セミナーレポート

環境・ヘルスケアを支える将来の新技術

産総研が主催しスマートコミュニティに関する技術などを紹介

2012/9/13

 産業技術総合研究所(産総研)は「環境・ヘルスケアを支える将来の診断技術開発」に関するセミナーを2012年8月30日に東京都港区の機械振興会館にて開催した。将来のスマートコミュニティやヘルスケアに関する技術について企業関係者や研究者が集まり講演を行った。

東芝 スマートコミュニティ事業統括部 中川和明氏
東芝 スマートコミュニティ事業統括部 中川和明氏

東芝の取り組むスマートコミュニティ


 東芝 スマートコミュニティ事業統括部の中川和明氏は、街単位で情報インフラや電力インフラなど様々な資源の情報を横断的に把握することで、需要を予測し、リアルタイムに制御して効率的なエネルギーを循環させる「スマートコミュニティ」に関する技術について講演した。


 例えば、横浜市みなとみらい地区や港北ニュータウンなど約17万世帯を対象としたスマートコミュニティを形成する計画が進んでいる。この計画では、環境に配慮した都市づくりを目指しており、HEMS(家庭内エネルギー管理システム)、BEMS(ビル・エネルギー管理システム)、EV(電気自動車)の導入でCO2を30%削減することを目標にしているという。


 ほかにも、中川氏は中国の北京や広州では、病院を中心としたまちづくり(=メディカルタウン)の計画があると話す。震災で停電が起こると、病院では生命維持や緊急の手術など生命に関わる治療の継続が困難になる可能性が高い。しかし災害時を想定し、需要と供給の両方の面から送電調整を行う「スマートグリッド」の技術を病院にも組み込むことで、これらの事態を防ぐことができるとしている。


 中川氏はこれから都市の抱えた問題を解決する有効な手段として、目的に応じた形でスマートコミュニティを建設していくことが必要であるとし、スマートコミュニティに関する技術のニーズもますます増えてくると意気込みを示した。

日本IBM GTS事業部 菊山薫子氏   名古屋大学大学院 馬場嘉信教授
日本IBM GTS事業部 菊山薫子氏   名古屋大学大学院 馬場嘉信教授

「きれいで安全な水」を確保するために


 「効率的で人体に負担の少ない資源の使い方」は、電気に限らず「きれいで安全性な水」の確保についても必要不可欠な考え方だ。日本IBM GTS事業部の菊山薫子氏は、先進国でも下水の不備など深刻な「水」の問題を抱えていると指摘。9億人が安全な水にアクセスできていない点や、途上国の人口増加や経済発展によって安全な水に対する重要が伸びている点を説明した。


 「きれいで安全な水」を確保するためには水質を分析して、汚染物質の量を測ることが必要不可欠だ。しかし、水質分析の処理には酸や酸化剤、触媒などの高価で有害な試薬が必要とされ、コストや安全管理の面でまだまだ負担が大きい。


 産総研環境管理技術研究部門の中里哲也氏は、食品工場や医療関係の排水に混じったヒ素について光反応を利用して無機化することで、これら有害な試薬を用いなくても安全かつ簡単に分析ができる手法を開発。この技術を利用することで、試薬量を大幅に低減化することで、水質分析を低コスト化・迅速化できる。


 中里氏は、安全にかつ効率的に水質分析を行えるようにすることで、「きれいで安全な水の確保」につなげることができるとし、この技術の意義を説明した。


ミドリムシをつかったがんの発見


 スマートコミュニティや水処理に関する技術のように「環境」における将来の技術のほかに、「ヘルスケア」に関する技術は、人間がより健康的に生活するうえでなくてならない技術だ。


 「ヘルスケア」に関する講演では、名古屋大学大学院の馬場嘉信教授が登壇した。馬場教の研究室ではナノテクを使ったがんの早期発見に関する研究が行われている。がんは早期発見で生存率を高くすることができるが、馬場氏は血液循環がん細胞(CTC)検出によって転移がんを早く見つけ出せることに着目。 


 特定の細胞を認識できるようにしたミドリムシに血中のCTCを付着させ、ミドリムシが光にむかって進む性質を利用し、その細胞とともに泳動させることで、CTCを検出することに成功した。


 馬場氏はミドリムシの光に向かって進む性質を利用すれば、病原菌やがん細胞などを取り除くことができるかもしれないとして、こうした研究が将来の医療の現場で役に立てることができるはずだと期待した。


 今回のシンポジウムは環境やヘルスケアなど、将来の技術を見据えるうえで、大変参考となった。ミドリムシを用いたがんの早期発見の研究など、ユニークで将来期待せずにはいられない技術も取り上げられており、有意義な講演となっていた。

(山下雄太郎)

注釈

*:血液循環がん細胞(CTC)
血液中を循環しているがん細胞。がん細胞は転移することで、活発に動きはじめ、血管壁を破壊しながら、血管内に入り、別の組織を破壊することが確認されている。

【セミナーデータ】

イベント名
:環境・ヘルスケアを支える将来の診断技術開発
主催   
:産業技術総合研究所
開催日  
:2012年8月30日
開催場所 
:機械振興会館(東京都港区)

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