セミナーレポート

東大生産研のITS専門講座を取材

自動運転、オンデマンドバスの現状

2013/2/4

 渋滞のない道路、自動車の自動運転、利便性が増したオンデマンドバス…。ITを使った高度な道路交通システム「ITS」による、快適な交通インフラの実現に向けて研究を重ねている東京大学生産技術研究所(生産研)の先進モビリティ研究センター(ITSセンター)は、「社会人のためのITS専門講座」を開催した。

 講演の合間に研究室の見学ができることもあってか、都内が記録的な積雪に見舞われた翌日にもかかわらず、大勢の参加者が聴講した。

本物のトラックキャビンを利用したドライビングシミュレータ
本物のトラックキャビンを利用したドライビングシミュレータ

自動運転でトラックの隊列走行


 車独特のにおい、シートから小刻みに伝わる振動。実際のトラックの運転席を使い、目に見える部分をモニターで囲み、エンジンの振動などが細かく再現しているドライビングシミュレータの座席に座ってみると、運転シミュレーションゲーム以上のリアル感だ。しかし、この設備で行われているのは、トラックを隊列で自動走行させた時、ドライバーがどう反応しているか、などを調べる実験である。


 4台のトラックを時速80km、車間距離4メートルの隊列で走らせると、単独で走行するよりもCO2排出が15%程度削減されるという。ただ、この実験を実際のトラックで行うとなると、当然危険性が増す。東京大学生産技術研究所の須田・中野研究室では、自動運転による隊列走行を実用化するために、このドライビングシミュレータでトラック4台の隊列を組んでの模擬走行のほか、トラックの自動運転と手動運転の切り替えなどの実験を行っている。


 生産研の先進モビリティ研究センター長の須田義大教授は、「この隊列走行を首都高の渋滞の中で運転シミュレートすることもできる。ドライブシミュレーションと実際の道路状況を再現した交通シミュレーションの仕組みはほぼ完成した」と述べた。


 自動運転については、カメラによる白線の識別、レーザーレーダーを使ったものなどがあり、これらの情報をもとに車両制御アルゴリズムで行う。センサー類が道路をきちんと認識するかどうかは、山口県宇部市にある約30kmの専用道路で実物のトラックに機器を取りつけて走行実験を行っているという。

シミュレータの運転席。車の振動が細かく伝わる   シミュレーションを解説する須田義大教授
シミュレータの運転席。車の振動が細かく伝わる   シミュレーションを解説する須田義大教授

「バス停」のないバスで、高齢者も活動的に


 ITSは、トラックのような大型・中型自動車の自動運転技術だけではない。交通渋滞の発生メカニズムや、普通自動車の自動運転技術、環境負荷の軽減など、道路交通を快適にするための様々な研究されている。


 行きたいところを簡単に予約して乗車する「オンデマンドバス」もその1つだ。東京大学大学院の大和裕幸氏は、オンデマンドバスの意義を「人口減少を踏まえ、需要に応じて小さなバスを走らせる仕組み」と解説した。


 通勤・通学の場合、自宅から最寄りの駅まで接続する経路が利用されるため、バスもそれに合わせた路線が組まれている。しかし、高齢者の場合、行動範囲は自宅からスーパーなど周囲数キロにとどまり、このルートを結ぶバスがないのが現状だ。また、バスの運行効率も、誰も乗らないまま定刻通りに走る従来の路線バス方式では無駄が生じる。これを解決するための取り組みとして、三重県玉城町ではオンデマンドバス「元気バス」の実証実験が始められた。


 大和氏は「元気バス」の特徴を「予約時に、ユーザの行きたい場所への『到着時間』を指定できる方法を取ったこと」と強調した。


 9時20分に病院へ到着したいAさんが予約を送った場合、運行システムでは「Aさんのバス停から病院へ到着する時間」より10分間のゆとりを持たせて計算する。


 その後、同じ時間へ病院に行きたいBさんが予約をした場合、それぞれかかる時間を瞬時に計算して、「9時30分の到着はいかがですか?」と提案する。これによって予約成立や乗車率も高まってくる。


 病院に着いた後は、設置されているタッチパネル端末にICカードをかざして、難しい入力をすることなく自宅へのバスを予約することができる、という仕組みだ。


 利用者の履歴も蓄積されるので、定期的に利用している人には「明日も9時30分に病院へ行きますか?」などのプッシュ型の通知も可能になる。


 この実証実験では、それまで運航していた福祉バスと比べて利用率が高まったほか、介護予防施設の生徒数が50名から150名に増えた。それだけでなく、乗り合わせた乗客同士の距離も近いことから「みんなで温泉施設に行って、ご飯を食べて帰ってくる、というコミュニティも自然に作られた」(大和氏)という。


これからの「道」は


 玉城町の「元気バス」は成功事例となっているが、現在は実証実験で無料のため、本格運用をした時に同じ結果が出るかどうかは未知数だ。自動運転システムも、ドライバーの状態が課題となる。何もせずに前を見続けていると、必ず寝てしまう。また、自動運転については「誰も乗っていない車が公道を走る」ことにもつながってくるため、技術開発もさることながら法整備も必要になってくる。


 しかし、高齢化という環境面や、経済活動を維持して人口減少を乗り切る答えの1つが「ITS」となるのは確実だろう。

(中西 啓)

【セミナーデータ】

イベント名
:社会人のためのITS専門講座
主催   
:東京大学生産技術研究所 先進モビリティ研究センター(ITSセンター)
開催日  
:2013年1月15日
開催場所 
:東京大学生産技術研究所(東京都目黒区)

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