セミナーレポート

法学の観点からITを見るフォーラム

情報技術とほかの学問の交流とイノベーション

2012/12/3

 IT技術は普及すれど、その先の有効活用や産業創出という「イノベーション」というと上手くいっているとは言えない。またITの普及により生まれた新たに社会な問題もでてくるようになった。

 2012年11月16日に日本学術振興会産学協力研究委員会は学術フォーラム「ICTを生かした社会デザインと人材育成」を開催。情報技術と、ほかの学問などの交流、特に法という文系の立場と情報という理系の立場の相違と歩み寄りなどについて識者が講演を行った。

会場の理系・文系比は7:3ほどだった
会場の理系・文系比は7:3ほどだった

理系・文系の壁


 本講演では複数の専門家がパネルディスカッションを行ったが、そのうち文系の講演者が半分いるという、ITに関する講演会としては異色のものとなった。基調講演を行った岡村久道氏も肩書は「弁護士」と文系の人物だ。


 岡村氏は、先日起こったPC遠隔操作の誤認逮捕事件について「2秒で300文字を一心不乱に打ち込んだ」という、普通では考えられないような内容の上申書を提出しており、それを検察官のみならず、家裁の裁判官すら不審に思わなかったことを指摘。「捜査のあり方に反省すべき点はあるが、『ICT』と聞いただけで(警察側が)思考停止状態になってしまうのでは?」(岡村氏)


 ほかにもセキュリティの常識と世間の常識のずれにより起こった事件、システム側が求める社内規定と一般社員側の意識のずれでおこりうる問題を例示し、文理のかい離についても課題を提示した。また、近年国内の家電メーカーが韓国などのメーカーに追い上げ、あるいは追い越されている点についても“プロデューサー的な人材の不足”に原因を求め「『IT人材』と言っても社会デザイン、成長戦略を考えると理系だけに限られるべきではない」とした。

情報に関する主な法律例
情報に関する主な法律は近年ようやく整備されてきたが十分というわけではない

法学と…


 パネルディスカッションで登壇した情報セキュリティ大学院大学教授の林紘一郎氏も、法とITという観点から講演を行った。ITは情報技術の略であり、その核は「情報」にある。しかし情報は実物がないため法的にはあやふやに扱われてきたという。


 「無形のものが現行法の対象にならないというのは、電気が良い例です」(林氏)。電気は無形なので当初窃盗が採用されなかったというのは有名な話。同じように「情報」も無形のため法的な扱いは難しいと語る。情報の窃盗や違法の情報の取り締まりにはそれぞれ該当する法律を作って対応をしているが、常に後手後手だという。


 さらに情報に関する法的な取り決めをする場合、実物が存在することが前提である「所有権」をどうするかなどには、情報学のみならず経済学的な知識も必要となってくる。


 ところが「(法曹界の)外部からは法律は専門家のもので素人にはわからないと感じさせる壁があり、内部からは法律の論文は法律の作法で書かねばならないという壁もある」と林氏は、法律を決める側とほかの学問とのかい離を指摘する。


 「アメリカでは法と経済学、法と社会学、法と技術など多彩な学際研究が一般的である」(林氏)。適切な法の制定していくためにも、特に移り変わりの早い情報関係の法制定については、枠を超えた研究が求められてくるだろう。


 ほかにも、パネルディスカッションでは「民間企業との交流によるイノベーション」「交流による社会変化などへの感度の強化と、感度の強化を評価する制度」などについて意見交換が行われた。そちらでは、学問間のみならず、産学の連携による技術革新、あるいは保守的になってきている“学”側がもっとリスクを取れるような体制を作っていくことが成長を呼ぶ、というような意見が出た。文理が交流する今回のような会議が行われることで社会的な問題の解決やイノベーションが促進されることに期待したい。

(井上宇紀)

【セミナーデータ】

イベント名
:ICTを生かした社会デザインと人材育成
主催   
:日本学術振興会産学協力研究委員会
開催日  
:2012年11月16日
開催場所 
:日本学術講堂(東京都港区)

【関連カテゴリ】

法律対応・管理統制