セミナーレポート

JAXAが示す新しい宇宙産業の形

JAXA産業連携シンポジウムを取材

2013/4/4

 2013年3月6日、大手町サンケイプラザにてJAXA産業連携シンポジウムが行われた。ロケットに使われる素材、機材から宇宙食まで、宇宙産業に取り組んできた様々な企業による事例の報告や、企業とJAXAとの連携などについて講演が行われた。

宇宙産業に関心のある人で埋まった
JAXA産業連携シンポジウムの様子
宇宙産業に関心のある人で埋まった
JAXA産業連携シンポジウムの様子

より重視されるJAXAと民間企業との連携


 2008年に、政府は宇宙政策に関する取り決めを示した宇宙基本法を制定したが、これは2012年に改正されている。これまで宇宙基本法で決められたJAXAの主業務は、人工衛星等の開発・打ち上げ・運用の業務などだったが、改正後は民間事業者へ援助や助言を行うことも、求められるようになっている。つまり、これまで以上にJAXAと民間企業の連携は重要視されるようになったのだ。


 JAXA産業連携センター長の佐藤隆久氏は、講演でJAXAの活動に関する宇宙産業の拡がりについて説明した。JAXAは人工衛星の打ち上げや宇宙ステーション建設など一般的にJAXAの事業として考えられる「宇宙開発」を行う一方で、こうした技術開発の過程で発生した様々な成果を、社会へ還元する事業にも取り組んでいる。最先端技術の開発と社会への還元により、日本国民の生活の質を上げることもJAXAは目標の1つとして掲げている。


 例えば、いまや大半の車に積まれている「カーナビ」や多チャンネルを視聴可能にする「BS・CSのアンテナ」などは、宇宙産業がきっかけで誕生しており、現在は生活に欠かすことができない技術として、日本社会に浸透している。


 佐藤氏はさらなる民間企業の参入について「『力をつけ』『敷居を下げ』『マーケットの規模の拡大』という3つが産業連携事業の核である」と話す。最新技術を開発していくために、技術力を高め「力をつけ」ることは当然だが、民間からの宇宙事業参入には、いくつかの課題がある。


 1つは数多の企業で開発されている技術が、そもそも宇宙事業で求められている技術かどうか、理解がないということだ。例えば素材を軽くする技術、耐熱の技術、繊維に匂いが付かなくなる技術など様々な技術が、様々な形で宇宙事業として応用できる可能性を秘めている。しかし、企業側ではその可能性を自覚していない場合が多い。


 2つ目として、仮に宇宙事業での展開を想定しても、宇宙産業の技術力が非常に高い印象があるため、提供や連携に対して企業側の敷居が高い。


 こうした課題を解決するために、JAXAでは、最終的に宇宙事業で利用できるようにするため民間企業へ助言をする産業連携総合窓口を設置するなどで「敷居を下げ」る、あるいは「マーケットの規模の拡大する」ことで、宇宙事業参入で高い利益がでるような事例を増やし参入への魅力を高める、などで民間企業との連携を促進している。


 佐藤氏は、宇宙産業で培った技術を世界のマーケットに売り出していくためまずは「はやぶさプロジェクトで開発されたイオンエンジンの販売などで、市場での存在感をアピールし、産業連携につなげていきたい」と話した。


宇宙産業の柱にしたい3つの事業


 内閣府宇宙戦略室参事官の國友宏俊氏は、講演で宇宙基本法について触れ「政府としては測位技術を利用した事業・リモートセンシング技術を利用した事業・通信放送衛星事業の3つの事業を宇宙産業の柱として育成していきたい」と展望を示した。


 測位技術は、米国の軍事目的でGPSが開発され、民生部門にも展開されている。現在は、特に軍事目的とは関係のない一般人でも、簡単に位置情報を取得できるようになった。カーナビゲーションをはじめ、空間情報を活用したビジネスが展開されており、より大きな飛躍が期待されている。


 リモートセンシング技術は、衛星から気象状況や地形の変化などを計測することで地上の状態を把握しようという技術。東日本大震災のときに地盤がどう動いたのか、津波がどうきたのかを観測するために活躍した。これまで打ち上げた衛星は一般には使用できなかったが、民間でもリモートセンシングが利用できる衛星を打ち上げ、経常的にデータをとって活用するといった事業展開を想定している。


 通信放送衛星の市場は、上の2つに比べてかなり大きい分野だ。衛星市場の7割以上は、通信放送衛星の市場であり、国内ではスカパーJSATなどの企業が20機もの衛星をもっている。しかしこの内、日本製の衛星はわずか1機のみで産業競争力がないことを露呈している。通信放送衛星の分野では競争力をつけさせることが急務だ。


 國友氏は「宇宙産業は年率数パーセントの割合で伸びている成長分野」として、さらに産業の育成に専念していくという政府側の考えを述べた。

内閣府宇宙戦略室参事官
國友宏俊氏   マルハニチロホールディングス中央研究所
分析検査室課長 岡本清氏
内閣府宇宙戦略室参事官 國友宏俊氏   マルハニチロホールディングス中央研究所 分析検査室課長 岡本清氏

企業における宇宙産業の事例


 さらに宇宙産業に関わった民間企業も登壇し、ロケットやエンジンなどとは、異なる角度の「宇宙事業」が紹介された。マルハニチロホールディングス中央研究所の分析検査室課長・岡本清氏は、同社が展開する日本製の宇宙食について講演した。同社では2004年に日本宇宙食の開発を開始。これまで実際にサバの味噌煮、イワシのトマト煮、サンマの蒲焼が宇宙食として採用された実績がある。


 岡本氏は「宇宙で液が飛んでしまい機械に癒着しないよう、市販されているものと比べて『とろみ』をつけるようにした」と解説。また、宇宙空間では味が薄く感じられるため、味付けを濃くしたり、換気の出来ない宇宙空間に合わせて最新の焼き器を使って魚臭さを少なくするなど、宇宙食ならではの工夫がされている。同社では、宇宙食に取り組んだことで、単純に技術的に積み重ねるだけではなく、メディアに取り上げられ認知度が高まり、イメージアップにもつながったと、宇宙事業と連携する利点について話している。


 ほか国際宇宙ステーションでは入浴や洗濯ができないため「汗のにおいが充満する」という悩みを解決した宇宙船内服用の新素材も、民間連携のたまものだ。この新素材を開発したのは繊維事業を手がける大手・東レ。


 同社スポーツ・衣料資材事業部の岡崎統氏は加工しやすいポリエステルに超微細加工技術を駆使し、繊維に消臭効果を加えることで、高い消臭性能を備えた宇宙船内服を開発に成功している。同社では、消臭性能の高い新素材を応用したスポーツ衣料用消臭素材「ムッシュオン」を開発し、一般向けのビジネス展開についても準備を進めている。


 宇宙事業を社会に還元して役立てていく取り組みは、まだ事例が少ないとはいえ、徐々に形になってきている。宇宙産業に参入する企業を増やすことによって、裾野を広げ、将来の基幹産業として成長することを願う。

(山下雄太郎)

【セミナーデータ】

イベント名
:JAXA産業連携シンポジウム
主催   
:宇宙航空研究開発機構(JAXA)
開催日  
:2013年3月6日
開催場所 
:大手町サンケイプラザ(東京都千代田区)

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その他