セミナーレポート

企業・地域で必要とされる博士人材の育成

アグロイノベーション研究高度人材養成シンポジウムを取材

2013/1/10

 東京農工大学アグロイノベーション高度人材養成センターは2012年12月5日、中央合同庁舎4号館にて高度人材養成シンポジウムを開催した。地域や産業界で博士人材が活躍するために必要なことについて講演が行われた。

博士号を取得した人材の活用について話し合われた
シンポジウムの会場の様子
博士号を取得した人材の活用について話し合われた シンポジウムの会場の様子

アグロイノベーション人材育成事業の成果


 東京農工大学は2008年度から5年間にわたってアグロイノベーション高度人材養成事業を実施している。これは同大学を含んだ農学研究科のある18大学が連携し、食料や環境などに関する技術革新や産業創出を行う優れた人材の養成を目指すといったもの。


 公募方式によって事業への参加を募り、5年間で204名のポストドクター(ポスドク)*1 が参加。その中から選抜された78名が、企業などにおけるインターンシップを受講。受け入れ先に就職した博士号取得者が30名を超えているといった成果が挙がっている。


 アグロイノベーション高度人材養成センター・センター長の西河淳氏は、同事業について講演した。


 近年では大学院で専門知識を身につけ博士課程を修了した学生が、研究職につけず行き場を失うといった問題が指摘されている。西河氏は「博士課程の付加価値が不明確になっている」と説明。博士の価値が向上すれば好循環につながるとし、公益性・倫理観を兼ね備えた人材の育成が不可欠だとした。そしてポストドクター以外にさまざまな道があることを学生に理解してもらうことが大切だと話した。


 さらに西河氏は同育成事業によって、学生が長期のインターンシップで評価され、その企業に就職していると紹介。学生側はイノベーションへの意欲やコミュニケーション力がついたのが実感できたという。また博士を採用したことのない企業にとっても、優秀な人材が博士課程にいることに気が付き、インターンシップを経てから企業に就職するという制度を社内につくるなど変化が表れてきているとのことだ。


 西河氏は「今後もこの事業が学生と企業のコーディネート役や情報のハブとなることで、博士課程の人材の活用につなげていきたい」と期待を寄せた。そしてこれからも同育成事業のネットワークを発展させ、全国規模の連携にしていきたいと意気込みを語った。

アグロイノベーション高度人材養成センター
センター長 西河淳氏   内閣官房地域活性化伝道師
木村俊昭氏
アグロイノベーション高度人材養成センター センター長 西河淳氏   内閣官房地域活性化伝道師 木村俊昭氏

地域で求められる人材の条件


 また、内閣官房地域活性化伝道師*2 で東京農業大学教授の木村俊昭氏は、地域において博士人材が求められている現状について触れた。木村氏は北海道をはじめ、全国各地の地域活性化について協力・支援を行っている。自治体の総合計画や産学連携における新製品の共同開発、地元企業と誘致企業の連携サポートなど「地域の活性化」の現場に幅広く関わっており、NHK『プロフェッショナル』で取り上げられるなど注目を集めている。


 木村氏は自身が携わる地域振興について考えた場合「地元の主な産業が何で、それをどれだけ強くすることができるかに尽きる」と説明。自分の街の産業がどのような状況にあるか把握し、それに関連する地元企業を支援するなり、起業するなりしていかなければ街は元気にならないとした。そのため、農業をはじめ専門性をもち、客観的に「こうしたほうがいい」と言えるような分析を行うことができる人材=博士号の取得者が街づくりの現場に必要だと訴えた。


 例えば、北海道釧路町。地元で水揚げされる仙鳳趾(せんぽうし)牡蠣をすべて築地に送っていたJF昆布森漁業協同組合は、インターンシップで受け入れた学生や大学と共同で、地元に牡蠣を販売した場合の経済波及効果を分析。結果、8割を築地に送り2割を地元で販売することで、築地で販売する牡蠣の値段も上がり、地元での知名度向上や収益確保につなげるといった効果を得ている。


 それを踏まえたうえで、木村氏は地域を活性化のためには「まず現場を知ることが大事」と指摘。博士課程の学生が、企業や自治体の現場でインターンシップを経験することで、何が問題で何が求められているか、さらに自分は何が得意なのかを知ることができるとしている。


求められる博士人材の専門性


 しかし、このように街づくりには専門的な知見が必要とされるものの、自治体の職員は一般職による採用のため、地域振興課のような街づくりに関する部署に専門性の高い人材が必ずしも配置されるとは限らない。しかも人材を育てても2、3年で部署が異動することもよくあるという。そのため木村氏は「街づくりに関する部署に専門的な人材を最低でも5~10年は配置してほしい」と自治体に提案しており、博士号取得者のような専門家の活躍する場が十分存在すると話している。


 東京農工大のアグロイノベーション高度人材育成事業のような取り組みは、博士課程の学生が研究職以外でも活躍できるきっかけになる。また木村氏の講演も、博士の存在が地域活性化にとってどれだけ重要かを確認することができた。

(山下雄太郎)

注釈

*1:ポストドクター
博士号取得後に任期のある大学の研究職に就く者。

*2:内閣官房地域活性化伝道師
地域活性化の取り組みを実質的なものにしていくためにサポートを行う専門家。内閣官房が選定し、派遣を行う。
農林水産業や観光、地域医療など8つの分野の専門家で構成されている。

【セミナーデータ】

イベント名
:アグロイノベーション研究高度人材養成シンポジウム
主催   
:東京農工大学アグロイノベーション高度人材養成センター
開催日  
:2012年12月5日
開催場所 
:中央合同庁舎(東京都千代田区)

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