セミナーレポート

災害時における資料保存の重要性

第6回資料保存シンポジウムを取材

2012/11/8

 情報保存研究会(JHK)、日本図書館協会は2012年10月22日、第6回資料保存シンポジウムを開催した。東日本大震災時における文化財レスキューの活動などについて説明が行われ、非常時に資料を守る取り組みについて講演が行われた。

東京国立博物館学芸研究部 
神庭信幸氏
東京国立博物館学芸研究部
神庭信幸氏

文化財レスキューと資料保存の取り組み


 東京国立博物館学芸研究部保存修復課課長の神庭信幸氏は東日本大震災における文化財レスキューと博物館の役割について講演した。文化財レスキューとは、震災などの非常時に文化財資料を救出し、修復を行う活動のこと。阪神大震災時では、文化庁の呼びかけに応じた大学や国立機関の研究者が中心となって文化財レスキューが発足し、資料の修復活動が行われ、学会を中心にさまざまな角度から検証が行われていた。


 そして東日本大震災時の対応にもこの活動が生かされることになる。2011年4月に東日本震災におけるレスキュー委員会が発足。被災県に現地本部を設置して、文化財を収集・修復する作業が行われた。なかでも今回の震災では石巻文化センターのレスキュー活動に多くの人員を配置。収蔵品件数が10数万点と他の施設に比べて圧倒的に多い同センターの文化財の収集・修復にあたっている。


 しかし、このレスキュー活動は7月に入ると、気温の上昇とともに作業環境が悪化する。一時保管場所となる小学校などで文書や雑誌、木製民具に大量のカビが生じるからだ。他にも、海水につかった資料が急速に乾燥することによって生じる変形や亀裂が発生する。そのため、塩分の除去をはじめ、輸送して冷凍保存して劣化の進行の抑制する「安定化処理」を迅速に行っていく必要がある。


 また、被災した資料は、水分やそこに含まれる汚染物質がその後の保存状態に大きな影響を及ぼす影響が高い。そのため、レスキューの際にはそうした影響を被りやすい資料から優先的に救い出し、その後の保管環境を迅速に整備しなければならない。こうした文化財における「トリアージ」については紙資料より蝶などの生物標本の方が影響大であるため優先して修復しなければならないと神庭氏は説明している。

東北大学災害科学国際研究所准教授
佐藤大介氏   葛飾区郷土と天文の博物館学芸員
橋本直子氏
東北大学災害科学国際研究所准教授
佐藤大介氏
  葛飾区郷土と天文の博物館学芸員
橋本直子氏

震災前からの資料保存ネットワーク


 また、東北大学災害科学国際研究所准教授の佐藤大介氏は災害に備えた歴史資料の保全に関して講演を行った。宮城地区でこれまで「どこの家に」「どのような歴史資料があるのか」という事前のデータがほとんどなかった。しかし2003年の宮城県北部連続地震を境に資料保存に対する取り組みが本格化。2007年に被災地歴史レスキューを現地法人化し、古文書の所在リストの作成に着手してきた。そして今回の東日本大震災において事前に調査したものと照らし合わせてレスキュー活動が行われることになった。


 現在も応急処置を進めているところだが、古文書の保存場所のなかにはコンタクトの取り方がわからないという個人宅もあり、それによって失われた資料も多い。したがって、災害前の地域における関係性が資料を守るための生命線になる。そこで資料保存を行政に任せるのではなく、資料を保存している個人宅や機関が連携して、お互いが支援するようなネットワークを普段から作っておくことが必要となる。「資料保全に関して誰でも取り組めるという“間口の広さ・敷居の低さ”、それに加えて“自分たちが参加をして守るという意識”が、被災から資料を守る」と佐藤氏は力を込める。


 また、佐藤氏は震災前の資料をデータとして残しておくことの重要性を強調した。その際、扱いが簡単で安価なコンパクトデジタルカメラを使い、普段から内容情報を保存しておくことを奨励。しかも普段からバラバラに行うのではなく、ある程度計画的に取り組んでいくのが望ましいと指摘した。例えば仙台市のある個人宅でデジタルカメラ4台をつかって2日間で行うといった具合だ。


 資料をデジタル化するためには、保存の問題としてデータ自体の脆弱性や、資料の紙質や寸法、色などについてどのように保存するのかという課題も多い。しかし次の災害がいつ来るかわからないため、残された時間はあまりないのも事実。そのため「完璧な方法でなければ保存しない」のではなく「どんな形でもまずは記録しておく」という発想が大切だとしている。


関東平野の歴史災害


 また、葛飾区郷土と天文の博物館学芸員の橋本直子氏は関東平野における歴史災害について検証した。関東平野では18世紀以降、死者約1万人が出た元禄地震(1703年)や死者7000人以上となった安政江戸地震(1855年)などの大規模な震災が起きており、津波による被害も確認されている。


 さらに橋本氏は1923年に起きた関東大震災の被害に言及した。関東大震災では神奈川県西部および千葉県の房総地域において、地震の影響やその直後の大雨により、土石流などによる土砂災害が多数発生している。さらに東京湾沿岸部の干拓や埋め立て地、相模川・荒川・利根川などの河川沿いの低地から地盤の液状化がおこり、地盤の陥没や地割れ、傾斜、地下水の噴出などが起こっている。


 橋本氏はこうした過去の災害による被害を振り返ったうえで「多くの災害は避けて通れない、しかし我々が生活する土地の履歴を知り、災害からの教訓を未来に継承していくことが大切だ」と意見を述べた。


 震災の多い日本で、文化財資料を守り抜く活動は必要不可欠だ。今回のセミナーでは、実際の資料の救出作業は困難のため、少しでも普段からネットワークを築いておくことが重要だということを痛感した。今後もこうしたシンポジウムで資料保存に関する情報が公開され、少しでも活動への理解が得られることを切に願う。

(山下雄太郎)

【セミナーデータ】

イベント名
:第6回資料保存シンポジウム
資料保存の最新事情―さまざまな取り組みの中から―
主催   
:情報保存研究会(JHK)、日本図書館協会
開催日  
:2012年10月22日
開催場所 
:東京国立博物館 平成館(東京都台東区)

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