セミナーレポート
様々な分野からのリスクマネジメント
日本リスクマネジメント学会35周年シンポジウムを取材
企業や組織のリスクをどう考えるべきか――。2013年6月28日、日本学術会議講堂で、日本リスクマネジメント学会の公開シンポジウムが行われ、経済・経営・福祉など、様々な視点からのリスクの考え方について講演がなされた。
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| 35周年を迎えた日本リスクマネジメント学会 |
企業リスクの認識は20世紀初頭から
ビジネスにおけるリスクマネジメントは、1920年代のドイツから始まった。第1次世界大戦後に発生したハイパーインフレ時に考えられた、企業防衛のための「リジコポリティク」という概念が起源であるという。
その後、米国でのコスト管理手法などのリスクマネジメントが日本に紹介されたのは、時代が下って1960~1970年代だという。関西大学社会安全学部教授の亀井克之氏は、「経営学の中で研究が始まったリスクマネジメントのため、『モノ』『カネ』を軸にしたERM(エンタープライズ・リスクマネジメント)の研究が主に行われていた」と紹介。
しかし、近年ではリスク把握について変化が生じてきている。リスクマネジメントのプロセスは、これまでロスの発見、評価、対応、という流れだったが、現在は「『どういう企業になりたいのか』という、自社のサービスが社会のどこに位置付けられているかという『状況確定』をしてからリスクを評価する」(専修大学教授の上田和勇氏)流れになっている。
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| 経済学の観点からリスクを語る川本氏 | パネルディスカッションの様子 |
経済学からのリスクアプローチ
広島修道大学教授の川本明人氏は、経済学の観点からリスクに対する言及をした。経済活動でリスク回避としての「保険」の概念は、紀元前の古代ギリシャから存在したという。川本氏は、リスク判断において人間は「小さい損でも大きく感じてしまう」と述べ、得をするよりも損をする(リスクを負う)方に意識を向けてしまう心理的バイアスがあることを紹介した。
この一方で、リスクを負うことを好む人間の行動があることも川本氏は古典を引用しながら言及した。18世紀に出版された『国富論』で知られるアダム・スミスは、同書の中で「通常の利潤率は、常にリスクとともに上昇する」としている。また、ケインズも企業活動の根本にあるものを『アニマルスピリット』と呼んだ。リスクを取る活動がなければ経済活動は成り立たない、というものだ。
こうした過去の研究を踏まえて、川本氏は「金融はリスクマネジメントに失敗している」と指摘。ロシア国債のデフォルトによって、同国債を買い続けたLTCMの破綻や、リスクが分からないまま格付けられたサブプライムローンなどを例に挙げた。金融機関の社会的責任投資が重要であるとして、「金融機関の自己資本規制だけでなく、社会に及ぼす影響にもっと着目すべき」と訴えた。
倒産統計でわかる、景気の動向
企業倒産件数などを挙げて、「イメージとしての景気」と、実際の経済状況を比較したのは、筑波大学教授の白田佳子氏だ。
白田氏は、企業倒産件数と企業倒産率のグラフを示し、倒産率は1980年代半ばの1.2%に比べ、2000年代は0.5%前後と、低く推移している。「気分で動いているのは、株価と経営者の気持ち」と述べ、現在の企業の財務体質は非常に良いと指摘した。
社会福祉の分野でもリスクは存在する。東北福祉大学の菅原好秀准教授は介護の現場でのリスクを紹介した。介護現場で起こる高齢者の転倒事故は、「裁判で、一方的に介護施設側の責任が問われる状況となっている」という。介護施設側が、利用者に対して「けがを軽減させたい」という意識を持つことを「心の危機管理」と解説。この意識があれば、高齢者の家族にもその意思が伝わり、事故リスク・裁判リスクは低くなる、と主張した。
今回のシンポジウムでは、「自社のリスクはどういうものがあるのか、適切に把握する能力」を経営層に解説するような事例の紹介が多く見られた。経営者はもちろんのこと、こうしたリスク把握はビジネスパーソンに求められる資質とも共通しているのではないか、と感じた。
終身雇用の名が消えて久しい昨今、自己管理やスキルアップ、キャリアビジョンを描くことが求められてきている。この要素を形にしていくには、どんな業務ができて何が苦手なのか、など「自分のリスク把握」がカギとなる。こうした気づきを得た今回のシンポジウムは、示唆に富むものであったと言える。
【セミナーデータ】
- イベント名
- :リスクマネジメント研究の過去・現在・未来
- 主催
- :日本学術会議第一部経営学委員会、日本リスクマネジメント学会
- 開催日
- :2013年6月28日
- 開催場所
- :日本学術会議講堂(東京都港区)
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