セミナーレポート

これからの数学力をどう鍛えるか?

2011年に行われた大学生数学基本調査の分析

2013/2/12

 「『大学生はだめだ』と切り捨てるのではなく、彼らの学ぶ環境をどうしたらいいかを考えるべき」と述べたのは、国立情報学研究所の新井紀子氏だ。

 2013年1月16日に開催された国立情報学研究所の市民講座「大学生の数学力、なう」では、2011年に日本数学会が全国規模で行った大学生の数学力調査「大学生数学基本調査」の結果について、詳細な解説がなされた。

多数が参加した「数学力、なう」の会場
多数が参加した「数学力、なう」の会場

分析力


 2012年2月に発表された大学生の数学力を調査したデータは、各メディアが大きく取り上げた。全国48大学、約6000名の大学生を対象に「ここまで広範囲に大学生の学力を調査したのは初めて」(新井氏)だった。現在の学生がどの程度の力を持っているか、興味深いデータが並んだ。


 まず紹介されたのは「平均の定義とそれに絡んだ結論について、ロジカルに考えられているかを問う」問題についてだ。正答率は76%程度と、期待されていた正答率90%を下回った。


 この結果について新井氏は「平均がどういうものか、どうすれば平均を求められるかを答えられる人は、諸外国に比べて日本は多い。しかし、これだけでは『付加価値』を生み出す能力にはつながらない」と述べた。


 平均を求めるところまでは、それこそExcelに数字を打ち込めば計算してくれる。ここで出された数字がどのような意味を持つか、それを理解しなければ、いわゆるデータを分析することができない。分析する力を持つ「企業の求めている人材」(新井氏)にマッチしない学生が出てきている、ということだ。

平均についての問題の正答率を解説する新井氏   来場者からの質問も活発に行われた
平均についての問題の正答率を解説する新井氏   来場者からの質問も活発に行われた

「国語が得意」なのに論理的に解答できない


 また、「偶数と奇数を足すと奇数になる」という証明を求める問題。


「整数abがあるとして、偶数を2a、奇数を2b+1とする。
上記2つの整数の和は2a+(2b+1)=2(ab)+1。
奇数の定義は2で割り切れない整数。
そしてabは整数であるから、偶数+奇数=2(ab)+1の解は2で割り切れない、すなわち必ず奇数になる」

というのが正答例だ。


 しかし実際の回答では「2+1=3、4+3=7だから」など、一部の例を示すだけで、証明になっていないものも目立ったという。


 ほかにも「y =-x2+6x-8のグラフがどのような放物線か、重要な特徴を文章で答える」という問題では、論理的説明力のなさが目立った。「上に凸である」「頂点の座標は(3、1)である」などが正答例。だが、こうした客観的な性質と、「大きなグラフ」「急なグラフ」など主観的な印象との区別ができていない回答が数多くあったという。


 これについて、「今回の調査では、数学特有の技術はあまり問うていないので、論理的読解力がある『国語が得意な学生』のほうが有利だろうと予測した。しかし、ほとんどの問題で、国語が得意であることと正答の間に正の相関は見られなかった。逆に負の相関さえ見られたことが残念だった」と新井氏は述べた。


「若い世代に養われる」という意味


 調査の結果、理系・文系よりも、大学の偏差値が下がるにつれて、正答率が下がることも明らかになった。また、マークシート方式だけでしか受験をしていない学生は、記述式の試験を経験した学生よりも正答率が下がる傾向にあった。


 数学の必要性について新井氏は「理系の人だけが数学をすればいいというわけではない」と前置きしたうえで、「市民として物事を判断するうえで、数学的リテラシーは欠かせない。たとえば、(防潮堤やビル、原発などの)人工物がどういう仕組みで存在するのか、論理的な思考があれば、専門家にも鋭い質問をすることができる」と述べた。


 また、この調査を公表してから「大学生がこんなに勉強できなくてどうする」といった声も聞かれたという。


 これについて新井氏は語気を強めて否定する。「私たちは、いわば彼らに稼いでもらって老後の年金を期待する身。彼らの学力低下を責めるばかりでは何も得られない。現状を冷静に見つめた上で、どういう環境を整えれば彼らを世界と渡り合える人材へと育成できるのか、知恵を絞るべきだ」と強調した。


 新井氏は、調査結果を分析したうえでの提言で、「コストがかかっても記述式の試験を増やした方が望ましい。数学に関しては“アラカルト”の選択式ではなく、必修にすべき」と述べた。


 記者もそうだったが、様々な計算式などを積み重ねて学んでいく数学は、途中で分からなくなるとどうしても脱落してしまう。金銭的・人的コストがかかるものの、これを解消するような学習環境が整備されれば、リテラシーの高い人材が増えていくだろう。

(中西 啓)

【セミナーデータ】

イベント名
:国立情報学研究所 市民講座「大学生の数学力、なう」
主催   
:国立情報学研究所
開催日  
:2013年1月16日
開催場所 
:学術総合センター(東京都千代田区)

HH News & Reports 関連おすすめ記事

「博士」人材の育成現場(2013/1/10)

【関連カテゴリ】

その他