セミナーレポート

古川聡氏が長期滞在ミッション報告会で講演

無重力空間での体験や実験の成果を報告

2012/2/2

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2012年1月16日、渋谷区文化総合センター大和田にて、古川聡宇宙飛行士国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在ミッション報告会を行った。昨年11月に帰還した宇宙飛行士・古川聡氏による講演などが行われた。講演には同じくソユーズロケットに搭乗したマイケル・フォッサム氏、セルゲイ・ヴォルコフ氏も同席した。

実体験を交えた意見交換が行われた
実体験を交えた意見交換が行われた

無重力空間の体験談


 冒頭では宇宙開発担当大臣の古川元久氏が挨拶した。同氏は「日本人による有人火星探査」を目標に掲げてはどうかと明言。古川宇宙飛行士が搭乗した国際宇宙ステーションで日本、米国、ロシア、カナダ、欧州が協力したように、「日本人による有人火星探査」のような大きな目標のためには国際協力が必要不可欠であると強調した。


 宇宙飛行士の古川聡氏は2011年6月8日に、マイケル・フォッサム氏、セルゲイ・ヴォルコフ氏とともにロシアのソユーズロケットで出発。国際宇宙ステーション(ISS)に滞在し、2011年11月22日に帰還している。


 古川氏は講演で無重力空間の人体の変化について言及。「無重力のため、体液が上半身に移動し、ふくらはぎや太ももが細くなって体操選手のようなかっこいい体系になる分、顔がむくんだ状態になる」と報告。ヴォルコフ氏は「今回が2回目の宇宙飛行の体験だったため、無重力に慣れることが非常に速かった」とし、人間の体が環境の変化に適応することができることを実感したという。そのため、人体は無重力状態で不要なものを取り除こうとするために、ふくらはぎなどの筋肉が衰えると指摘。自身、背中や足の筋肉が以前と全く違う形になったことに驚いたことを明らかにした。


 さらに古川氏は地球に帰還後の変化について触れた。筋力の衰えは毎日船内で筋肉トレーニングを行っていたので感じなかったが、バランス感覚の衰えを感じたという。「脳が無重力の感覚に慣れていた。脳が歩けと命令をしても、本人は歩いているつもりだが、実際はずり足となるために、段差があるとつまずいた」と説明。このように無重力を体験した宇宙飛行士ならではの特別な経験談に会場の聴衆は熱心に耳を傾けていた。

古川氏と同乗した宇宙飛行士も登壇した   説明する宇宙飛行士・古川聡氏
古川氏と同乗した宇宙飛行士も登壇した   説明する宇宙飛行士・古川聡氏

無重力空間で行った様々な実験


 講演では無重力という特殊な環境を生かして行った様々な研究も紹介された。


 徳島大学大学院の松本俊夫教授は「骨量減少・尿路結石予防対策実験」の結果を報告。微小重力環境では体を支える必要がないために高齢者の骨そしょう症患者の10倍の速さで骨のカルシウム成分が尿に溶け出す。このため、長期間滞在する宇宙飛行士には骨の減少がみられるほか、尿路結石のリスクが高まる。


 古川氏らこれらのリスクを軽減するために週に1度、骨粗しょう症の治療薬・ビスフォネートを予防的に服用した。一般的に、大たい骨など地上で負荷がかかる骨は宇宙空間では骨の減少量が高いが、今回、薬を投与した結果、大たい骨はほとんど骨が減少しておらず、腰椎に至っては地上よりも増加していることが明らかになった。結果、この薬を用いることで、骨の減少、尿路結石を少なくとも6か月間の飛行に対しては十分な効果が挙げられることがわかった。


 その他、横浜市立大学の朴三洋教授も自身の研究分野を報告した。微小重力下でタンパク質結晶を生成させると、地上で作るよりも品質の高い結晶が得られる。これを地上に持ち帰ってX線で解析することで、創薬に役立てることができる。古川氏は今回、マラリヤやインフルエンザなどの感染症の研究に用いるために、タンパク質の結晶生成を行った。現在この高品質タンパク質が地球に持ち帰られ、解析が行われている段階だ。


 実際に宇宙という無重力空間を体験したばかりの宇宙飛行士の言葉だけに非常に重みがあった。また、ISSで行った様々な実験はどれも貴重なものばかりで、今後の宇宙飛行や人類の生体の解明に欠かすことができないものだ。こうした、宇宙飛行士の生の声を聴く機会が増えることをこれからも望みたい。

(山下雄太郎)

【セミナーデータ】

イベント名
:古川宇宙飛行士 国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在ミッション報告会及び
 よくわかる「きぼう」での実験成果シンポジウム~健康・医療に向けて~
主催   
:宇宙航空研究開発機構(JAXA)
開催日  
:2012年1月16日
開催場所 
:渋谷区文化総合センター大和田(東京都渋谷区)

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