セミナーレポート

テレビのこれからを識者が激論

SNSや海外コンテンツの台頭時代、テレビの選択は?

2012/5/14

 「テレビ離れ」が叫ばれ、視聴率は20~30年前と比較すると、見る影もない。テレビ以外のメディアが氾濫し、テレビが数多あるメディアのひとつとなる激動の時代、テレビはこれからどう立ち回っていけばよいのか? NHK放送文化研究所(以下NHK文研)は、4月19日と20日の2日間にかけて、シンポジウム「そして、テレビにできること~メディア激動の時代に~」を開催。外部から多くの研究者・関係者を招へいして、NHK文研の研究者の調査データを基に激論を交わした。

聴講席にはNHKのテレビカメラも入り、後にテレビ放送される模様
聴講席にはNHKのテレビカメラも入り、後にテレビ放送される模様

テレビが見られるための工夫


 SNSなどによる「ソーシャル」の環境がここ数年、急速に存在感を増している。かつて、居間や、放送翌日の会社・学校などで、テレビ番組の内容を話すというのは良く見られる光景だった。テレビ番組は、家族の居間や会社・学校という「ソーシャル」の環境に乗っかることで、爆発的な普及を見た。しかし趣味が多様化し、テレビの個人視聴が増えると、テレビのニーズとソーシャル環境がマッチしなくなり、それが視聴率低下の原因のひとつと考えられる。


 NHK文研は、現在のソーシャル環境の中心となっている「SNS」に注目し、独自に制作したSNS「teleda」を通じて実証実験を行った。「teleda」はNHKの番組と連動したSNS。NHKのインターネット会員サービス限定で呼び掛け、3カ月で1063人が参加。シンポジウム内では、「teleda」の実証事件で集められたデータを紹介しつつ、識者を招いたパネルディスカッションを行った。


 パネリストとして登壇した電通モダンコミュニケーションラボ主宰の佐藤尚之氏は「若者らはすでに仲間と見る楽しみを持っていて、それに応じた場も持ち合わせている。だからメディアが場を作って呼ぶのではなく、すでにある場に下りてきてほしい」と、手厳しい。


 同じくパネリストの東海大学文学部教授・水島久光氏も「NHKにすでに興味がある人の間に広めていく効果はあった」と成果を認めつつも「お茶の間や学校などでの共感をベースに(ソーシャルの関係は)作られる。メディア側が用意をするものではない」と、メディアによるSNS利用に関して慎重な意見を述べた。


 NHK文研側も、参加者から寄せられた不満などで、パネリストから寄せられた意見と近い課題点を感じているようだ。今後はテレビに興味のない層をどうやって取り込んでいくか、既存の場とどうやって接近していくかが、メディアがSNSを利用する上での課題になるだろう。

パネルディスカッションの様子。厳しい意見の連続にNHK文研の関係者はやや苦そうな表情をしていた   左、NHK文研・山田賢一氏。右、電通コンサルティング・森祐治氏
パネルディスカッションの様子。厳しい意見の連続にNHK文研の関係者はやや苦そうな表情をしていた   左、NHK文研・山田賢一氏。右、電通コンサルティング・森祐治氏

日中アニメ対決


 国内でのテレビの位置付けだけではなく、海外との比較や調査も行われた。NHK文研主任研究員の山田賢一氏と、電通コンサルティング常務の森祐治氏は「日中アニメ産業の市場争奪」と題して、近年国策でアニメ制作に力を入れている中国と、近年疲弊している日本のアニメ産業を比較した議論を行った。


 2000年以前、中国では日本のアニメが普及していた。しかし「抗日戦争の勝利」を政府の根拠としている中国では、アニメ普及による日本文化の浸透に強い危機感を覚えていた。そのため、中国は国策として、ゴールデンタイムでの70%以上を国産アニメにするという極端な「保護主義政策」と、大規模な予算・奨励金を使ったアニメ制作技術の向上に力を入れてきた。


 その成果もあり、 アニメ制作時間は直近5年でも強い伸びを見せており、その時間は日本の3倍近くになっている。山田氏は「世界の下請けとしてアニメを描いていた実績もあり、今後はブランド力の育成や、アニメによるビジネスモデルの確立などに注力してくるだろう」と話す。


 たしかにオンラインゲーム市場などで存在感を出している中国は、それらの技術やオープンにされている技術をアニメに流用して、美しいCGを描く技術は獲得している。しかし森氏は「中国のアニメは画質だけで見れば、日本と比べてもそう見劣りしない程度にはなっているが、企画やストーリーなどの点についてはまだまだ日本に追いついていない」と現状を分析。そのため、中国のアニメ業界は、日本の技術者を強く欲していると言う。


 この状況を踏まえ森氏は「日本のアニメ業界はかなりの苦境に立たされており、高い能力を持つ技術者が経済的に厳しい状況にある。一方で、中国は日本の技術者を欲している。日本人の技術者は中国での就職を考慮してもよいのではないか?」と、今後の日中の交流について提言を行った。


 アニメ業界はもとより、テレビ業界全体がいま苦境に立たされている。NHKも現状に危機感を覚え、批判されることを承知の上でこのようなシンポジウムを開催し、意見を取り入れようとしている。苦境に立たされた今、テレビ業界のこれからに注目が集まる。

(井上宇紀)

注釈

*:アニメ制作時間
  製作されたアニメの放送時間累計のこと。

【セミナーデータ】

イベント名
:そして、テレビにできること~メディア激動の時代に
主催   
:NHK放送文化研究所
開催日  
:2012年4月19日~20日
開催場所 
:千代田放送会館(東京都千代田区)

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