セミナーレポート

国際的な産学連携を推進する為に

国際的な連携への試みと課題・現状

2013/2/7

 大学などの研究機関と、民間企業の連携、すわなち「産学連携」は研究結果を経済活動へ還元する経路としてその利用が度々議論される。東京大学の産学連携本部は1月16日に、主に東京大学と海外の企業の連携を主題に「新たなる産学官連携の地平を求めて」と題した報告会を開催。“学”の立場を中心に講演が行われた。

海外との連携はメリットもデメリットも大きい
海外との連携はメリットもデメリットも大きい

国境をまたぐ産学の連携


 東京大学産学連携本部の特任研究員・筧一彦氏は、東京大学の国際産学連携の実績と現状について解説した。国際的に連携を進めていくために東京大学ではまず、海外企業の日本法人と接触。該当企業のニーズを把握するための情報交換などを行っている。「特に化学、素材、バイオへのリクエストが強い」(筧氏)ため、そのような実情を理解・把握した情報発信も必要となるだろう。


 こうした情報収集・発信ほか、海外出張への支援など地道な活動が成果を結んでいるのか、研究件数は2006年から徐々に右肩上がりになっている。グローバルな市場で活躍し、存在感を示すためにも、今後はさらに国際的なニーズに応じた研究推進が求められるだろう。


 産学連携本部の岡本明彦氏は、米国のボーイング社、スイスのネスレ社などとの「国際連携の実例」を元に、国際企業とのパートナーシップの構築手順や、国際連携を行う際の「手助け」をするProprius21の活動について講演した。


 大学などの学側と企業などの産側が共同で研究を行う場合、企業と特定の研究室や教授などの、個人的な交流を元に行われる場合が多い。しかし、そのために研究課題・目標から責任の分担など、不明確なケースもあり、後々問題に発展することもある。


 そのため東京大学は、大学と企業の間に入り、研究のテーマや目標、守秘義務、知財の権利や報酬・成果などについて事前に調整をする「Proprius21」プログラムを推進。こうしたプログラムを挟むことで「信頼関係の構築」「共同研究の創出」「情報提供・交流の場の提供」「複数部門にまたがる骨太の連携構築」などがスムーズになり、最終的には「社会を変革するような、イノベーションを創出するような国際的なプロジェクトを目指す」(岡本氏)とした。

共同研究・受託件数の推移(出典:東京大学産学連携本部)
共同研究・受託件数の推移(出典:東京大学産学連携本部)

課題点は…


 一方で「国際連携」を進めるにあたって、様々な課題も存在する。その一番の課題が「技術の流出」だろう。すでに日本の産業においては家電や製鉄などの技術が韓国などの新興国に流出し、市場として追い上げあるいは、逆転されるという現象が起きている。こうした状況から、海外との連携に際しては「技術」に関する権利などの扱いについては慎重になる必要がある。


 同じく産学連携本部の知的財産部からは、知的財産統括主幹の丸岡俊彦氏が登壇し、海外への特許出願や知財にまつわる契約の違いなどについて話した。国際連携を進めていくためには、当然知財の取り扱いについて神経質にならなくてはいけない。だが、企業がある国によって、企業側の交渉力が研究側に比べて極めて強かったり(韓国)、ケースバイケースで変わってくる(中国)、研究費用の持ち出し比率で権利が変わる(ドイツ)など、全く環境が異なってくるため、一筋縄ではいかない。また学側、つまり大学によっても権利の譲渡や成果、利益配分などの要求はまちまち。こうした学と民を結びつけ連携を図っていくためには、事前のより綿密なすり合わせが求められるだろう。


 最後に行われたパネルディスカッションでは、東京大学における大学発ベンチャー企業の支援と課題、今後について話し合われた。東京大学では「知的創作成果を社会へ還元するためのひとつの手段として、起業による発明の事業化も積極的に活用する。起業を支援するために、技術移転関連事業者との連携を行う」と2004年に定めた知的財産のポリシーでも明言している。


 また民と連携せずに、学内で起業することで研究成果を社会に還元する手段もある。以前、「学業は神聖なもの」とする考えがあり、研究による成果で収益を得ることは、受け入れられなかった。近年は、大学内における起業文化を醸成するための取り組みや、起業に関する人材・金銭などの補助、起業家の育成などが行われることで学内での起業は積極的になり、より直接的な研究成果の社会還元も進められている。


 東京大学は日本における最高学府である。その最高の知識を持つ集団の研究成果が社会へ還元されるためにはまず民との連携が最短経路とも言える。地下資源が少なく、こういった知識や技術がもっとも大きなファクターとなる日本にとって、今後、研究と社会の結びつきはさらに求められるようになるだろう。

(井上宇紀)

【セミナーデータ】

イベント名
:新たなる産学官連携の地平を求めて―国際産学官連携活動の展開
主催   
:東京大学産学連携本部
開催日  
:2013年1月16日
開催場所 
:東京大学本郷キャンパス(東京都文京区)

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