セミナーレポート

実社会で活躍する計算科学

計算科学シミュレーションシンポジウムを取材

2012/5/17

 計算科学が実社会にどのように浸透し、応用されているか個々の研究分野を発表する「計算科学シミュレーションシンポジウム」が2012年4月25日、日本学術会議主催のもと東京都港区の日本学術講堂で行われた。

東京大学・矢川元基名誉教授
東京大学・矢川元基名誉教授

計算科学の貢献


 計算科学とは、すでに判明している物理現象に関する計算を大量に行うことで地震や気象の予測や、様々な現象のシミュレーションを行う学問分野を指す。東京大学名誉教授の矢川元基氏は「例えば、スパコン京では計算力学関連のアプリケーションソフトが多数研究・開発されている」と話す。ほかにも奇跡の帰還を遂げた小惑星探査機「はやぶさ」に搭載されている熱防御システムの設計や、カプセルが地上に再突入するまでの空力設計にも計算技術が駆使されており、海外でも高く評価されている。


 このように日本の計算科学技術が内外から高い評価をされているなかで、同氏は計算科学技術を含めた国際学術協力の貢献の在り方に言及。国際学術協力は全世界を対象とするべきで、相手国の自主性や文化的事情に配慮し、対等に進めていくことが重要だと説明。さらに国際社会で期待される日本の役割を考慮すると、先進国だけでなく発展途上国の学術協力を重視する必要があると指摘。特にアジアについては地理的、文化的に日本と深い関係にあり、学術協力を一層強化していく必要があるとした。


計算科学の実社会への応用


 計算科学が実社会にどのように応用されているかについて様々な研究者から発表が行われた。


 明治大学の三村昌泰教授は現象数理学について講演した。現象数理学とは様々な社会現象を、数学を使って解き明かそうとする学問のことだ。例えば一見不規則に見える生物細胞の増殖を、数式を用いて表し、数式から解を求める。「単純な機構しか持っていない細胞であっても、たくさん集まるとそれらの相互作用によって新しい機構やパターンが自律的なパターンを生む」と、イギリスの数学者アラン・チューリングが考えたのがこの学問の発端とされる。


 この現象数理学を応用することで自然渋滞も、車両の平均密度と車両の平均速度の関係性を数式で表すことで解明することができる。その他、スタジアムやコンサートホールなどで出口に殺到する「群衆のパニック」についても、群衆を素粒子に見立て、パニックのある素粒子、パニックのない素粒子をそれぞれ別の速度でシミュレートしていくことで、前者が出口付近に留まる意志がなくとも自発的に停滞する事が発見できる。


 また医薬業界のコンサルティングなどを行うJSOLの北岡裕子氏は計算科学を呼吸器の解明に用いることができることを、医師でもある立場から指摘。同氏は横隔膜など対になっている呼吸器系運動を調べるため、アマチュア謡家の横隔膜運動をMR画像で撮影。横隔膜運動のデータを抽出して分析することで、発生開始直後の横隔膜運動に左右差があることがわかったという。さらに同氏はこの結果をさらに分析することで、右側横隔膜の位置情報が大脳皮質に送られていて、音声言語の成立に横隔膜の運動が必要不可欠なことが明らかになったと説明している。

明治大・三村昌泰教授   JSOL・北岡裕子氏
明治大・三村昌泰教授   JSOL・北岡裕子氏

人間にとって最適な製品音の研究


 東芝の大富浩一氏からは、人間にとって最適な「電気製品の音」に関する研究について発表があった。例えば電気自動車はモーターを用いるため駆動音が極めて小さい。そのため、路上で歩行者が接近に気がつきにくいという危険な状況も想定でき、騒音にならない範囲で最適な大きさの音にしていく必要があるという。また電気自動車以外の電気製品についても「音によって製品の状態の悪さが判別できる場合もあり、一定範囲内の音は電気製品において欠かせない」と話す。


 大富氏はさらに「製品が使われるシーンが工場なのかそれとも家庭なのかなど想定して音質を設計している」と解説。具体的にはシーンに適したユーザ(家庭ならば主婦など)に使ってもらい音の評価をしてもらう「官能評価」と、“メトリックス”という騒音レベルを評価する「物理指標」を合わせることで製品の最適な音質を導き出している。同氏は「『製品音は騒音ではない』という考えに基づいて音質の設計に取り組んでいる」と研究のポイントについて語った。


 実社会と密接につながっている計算科学。その好例は枚挙にいとまがない。計算科学がどう社会に役立っているか知る上で非常に貴重なシンポジウムだった。

(山下雄太郎)

注釈

*:日本学術会議
内閣の特別機関の1つで1949年に設立。国内の科学技術機関として、研究者間の国際連携や情報発信を行っている。

【セミナーデータ】

イベント名
:第3回計算科学シミュレーションシンポジウム
主催   
:日本学術会議
開催日  
:2012年4月25日
開催場所 
:日本学術会議(東京都港区)

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