セミナーレポート

ICTの将来に必要な人材の条件

日本学術会議公開シンポジウムを取材

2013/2/14

 2013年1月30日、東京都港区にある日本学術会議講堂にて「ICTの将来展望と課題解決に向けて」が開催された。日本の産業における成長エンジンとして、ICT(情報通信技術)に大きな期待が寄せられている。本シンポジウムでは、こうしたICTの将来に求められる人材について話し合われた。

ICTの将来に求められる人材について
大学教授などが意見を交換した
ICTの将来に求められる人材について大学教授などが意見を交換した

東大の事例と課程博士の重要性


 東京大学教授の保立和夫氏は、同大学で2年次に行われる進学振り分け時の工学部志望者の増減について言及した。工学部全体としてはここ10年近く定員を満たしており、 2013年度の進学振り分け時には定数945名を大きく超えた992名の進学内定者が決定した。電気系学科では2005年度募集の際に定員割れが起きたがその後徐々に人気が回復し、ここ数年は定員を十分に上回る進学者を得ている。東京大学では世間で懸念されているような「学生の工学部離れ」は見られていないことを強調した。


 また保立氏は、大学院博士課程を修了した学生は3年ほどで斬新な成果を立ち上げた人材であり、修了後もまたゼロから新たな成果に結びつけられる高い可能性を有する人材であるとし、この「課程博士」号取得者の育成の重要性を指摘した。また「課程博士」号取得者の存在が、日本が目指している科学技術創造立国に寄与するとしたうえで、こうした人材が社会や企業の様々な部署に配置されなければいけないとした。


問われるデザイン力


 一方、朝日新聞論説委員の辻篤子氏は世界と日本を比較したときに、日本の工学教育の際立った弱点として「デザイン」という観点の訓練が弱いと指摘した。辻氏によると、この「デザイン」の意味は、日本語でいう「意匠」という意味にとどまらず、全く何もないゼロから作り出すプロセスのことだという。


 さらに辻氏は、米国のオーリン工科大学の事例を挙げた。この大学は昨年で創設10年目となる大学だが、1学年約80人と少人数制を掲げ、学生9人に対して教員1人の割合を保っている。また工学系の大学としては珍しく、女子学生が約45%を占めている。


 このオーリン工科大学では“デザイン力”をつけるため、学生が単に聴講する講義はほとんどなく、実験やディスカッションを行い、1年生からものづくりにかかわるなど、様々なプロジェクトを参加する。さらに4年生になると数人でチームを組み、すべて自分たちで計画を立てて1年がかりで1つのものを完成させるというカリキュラムを採用している。


 カリキュラムも教員と学生が議論しながら、どういうものにするかを話し合うなど、学生中心の姿勢を貫いているとのことだ。


 辻氏はオーリン工科大学の例を踏まえた上で「デザイン力を高めるためには、文化の違う様々な人同士が集まり、まったく言葉が通じない中で共同作業することが1つのキーになるのでは」と話している。

東京大学教授 保立和夫氏   朝日新聞論説委員 辻篤子氏
東京大学教授 保立和夫氏   朝日新聞論説委員 辻篤子氏

ICTの変化に対応する人材とは


 その他、NICT理事長の宮原秀夫氏は、ICTの現状を踏まえたうえで求められる人材について講演した。宮原氏は、2000年代にワールド・ワイド・ウェブ(WWW)が普及してから、情報量が飛躍的に増大したことを取り上げた。実際に世界のデジタル情報量が2011 年の段階でおよそ1.8ゼタバイト(ZB=1021バイト)もの膨大な量になっている。


 その結果、「膨大な情報量の処理のために制御不能によるケース、ネットワーク自体のエネルギー消費の増加などの問題が起きている」と指摘。そのためネットワークを制御可能にするためには、システムを俯瞰的に見たうえで、総合的にデザインすることができる人材が必要だとした。


 例えばシステムの性能評価について考えたときにこれまでは「容量はどれくらいか」「安定性はどれくらいの数値なのか」といった定量的なものであればよかった。しかしこれからは「このシステムは使いやすいのか」「見た目がどれほどきれいなのか」などの定性的な評価も重要視される。そのため知識や経験はもちろん、フィーリングも大切だとしている。


 そのうえで宮原氏は「日本には非常にすばらしいアプリケーションをつくるなど、各レイヤーにおいては非常に有能なプレイヤーがいる」としながらも、技術を総合的にみてシステムの性能評価をする人材を育成しなければならないとした


 ICTの進歩は恐るべき速さで進んでいる。その進歩に対応することは必然の流れだ。日本の工学教育にも、ICTの進歩に対応できる人材が強く求められているのを感じられるシンポジウムだった。

(山下雄太郎)

【セミナーデータ】

イベント名
:ICT(情報通信技術)の将来展望と課題解決に向けて」
主催   
:電気電子工学委員会通信・電子システム分科会
開催日  
:2013年1月30日
開催場所 
:日本学術会議講堂(東京都港区)

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