セミナーレポート

理科教員の“学びの場”サイエンスリーダーズキャンプ

全国から理科教員が集い炭素同素体の実験など研鑽に励む

2012/8/30

 独立行政法人情報通信研究機構(NICT)は2012年7月31日から8月3日にかけて「サイエンスリーダーズキャンプ」を実施した。このサイエンスリーダーズキャンプとは夏季休業中に全国の中学校・高校の理科教員に最先端の研究施設などを実体験してもらい、第一線の研究者・技術者などから直接講義や実習指導を受けることで、生徒の指導に役立ていこうというものだ。

NICTの役割について説明する講演も実施
NICTの役割について説明する講演も実施

NICTが取り組む災害と情報通信技術

 

 NICTの社会還元促進部門マネージャーの滝澤修氏はNICTの取り組む「災害と情報通信技術」について講演を行った。


 NICTの防災・減災基盤グループでは災害時に情報通信技術を使っていかに被害を軽減することができるかについて研究を行っている。災害の時にも使うことができる緊急用の通信技術がなければ、どこに被害があって、救援活動が必要なのかがわからない。そのため「災害のときにも利用できる情報通信技術があったからこそ助かった」という状況にしていくためにも「災害の時に役に立つICT」を考えていく必要があるとしている。


 そうした「災害時に役立つICT」の一例として滝澤氏は震災のような非常時でも活用できる人工衛星を使った地震被害想定システムを紹介。NICTでは大規模な災害が起きてしまったとき、その地域の状況を迅速に知るために、国内版の簡易型地震想定システムを開発している。これを用いることで、ある場所で地震が起きたときに、実際にどれくらいの被害があるのか推定することができる。NICTでは今後、この簡易型地震想定システムを海外に展開する方針だ。

 

NICTの施設の見学

 

 キャンプでは、NICTの施設の見学も行われた。NICTでは日本の標準時を生成、供給する業務をおこなっており、福島県と佐賀県・福岡県境の2か所に設置された標準電波送信所から日本全国に「日本標準時」を供給している。この日はその生成に使われるセシウム原子時計などの施設の見学・説明が行われた。


 その他、航空機に搭載されたレーダーから斜め下方に電波を照射し、反射された電波で地表面を観測する技術についても解説。これによって、通常の航空写真とは違い雲や火山の噴煙に邪魔されず、昼夜を問わずに観測することができ、高い高度で分析しても細かく観測することができる。

講演をする元文部科学大臣 有馬朗人氏   プログラムではフラーレンなど炭素同素体を扱う実験がおこなわれた
講演をする元文部科学大臣 有馬朗人氏   プログラムではフラーレンなど炭素同素体を扱う実験がおこなわれた

有馬氏の講演と実験


 また、東京大学の名誉教授であり、元文部大臣の有馬朗人氏の講演も行われた。有馬氏は小学校の体験を紹介。担任の教員に自身のつくったモーターを持っていったところ、それを評価されたことなどがきっかけとなり、物理学者の道を志したことを明らかにした。理科の教員である聴講者に対して子供たちの自分なりのアイデアを否定しないことや、子供が充実した実験を行えるよう、実験用の器材を充実させてほしいと要望を伝えた。


 その後のプログラムではナノテクノロジーについて東京学芸大学講師の前田優氏が説明を行った。


 ナノテクノロジーとはナノメーター(1×10-9m)の領域で、物質を自在に制御する技術のこと。こうした技術を用いることによって、ボーイング787の機体に使われるカーボンナノチューブのように、軽くて丈夫で電気を通しやすい新しい炭素同素体を発見することができるなど、注目を集めている。


 この新しい炭素同素体では1985年に球状のフラーレンが発見され、1991年にはチューブ構造のカーボンナノチューブが発見されている。フラーレンは1996年にノーベル賞受賞のきっかけとなった。化粧品や航空機の機材など、これらの材料を利用した新しい実用化研究が進んでいる。


 プログラムではフラーレンやカーボンナノチューブを実際に取り扱った実験を実施。固体カーボンナノチューブを分散させて、高純度のカーボンナノチューブを分散液から取り出し、化学反応を起こすことによって電気が通りやすくなっていることを確認することができた。


 普段は教壇に立ち、生徒の前で授業を行う中学校・高校の理科の教員が、このように全国から一同に集まり、話を聞く側になって研修を行うことは大変貴重な機会だと感じた。この経験をそれぞれの教育の現場で生かしてほしいと思う。

(山下雄太郎)

注釈

*:フラーレン
サッカーボールの形をした60個の炭素原子で構成される分子構造。個々の分子の結びつきが強く、安定していることから、様々な分野での応用が期待されている。

【セミナーデータ】

イベント名
:サイエンスリーダーズキャンプ
主催   
:独立行政法人情報通信研究機構(NICT)
開催日  
:2012年7月31日~8月3日
開催場所 
:東京学芸大学(東京都小金井市)

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