セミナーレポート

太陽光植物工場の可能性

日本学術会議主催のシンポジウムを取材

2013/4/11

 2013年3月18日、日本学術会議は太陽光植物工場に関するシンポジウムを開催した。日本は高齢化や新規就農者不足によって農業人口が減少している。今回のシンポジウムでは、太陽光植物工場の可能性など、国際競争力のある農産物生産システムについて講演があった。

太陽光植物工場の可能性について
話し合われた会場の様子
太陽光植物工場の可能性について
話し合われた会場の様子

太陽光植物工場の概要


 植物工場とは、植物の生育に必要な環境を空調や照明などによって人工的に制御し、季節に関係なく農産物を生産する施設のこと。人工光のみを使い農産物を生産するものは「完全人工光型植物工場」と呼ばれている。それに対し、太陽光を使い、あるいは人工光と併用しながら大規模な食糧生産を行う施設を「太陽光植物工場」と呼んでいる。1棟の平面積がha(ヘクタール)を超える面積を有し、気温・温度・CO2・光の強さなどの様々な環境要因をコンピュータで制御する設備をそなえている。


 植物工場で必要なのが植物の生体情報を計測し、生育プロセスが最適な環境条件となるように制御するSPA(Speaking Plant Approach)技術。植物工場は、この手法が開発されたヨーロッパを中心に発展してきた。特にオランダでは最先端のSPAを取り入れることで、驚異的な高品質・多収穫を実現。太陽光や湿度といった環境要因を制御することで、太陽光植物工場へ発展させた。今も植物工場の先進国として最先端の設備を誇っている。


 日本でも愛媛大学大学院連合農学研究科によって日本初の小型太陽光植物工場が開発されている。さらに2010年には経済産業省・農林水産省の農商工連携プロジェクトによって大規模な植物工場の立ち上げが行われた。愛媛大のほか、大阪府立大、千葉大などを中心に、いくつかの研究機関に植物工場が設置されて研究が進められている。


 愛媛大学名誉教授の橋本康氏は、オランダをはじめとした先行するヨーロッパの太陽光植物工場を手本として学習し、実践していくことが大切であると説明。「農商工連携を中心として、太陽光植物工場を鋭意推進していってほしい」と話している。


高山氏が開発するSPAの新技術


 愛媛大学農学部講師の高山弘太郎氏は、SPA技術について講演を行った。高山氏は植物から出る匂いの成分の計測に、携帯型匂い成分分析装置「zNose」を使い、植物における水ストレスなどの異常を検知する手法を研究している。植物は様々な有機化合物を合成して大気中に放出しているが、ストレスの影響を受けると、その放出量(匂いの強さ)や質(匂いの成分)が変化する。高山氏は「zNose」をSPAの新技術として提案。これを用いることで太陽光植物工場での栽培を効率的に行うことができるとし、本格的な導入に向けて研究を進めていく方針だ。


 また、高山氏は前述のオランダについて穀物の自給率は日本よりも低いにも関わらず、外貨を獲得できる強い農業を実践していることに言及。「太陽光植物工場が農業をけん引している」と、SPAが重要な役割を担っているとした。日本企業も、カゴメが太陽光植物工場で農産物を生産しており、植物工場内で病気などのリスクを回避するには、SPAの手法をよりよいものにしていくことが必須となっている。

愛媛大学名誉教授
橋本康氏
  北海道大学大学院教授
野口進氏
愛媛大学名誉教授 橋本康氏   北海道大学大学院教授 野口進氏

韓国・中国の植物工場と課題


 一方、北海道大学大学院教授の野口進氏は、太陽光植物工場への期待について語った。野口氏は環境に配慮した食糧生産の観点から、太陽光植物工場が日本で注目を集めていることを紹介。環境制御がキーであるとし、SPAによるアプローチが重要だと指摘した。


 植物工場の取り組みはアジアでも注目されており、中国・韓国でも研究が進んでいる。野口氏は中国や韓国の事例を紹介。ICTに力を入れている中国では、ワイヤレスセンサーを使い、植物工場内の植物の情報を収集。自動的にホストコンピュータに情報があつまるよう、研究・開発を行っている。また、韓国の植物工場では、植物の様子を知るために遠隔地から生体情報をモニタリング。その情報を随時スマートフォンで確認することを可能にしている。


 その他、野口氏は太陽光植物工場を運営していくことの難しさについて言及した。太陽光植物工場は、外界の気象条件による変動、日照時間などの栽培環境によって生育状況も変化する。生産者はこの変動に応じて収穫量を維持しなければならない。効果的な環境制御を行うためには植物の生育状態の診断が常に必要。そのため非接触のセンシング技術を用いるなどしてデータを検出し、分析を行うことが求められる。CO2、暖房のコントロールも欠かせない。そのため野口氏は「SPAを用いた環境制御を行うことができる研究者・技術者の育成が、太陽光植物工場普及のカギを握る」と説明している。


 日本において、太陽光植物工場の大規模な農産物生産は、これから成長させていかなければならない重要な分野だ。今後の動向に注目していきたい。

(山下雄太郎)

【セミナーデータ】

イベント名
:太陽光植物工場のイノヴェーション
主催   
:日本学術会議農学委員会・食糧科学委員会合同農業情報システム学分科会
開催日  
:2013年3月18日
開催場所 
:日本学術会議講堂(東京都港区)

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