セミナーレポート

品質管理に欠かせない産学連携の取り組み

プロセスの見える化など、効率的な手法を紹介

2012/8/30

 日本品質管理学会は2012年7月9日、日本科学技術連盟千駄ヶ谷本部にて、「開発・設計における品質のつくり込みとプロセスの見える化」を開催した。大学、企業関係者それぞれの視点から品質の向上を目指した意見交換が行われた。

会場は大学、企業関係者で満員となった
会場は大学、企業関係者で満員となった
 

品質管理における産学連携の有用性


 早稲田大学創造理工学部教授の永田靖氏は、品質管理分野の改善を行うためにはデミング賞を目指すことがこれまでセオリーとされていたことを紹介。デミング賞受賞企業の経営者、プロジェクト推進の責任者が講演をしてノウハウを公表することで他の企業がその手法を導入し、品質管理を向上させていた。


 ところが、現在はビジネスモデルの変化や知的財産・守秘義務の尊重により、そのパターンが崩れてきている。そのため、研究機関との連携によって共同開発をして品質管理を向上させることを永田氏は重要視。失敗経験に基づいたレビューを行ったり、製造プロセスにおける「弱点の見える化」を行うといった、「品質管理の改善」をテーマとした研究会を産学合同で設置。1つの企業やグループ企業といった「産」の側に「学」の人間が研究者として参加する事で問題解決の糸口をつかむといった手法を重要視した。

産学連携の説明と品質管理学会の取り組み
(出典:永田氏のスライドより)
産学連携の説明と品質管理学会の取り組み (出典:永田氏のスライドより)

トヨタ自動車の事例


 産学連携を行った研究会の一例としてトヨタ自動車の小杉敬彦氏が解説。トヨタや大学の関係者で構成されたこの研究会では、トヨタグループや仕入れ先からヒアリングを行うことで、課題の洗い出しを行っている。その際、技術の高度化や働く人材の多様化によってノウハウ伝承が不十分で、本来やるべきことを飛ばしたり、省いてしまうことが頻発していることがわかった。そこで、一人ひとりが自分の仕事に誇りと責任をもって、自分の仕事を完結させるという「自工程完結」の考えを2007年から導入。品質工学の概要と基礎を理解するための「品質工学基礎コース」を開始するとともに、外部専門家を招き、品質工学講演会を技術部にて実施した。


 そして開発プロセスの管理手法を構築する際に、プロセスの「見える化」を行った。例えば、作業1人単位の仕事内容について細かく洗い出しを行う。どこの部署からどんな情報をインプットし、どんなアウトプットを別の部署に行っていくのか、徹底的に「見える化」していく。


 次に作業員1人単位の業務に着目したものを、今度は組織単位で行っていく。例えば、エンジンの排気系性能開発の開発プロセスでは多くの部署が絡んでいる。それを部署ごとに付け合せていくことで、ムダな情報のやり取りが明らかになったという。このように改めて「見える化」を図ることで、見えてくる「ムダ」を関係者間で共有化し、品質管理の改善につなげることができたとのことだ。


 小杉氏は産学連携のメリットについて、「『学』の側では産が苦労している生の声を聞くことができ、現実と理論とのギャップを知ることができる。一方『産』側としては社内へ展開したい方法論の間違いなどを把握することができる」と述べた。


学会会長 坂根氏の講演


 一方、基調講演では日本品質管理学会の会長坂根正弘氏(コマツ取締役会長)が品質管理をより俯瞰した視点で講演。坂根氏は、日本人・日本企業の良さとして、農耕民族のDNAを発揮して組織や部門間の連携(チームワーク)をいとわないことや、何をやるにもきめ細かく行うことを挙げた。同氏はそれだけではなく「これからは『世界のデファクトスタンダードを企業がどうつくるか』を考えない限り競争に負ける」と指摘。品質管理についても執念をもって改善を重ね、デファクトスタンダードにしていくことの重要性を唱えた。


 さらに坂根氏は「会社が永続的に発展するためには、『企業価値』に対する考え方を明確にしたうえで、社員全員がそれを共通の価値観としてもたなければならない」と説明。ここでいう「企業価値」とは株主やお客様のようなステークホルダーの信頼度の総和であり、“その企業でないと、お客様が困る”度合いを高めていくことが必要だとした。例えばコマツでは、先人達が築き上げてきたコマツの強み、それを支える信念、心構え、価値観を「コマツウェイ」として、坂根氏が社長時代に編纂しており、歴代社長をはじめ組織や社員が脈々と次世代に受け継いでいくよう取り組んでいる。


 今回の講演では「産学連携」によって研究会を形成し、プロセスの「見える化」などを行うことで、品質管理の向上を確認することができた。「産」だけでは気が付かないムダを把握するためにも、「学」の協力は欠かすことができない重要な要素だ。

(山下雄太郎)

注釈

*:デミング賞
日本科学技術連盟が選考を行っている、品質管理の進歩に貢献のあった民間団体や個人に授与される賞

【セミナーデータ】

イベント名
:開発・設計における品質のつくり込みとプロセスの見える化
主催   
:日本品質管理学会
開催日  
:2012年7月9日
開催場所 
:日本科学技術連盟 千駄ヶ谷本部(東京都渋谷区)

【関連カテゴリ】

経営改善