セミナーレポート

デジタル「キュレーション」の意義

デジタル化し、資料を整理して生み出す価値

2011/12/26

 2011年12月9日東京都文京区にある印刷博物館にて「ディジタルキュレーションシンポジウム」が開催された。デジタルキュレーション(あるいは単にキュレーションとも呼ぶ)とは、一定の法則、理由、価値観などに基づいて、必要な情報を収集、整理することで、バラバラであった時点では存在しなかった付加価値を与えること。

 同シンポジウムでは、筑波大学主催の元、M(Museum=博物館)L(Library=図書館)A(Archives=文書館)連携により、情報をデジタル的に収集・整理することで新たな価値を創造しようと取り組んでいる関係者らが集合し、講演を行った。

博物館や美術館の関係者から学識者まで専門家が多く参加した
博物館や美術館の関係者から学識者まで専門家が多く参加した

アーカイブではなく「キュレーション」


 3.11は日本に甚大な爪痕を残したが、美術品や書籍、歴史的な資料など、そのほか知的財産にも大きな被害を及ぼした。博物館、図書館、文書館は情報価値の高い「知的資源」を保有している施設はこれらを将来に向けてどう残していくか、という課題について改めて問題意識を高めている。


 一方で、東北大学の平川新教授のように、歴史的に価値の高い資料をデジタル保存したことで、実物が災害で消失しても情報は守り抜いた(非常時にも資料を守り抜く技術、参照)という例もある。ただデジタル変換してアーカイブにするだけではなく、課題点や問題点を整理したことによって雑然としている状態と比較して同じ情報の価値を高める「デジタルキュレーション」を進める必要性が官民で議論されている。


 全体の司会進行も務めた筑波大学・図書館情報メディア系知的コミュニティ基盤研究センターの杉本重雄氏は、「デジタルキュレーション」の意味についてただデジタル化する「デジタルアーカイブ」とは違った意味合いがあると解説。続けて「国内外でMLA連携を進めていくためのデジタルアーカイブ・デジタルリソースについての議論など識者の動き」「電子書籍の広がりといった社会的な要請」「公文書管理法の施行など政治レベルでの影響」など、様々なレベルでデジタルキュレーションに関する議論の基盤が整いつつあることし、シンポジウムが開催される意義を説明した。


 公文書管理法の施行については、国立公文書館館長の高山正也氏も触れていた。「2011年は東日本大震災や公文書管理法施行など、デジタルアーカイブの観点から、重要な事項が多かった年だ」と振り返った。公文書管理法は、公文書の電子的な保存に関する明確なルールが定められたもので、国や政府では義務、自治体などにも努力義務が課せられている。高山氏は「公文書は、国民が共有・利用する知的資源であるため、適切な管理が必要である」とし、公文書管理法の必要性を述べた。

国立公文書館館長の高山正也氏   京都精華大学マンガ学部の吉村和馬氏
国立公文書館館長の高山正也氏   京都精華大学マンガ学部の吉村和馬氏

 ほかにも様々なコンテンツにおける「デジタルキュレーション」について、幅広い組織から意見・議論が行われた。京都精華大学マンガ学部の吉村和馬氏は、絵と話が混じっている「マンガ」の情報保存について講演した。


 マンガ雑誌はいわゆる「中留め」のものと「背表紙」の大きく2種類がある。そして「中留め」は青年~成人向けで、「背表紙のあるもの」は幼年~少年向けのものが多いという、文化的な背景が存在する。しかし「マンガをスキャンする際にこうした『質感』といったデータは残らない」と吉村氏は話す。また雑誌ではマンガの欄外に広告などが入っているが、単行本では消えるため、単行本と雑誌は別の情報を持ち合わせていると言える。


 しかしこうした雑誌本体が持つ情報が数多くありながら、雑誌そのものは「捨てる」ことが前提で大変にかさばる作りのため、全てを保存しておくことが非常に難しい。そのため「アーカイブとしてどこを取捨選択していくか、ほかの図書館とも協議を重ね、デジタルデータ化、メタデータ化の体系的な整備に関する議論が必要」(吉村氏)とした。


 ほかにも、ヨーロッパの2000万点以上の文化遺産をデジタル化した「Europeana」や、国内の大学図書館や・学協会などの協力の元で論文や書誌を集めた学術情報サービス「CiNii」など、幅広い分野におけるデジタルキュレーション化への取り組みが説明された。オランダ国立公文書館の杉本豪氏は、このようなサービスが求められる背景として「ソフトウェア面ではソーシャルメディアが隆盛し、ハードウェア面ではスマートデバイスが爆発的に普及している。結果として一般市民が世界中へ容易に情報を発信・取得できる手段を得たため」と分析した。


 ただ知的な財産をデジタルに変換して残すだけではなく体系立て整理することで、情報の価値を高める「デジタルキュレーション」。情報の価値が求められる現在、あらゆる分野において必要な技術になっていくだろう。

(井上宇紀)

【セミナーデータ】

イベント名
:ディジタルキュレーションシンポジウム
主催   
:筑波大学
開催日  
:2011年12月9日
開催場所 
:印刷博物館(東京都文京区)

【関連カテゴリ】

IT政策