セミナーレポート

“ビッグデータ時代”を見据えた統計教育

日本学術会議主催の統計学に関するシンポジウムを取材

2013/5/16

 2013年4月19日、日本学術会議は統計教育や統計の活用に関するシンポジウムを開催した。ビッグデータ解析などで改めて注目されている統計学。学校教育で扱う統計学の重要性などについて講演が行われた。

統計学の可能性について
話し合われた会場の様子
統計学の可能性について話し合われた会場の様子

統計教育の重要性


 統計数理研究所の椿広計(ひろえ)氏はこれまでの日本の統計教育を振り返った。日本では1951年度に改訂した学習指導要領で、小学校算数・中学校数学に統計学がカリキュラムの中心に据えられていた。しかし1977年度に改訂した学習指導要領によって、“ゆとり教育”へと方向転換すると、統計学習の内容は大幅に削減されてしまう。


 一方、海外では1990年代に統計教育を重視したカリキュラムに移行する国が目立つようになる。例えばニュージーランドは、小学校算数・中学校数学の授業時間の3分の1を統計に費やすなど、統計リテラシーや統計的な問題解決力をつける指導を重視。結果、PISA(OECDの学習到達度調査)の2006年度調査では、「科学的な疑問を認識すること」の領域において同国がトップとなるなど、成果となって表れている。


 日本でもPISAの順位が落ちたことを受け、小・中学校の指導要領に統計学が拡充される。2010年度実施の学習指導要領では小学校5年で「目的に応じて資料を集めて、分類整理する」、小学校6年で「資料の平均や散らばりを調べ、統計的に考察したり、表現することができるようにする」ことが盛り込まれている。


 ただ、椿氏の報告によると、統計教育の分野で、教員の経験や教科・教材の不足が課題となっているという。さらに高等教育に目を向けると、大学受験で統計学を範囲外とする大学も多く、統計学の扱いについて教育の現場で戸惑いがみられている。


 統計学は企業で重視されているのも事実。トヨタ自動車は製造の現場では統計教育が徹底的に行われている。製造の現場で統計的な手法を用い、課題の原因を突き止めることによって「カイゼン」を繰り返してきた。トヨタでは、統計学は企画から製造まで、全ての現場で役に立つという認識だという。


 こうした動きもあり、政府は学校での統計教育を重視。内閣府統計委員会が2008年7月に提出した報告書で、統計教育の強化の必要性を明示している。今後、統計リテラシーや統計倫理に関する教員への研修を拡充し、統計教育に役立つ教材を適切に提供していく流れだ。

統計数理研究所
椿広計副所長   青山学院大学教授
美添泰人氏
統計数理研究所 椿広計副所長   青山学院大学教授 美添泰人氏

統計検定の果たす役割


 講演では、統計学が学校教育において重視されることの他に、社会でも統計学に対する期待や機運が高まっていることについても触れていた。海外に目を向けると、イギリスのRSS qualificationsをはじめ制度の充実が目立つ。青山学院大学教授の美添(よしぞえ)泰人氏によると日本でも2011年に統計検定が開始されているという。同検定の1級は、実社会における様々な分野のデータ解析に必要な能力を問うもの。大学の専門分野レベルの知識が必要とされ、統計の専門知識を有することを示す指標とされており、同検定の果たす役割は大きい。


統計学データを使うための環境整備


 その他、講演では統計データが幅広く使われるための取り組みについても触れられていた。東京大学社会科学研究所准教授の前田幸男氏は、政府や自治体が行う統計調査で収集された「公的助成によるデータ」について「研究者が発表する研究成果に使用されており、重要なものとなっている」と指摘。データの妥当性を担保とするためには、同データのように統計データが適切に保存され公開されなければならないとしている。


 また前田氏は統計データを収集する場合に、利用者の二次利用も視野に入れ、使いやすいフォーマットにするよう統計データを整えるべきだと提言。研究の初期段階から関係者間で合意を交わすことが大切だとしている。


 前田氏は「研究者の研究成果を検証するためにも、統計データの公開は必要不可欠。また二次利用者のなかでも資金調達が難しい若手研究者にとって、質の高いデータを利用できるかは重要な問題」としている。


 ビッグデータ解析など、企業の現場で使われる統計学を学校教育で重視する動きは進んでいる。また統計を使う環境の整備も欠かすことができない要素だ。統計学の将来に期待が感じられるシンポジウムだった。

(山下雄太郎)

注釈

*:RSS qualifications
英国王立統計学会(RSS:Royal Statistical Society)が実施する統計の資格。

【セミナーデータ】

イベント名
:ミクロ統計の利用と統計教育
主催   
:日本学術会議社会学委員会・法学委員会・政治学委員会・経済学委員会・
 経営学委員会合同国民目線による統計調査・意識調査の方向性の検討分科会
開催日  
:2013年4月19日
開催場所 
:日本学術会議 会議室(東京都港区)

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