セミナーレポート

ビッグデータを都市の活性化に生かす

情報処理学会主催「ビッグデータとスマートな社会」第3回を取材

2012/10/18

 情報処理学会は2012年9月25日、「ビッグデータとスマートな社会」第3回を開催した。都市におけるビッグデータの活用について講演が行われた。ビッグデータの都市マネジメントへの応用に関心をもつ聴講者で会場は埋まっていた。

会場には都市マネジメントに
関心をもつ聴講者が集まった
会場には都市マネジメントに 関心をもつ聴講者が集まった

ビッグデータを活用したまちづくり


 都市はビルなどの建造物や様々なインフラのほかに、教育や福祉などのその都市に生活する人間の活動、さらには身近な人たちによって形成されるコミュニティや組織など様々な要素が絡み合っている。こうした都市の地域づくりや市民サービスに、購買記録や検索記録など個人に関する情報などのビッグデータを活用し、きめ細かなサービスを市民一人ひとりに提供していこうという動きが注目されている。


 東京大学空間情報科学研究センター長の柴崎亮介教授は、日本ではGPS付きの携帯端末で位置情報などを得ることができるが、個々の企業・組織が得られる情報はまだ断片的なものであると指摘。組織・企業の枠を超えた網羅的な購買データを取得することで、企業・組織にとってはマーケティングよりも効果的なものとなり、購買者本人にとっても適切なリコメンデーション(ユーザごとに興味ある情報の提供を受けること)につながるという。


 そのため、コンビニのPOSデータや、クレジットカードの購買履歴などの「活動履歴」を各企業が連携して集約させることを提案。企業がそれぞれ個人情報を匿名化し「非個人情報」として流通させやすくすることで、より市民が充実したサービスを受けることができるとしている。


二子玉川での活用事例


 また、東京急行電鉄都市開発事業本部長の東浦亮典氏は東急電鉄の都市開発事業とビッグデータの活用について講演を行った。東急沿線では2025年までは人口が増加し続けるものの、それ以降は減少に推移すると予測されているため、高齢化・少子化を視野に入れた事業活動が必要とされている。


 こうしたなか、多くの人に「東急沿線に住みたい」と思わせるため、都心から至近距離にありながら緑に囲まれ、近年ではオフィスが増設されている二子玉川をモデルにビッグデータを利用した都市の活性化を目指している。例えば駅の改札ではパスモによって、購買履歴やユーザの事前登録情報などのログを取得。またGPS衛星を活用し、同規格電波を発信する機器を店舗の屋内に設置して位置情報を把握。こうしたログや位置情報をもとに街での行動やユーザ特性を解析することで新しい誘客手段の展開に結び付け、新たな街の魅力を発見することにつなげていくという。


 すでに大型商業施設や商店街の店など1600店舗が参加し、さまざまな情報やクーポン、ポイントなどが、スマートフォンをはじめとした顧客の携帯端末に配信されている。東浦氏は「人流・交通流などの動態データを解析することで、来住者・居住者がより快適で満足できるよう活用していきたい」と意気込みを語った。

東京大学空間情報科学研究センター長
柴崎亮介教授   東急電鉄都市開発事業本部長
東浦亮典氏
東京大学空間情報科学研究センター長
柴崎亮介教授
  東急電鉄都市開発事業本部長
東浦亮典氏

モバイル空間統計の活用


 一方、NTTドコモ先進技術研究所の荒川賢一氏は、モバイル空間統計を利用した都市マネジメントへの利用について講演した。NTTドコモ研究所では、モバイル端末の各基地局のエリアごとに所在する携帯電話を周期的に把握している。契約時のデータなどサービスを提供するために必要なデータである「運用データ」に、基地局エリア毎の携帯端末台数や端末の普及率を加味することで、人口の地理的分布を推計できる。これが「モバイル空間統計」と呼ばれるものだ。


 このモバイル空間統計によって人口の地理的分布や性別・年齢別の人口、居住エリア別の人口がわかる。ただ、この統計に使われるデータはプライバシーを保護するために個人識別性がないように処理を行い、集団の人数のみをあらわす人口統計情報にして分析しているとのことだ。


 同研究所はこのモバイル空間統計を使って、実際に千葉県柏市におけるまちづくりを目指した研究を進めている。例えば柏市ではある時間帯に、どういう地域から人が流入するかをこの統計によって把握することで、中心市街地への公共交通の不足を補うコミュニティバスを検討すべき地区を特定することができた。また、土地利用計画においては、その土地が居住エリアなのか地域の拠点となるエリアなのかという情報が必要となる。そのため土地ごとの1日の人口変動をこの統計を使って集計・分析することで、土地の有効活用につなげられるとしている。


 荒川氏は「携帯端末によるネットワークは24時間、365日日本を広くカバーしている。そのためこのモバイル空間統計が継続的で時間区分の可能な信頼できる人口統計情報となり、様々な都市マネジメントに活用することができる」と結論付けた。


 今回のシンポジウムでは実際に携帯端末の位置情報などのビッグデータを活用することで、都市をいかに快適な環境にしていけるかについて理解できた。「この街に住んで(来て)良かった」と居住者や来往者が実感できるよう、都市におけるビッグデータの活用に期待したい。

(山下雄太郎)

【セミナーデータ】

イベント名
:都市をマネジメントするビッグデータの可能性
 (「ビッグデータとスマートな社会」第3回)
主催   
:情報処理学会
開催日  
:2012年9月25日
開催場所 
:化学会館(東京都千代田区)

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