催場所 
:東京ビッグサイト(東京都江東区)

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