セミナーレポート

ビッグデータの幅広い可能性に迫る

様々な社会システムの応用方法

2012/11/26

 情報技術の発達により、日々大量の情報が生まれてくる。しかし、あふれてくる大量の情報がありながらも、それらを生かす術が確立しないまま、情報は氾濫し続けている。こうした中、科学技術振興機構(JST)は「大量データにもとづく未来社会のデザイン」と題したシンポジウムを開催。幅広い分野から専門家をよび、社会のあらゆる分野に大量情報を生かせる可能性について講演を行った。

公立はこだて未来大学の学長・中島秀之氏
公立はこだて未来大学の学長・中島秀之氏

社会システムへの貢献


 「情報処理技術は社会の仕組みを根本から変える力を持っている」と話すのは、公立はこだて未来大学の学長・中島秀之氏。基調講演として登壇した中島氏は「現在行われているIT化は、以前の仕組みをITに置き換えただけであり、ITの可能性を十分に生かしていない」と続ける。


 ITが貢献できる社会システムデザインとして「社会シミュレーション」や「知識の共有」「電子政府」「物流」などを中島氏は列挙した。その中の「物流」において、50%以上がカーナビの情報を利用すると、カーナビが指示した「空いている経路」に車が集中するためかえって効率が悪くなってしまうという問題点を例示。問題を解決するため、カーナビをネットワークに接続させることで、広範囲の交通状況を予想する「大域カーナビ」の構想を示した。


 しかしこのようにITを社会にシステムを導入する場合、利便性・安全性・個人情報保護をそれぞれどの程度重要視するかが問題になる。安全性や個人認証を強めると利便性が損なわれる。個人認証を弱めたり、利便性を高めると安全性が損なわれたりする…などと3者は同時に成立させることができない。


 そのため、ITを社会システムに応用していくためには、それぞれの社会システムにあった適切な「程度」を、議論していく必要があるだろう。

東京大学大学院教育研究科教授の三宅なほみ氏   早稲田大学文学学術院教授の東浩紀氏
東京大学大学院教育研究科教授の三宅なほみ氏   早稲田大学文学学術院教授の東浩紀氏

「学び」の質を上げる


 東京大学大学院教育研究家教授の三宅なほみ氏は「学び」の質を上げるためのデータ収集と分析、評価プロセスについて、講演した。三宅氏は「人がいかに学ぶか」について解明をするために、大量データを用いて、工学的に検証・分析している。


 「『いい学び』の分析なくしては『いい学び』がどういうものかがわからなが、現在の学期末ごとの試験や入試では間が空きすぎる」と話す。つまり、『いい学び』を分析するためには、現在よりもこまめな「学びの効果」の分析が必要になってくる。


 そこで、三宅氏は自身が提案している「知識構成型ジグソー法」について解説。この「知識構成型ジグソー方式」とは、例えば「A」という解答を導き出すために必要な資料1、2、3を用意し、生徒には好きな資料を1つだけ読ませる。その後、同じ資料を読んだ3グループが個別で話合いをすることで知識を補完しあった「エキスパート」を作る。最後に1、2、3それぞれのエキスパート同士が話し合うことで解答「A」を導き出す…という方法だ。


 「(知識構成型ジグソー法だと)授業前後で考え方の違いがわかり、会話のデータを収集することで学びの過程を探ることができる」(三宅氏)。実際に教育の場に取りいれた実験も行われており、目標の達成度や個人個人の納得度などが非常に高く、次の学びへの動機づけになっているという。「今後は発展させて、社会人の学びにも応用を期待したい」(三宅氏)と展望を示した。


ルソーの思想がIT技術と融合!?


 早稲田大学文学学術院教授の東浩紀氏は、ジャン=ジャック・ルソーの『社会契約論』に記されて、当時は存在を確認できないと言われた「一般意思」を、IT技術を使うことで再現できる可能性について熱弁した。


 「一般意思」とは、ルソーが政治書「社会契約論」の中で語った人間の意思の形を示す言葉。東氏はこれを「一切のコミュニケーションを取らない状態で出した個人の意思」と定義した。ルソーは、国民全体の一般意思に従うのが政治の理想とも話すが、ルソーが社会契約論を執筆したのは250年前。250年前に、国民全体の「一般意思」を実際にどう可視化して、さらには政治に利用するかという点においては、適切な方法が見つかっていなかった。


 しかし東氏は「長年のあいだ不可視だった一般意思が、SNSなどのITツールによって可視化してきている」と指摘する。こうして近年になってIT技術によって可視化された一般意思を東氏は「一般意思2.0」と名付け「民主主義の新しい形を実現できる可能性がある」とした。


 一方で「可視化された一般意思は国民の感情そのものだが、その意見をそのまま政治決定とすることはできない」と警鐘を鳴らす。近年の領土問題に関するツイートのようなネットに氾濫する過激な意見も国民の感情でそのものではあるが、これを鵜呑みにすることは難しい。そのため「政治家がSNSなどに現れた国民の意思をそのまま政治に反映するのではなく、国民の意思をある程度の“制約条件”とするような政治」が新しい民主主義の形になるのでは、と提言した。


 すでにインフラとして浸透したITには様々な用途が考えられる。今回の講演のように教育や政治への応用というのはその可能性を強く示唆した。ITが社会に向けて果たす課題の議論として引き続きこのような検討が行われることに期待したい。

(井上宇紀)

【セミナーデータ】

イベント名
:情報学による社会のデザイン~健全でスマートな社会システムに向けて~
主催   
:独立行政法人 科学技術振興機構ほか
開催日  
:2012年11月8日
開催場所 
:一橋大学一橋講堂(東京都千代田区)

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