セミナーレポート

突出した人材の育成と業界

IPA未踏事業の成果と、現状、これから

2013/4/15

 2013年3月22日、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、第1回「未踏シンポジウム」を開催した。IPAは2000年より、これまで考えられなかったような、つまり「未踏」的なアイデアや技術を持つ人材を発掘・育成する事業として「未踏事業」を行ってきた。今回はその「未踏事業」の意義や課題に関する講演、実際に未踏事業で「スーパークリエータ」として認定を受けた本人による発表などが行われた。

一般社団法人情報処理学会 会長の古川一夫氏
一般社団法人情報処理学会 
会長の古川一夫氏

未踏事業の意義


 未踏事業を開始した2000年当時、日本のソフトウェアの輸入額は輸出額の72倍に膨れ上がっていた。現在においても日本の様々なIT市場は海外製品で占められており、IT業界単体で考えると貿易赤字が続いている。この状況を打開するため、IT分野における天才を育て、イノベーションを生み出すためのプロジェクトとして未踏事業は開始された。以降、2011年度までに244人の「スーパークリエータ」が輩出され、IT業界で活躍している。


 一般社団法人情報処理学会・会長の古川一夫氏は基調講演で登壇し、こうした「突出した人材」を育成する重要性について講演した。ITに関するイノベーションが頻繁に起きている米国を引き合いに出し「エンジニアや経営者などが集まるイベントが少ないといった専門家同士のネットワークの弱さ」「突出した人材が埋没しやすい、出る杭を打つ社会環境」「投資家の数が少なく、規模も小さい起業へのハードルの高さ」という3つの問題点を指摘。日本発の技術が出ない要因であるとした。今後、中長期的にも業界規模の拡大が期待できるIT業界において、こうした要因を取り除き、突出した人材を育成していくことが、日本全体にとっても非常に重要であることを強調した。

キビテク代表取締役 林まりか氏   2011年度採択の伴泳ロボット-
キビテク代表取締役 林まりか氏   2011年度採択の伴泳ロボット

未踏事業で採用されたプロジェクト


 未踏事業は25歳未満からアイデアを募集し、プロジェクト側で審査、合格した者を育成していくという過程を経て行われている。これまでプロジェクトで育成された人材「スーパークリエータ」は、いまだ学生の者、成果を持って業界大手に就職した者、起業した者など多数いる。今回その「スーパークリエータ」本人が登壇し、プロジェクトでの成果について発表を行った。


 株式会社キビテクの代表取締役を務めている林まりか氏は、2010年度の未踏事業で採択された。プロジェクトのテーマは「人と人が向かい合えるインターフェースシステムの開発とその応用」。人が持つ感覚の1つ「触覚」に注目し、触覚を感知するセンサーと、センサーを利用したゲームを開発。ゲームを通じて、自分自身でもあまり自覚していない触覚・皮膚感覚の存在を改めて想起させる、というものだ。


 開発された触覚を感知するセンサーは、「触れる」の中でも「かすかに触れている」のか「掴んでいる」のかなどの「触れ方」も細かく計測できるようになっている。これは、人間の周囲に出ている特殊な電磁界を利用した高度な技術だという。林氏は、プロジェクト完了後も現在代表を務める株式会社キビテクを興し、引き続き同技術の開発を中心にした事業を行っている。今後は「エンターテイメント分野のみならず医療などの分野におけるセンサー技術の製品応用を目指す」(林氏)としている。


 2011年度採択には「伴泳ロボットを用いた水泳支援システムの開発」というテーマのプロジェクトもあった。これは一般的なスポーツと異なりフォームを確認しづらく、指導教官の声も聞こえづらい水泳において、カメラやディスプレイを搭載した水中ロボットを利用することで訓練支援を行う(写真右)というもの。画面に自らのフォームを映したり、指導教官の指導を「水中で泳ぎながら」受けることもできる。プロジェクトの発案者である東京大学大学院生の鵜飼祐氏は、自らも水泳の指導を行っている中でこうした問題点を感じており、発案に至ったという。


 ほかにも技術的にはもちろん、発想としても通常ではなかなか至らないような、非常に多角的な分野・研究がテーマとして採択された。こうした技術から、いずれ世界を変えるような大きなイノベーションが出てくることに期待できるかもしれない。


 最後に、現在IT業界の一線で働く「民」側の代表者や識者を交えたパネルディスカッションが行われ、突出した人材をどう生かしていくかについて意見が出た。民側からは、発表を行ったスーパークリエータたちを絶賛する一方で「このように優秀な人材を育成したとして、日本のIT業界に受け皿がないことが問題点だ」という声が上がった。つまり、こうした人材の卒業した際の就職先が大抵「外資系」になってしまうということだ。今後は、日系IT企業が外資系を越えるような魅力のある企業へ成長することはもちろん、優秀な人材が国内で起業しやすいような環境を整えることも、求められていくだろう。

(井上宇紀)

【セミナーデータ】

イベント名
:IPA未踏シンポジウム
主催   
:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)
開催日  
:2013年3月22日
開催場所 
:富士AKIBAホール(千代田区)

【関連カテゴリ】

その他