セミナーレポート

キッズデザインと支援ロボットの標準化

産総研やメーカーの取り組み

2013/7/25

 産業技術総合研究所(産総研)を中心とした国際標準推進戦略シンポジウム「キッズデザインと生活支援ロボット」が、2013年7月3日に行われた。ロボット技術の安全基準や子どもたちの安全を担保するための標準化動向について、様々な議論がなされた。

標準化動向を述べる産総研の中鉢理事長
標準化動向を述べる産総研の中鉢理事長

国際標準と生活支援ロボット開発の苦労


 産総研理事長の中鉢良治氏は、「標準化の策定を、ドキュメント上だけでなく、実際の製品にまで結び付けたい。標準化に携わる人が(企業内などで)大事にされるべき」と語った。ただ、標準化と製品のコラボレーションは、一筋縄ではいかない場合が多い。


 生活支援ロボット「HAL」を開発した筑波大学大学院の山海嘉之教授は、ロボットが実用化されるまでのプロセスを紹介した。「HAL」は、身体に装着し、体を動かそうとする脳の信号を受信することで、体の動きをサポートするロボットだ。「介護はこれからマーケットになる」(山海氏)と見込んで、同氏が経営する大学発のベンチャー企業・サイバーダインで開発された。


 しかし、国内や海外各国での特許取得費用だけでも1000万円以上かかったという。加えてHALを欧州で利用するとなると、「医療機器」として登録しなければならない。山海氏は「3年たっても医療機器として認証されないと、在庫だけでも費用がかさんでしまう」と、前例のない製品を市場に提供する難しさを述べた。

パネルディスカッションの様子   HAL開発を語る山海教授
パネルディスカッションの様子   HAL開発を語る山海教授

 ハードルはこれだけではない。共同開発を企業に持ちかけても「既存マーケットが存在しない」ために、動きが鈍かったという。山海氏が大学ベンチャーを立ち上げたのも、企業の腰の重さがきっかけだった。


 それでも、各方面へ働きかけた結果、ISO(国際標準化機構)で新たに立ち上げられたパーソナルケア・ロボットの安全規格・ISO13482の先行事例としてHALが取り上げられた。同規格は今年中にガイドラインが発行される予定だ。


キッズデザインの標準化はブランディング


 一方の「キッズデザイン」。子どもが致命傷や大けがを負わないような工夫をしているデザインのことだ。具体的には「高温の水蒸気が出ない炊飯器」、「キャップに穴のあいたマーカー」(誤飲しても窒息しない)などが挙げられる。


 こうした安全基準の標準化も、2012年からISOで審議が始まっている。行動のシナリオ予測、けがなどのリスク発生確率予測、けがの程度予測などを踏まえ、どれだけ危険性が除去できるか、というガイドラインを詰めているところである。


 このガイドラインに沿って、適合する製品は「子どもに安全」というISO認証を得ることができる。ただ、キッズデザインは製品を使っていても、なかなか効果が実感できないのも事実だ。キッズデザインの標準化にかかわっている、産総研の持丸正明氏は「『エコマーク』のような、価値を訴える記号が必要」と訴えた。


 積水ハウスの中村孝之氏は、東京都八王子市に設計した「キッズデザイン街区」を紹介。家電メーカーや文房具メーカーとコラボレーションし、「一戸建て丸ごとキッズデザイン」とするプロジェクトだ。


 こうしたメーカーのアピールは、キッズデザインは安全面の評価もさることながら、「子どもが触れても安心なもの」という、消費者へのブランディング要素が強い。


知財の標準化とクローズ化


 知財の戦略では、自社技術をどこまでオープンにするか、というのも重要なポイントである。デジタルカメラでは、画像転送プロトコルやレンズマウントの接続部分などをオープン領域にし、画像処理回路やレンズ部分をブラックボックス化することで技術的優位を保っている。


 キッズデザインについても、家具の安全基準などはオープン化し、子どもの行動確率や行動特徴のチェックシートやデータベースは著作物としてクローズに扱う戦略を挙げていた。


 前例のない製品の販売、業界横断的な取り組み…。製品やサービスのマーケットを世界に広げるにあたって、標準化は避けて通れない。自社の持つ優位性の活用方法が、ことさら問われていく時代になりそうだ。

(中西 啓)

【セミナーデータ】

イベント名
:キッズデザインと生活支援ロボット―その安全ガイドラインと国際認証戦略―
主催   
:産業技術総合研究所、日本を元気にする産業技術会議
開催日  
:2013年7月3日
開催場所 
:イイノホール(東京都千代田区)

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