セミナーレポート
「これからの科学技術イノベーション政策」シンポジウムが開催
日本の復興に向けた話し合いが行われる
科学技術振興機構 研究開発戦略センター(CRDS)は2011年6月28日、シンポジウム「これからの科学技術イノベーション政策」を行った。震災時とその後の科学技術や科学者の立ち位置、必要とされる正確な情報伝達、復興していくための条件について講演や意見交換が行われた。
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| 申し込みが一杯になるほど多くの参加者が訪れた |
科学者の立ち位置と情報の流れのあるべき姿
CRDSセンター長の吉川弘之氏は今回の東日本大震災における、科学者、専門家の社会的な貢献について、福島の原子力発電所の事故への対応を例に説明した。
東日本大震災時、危機における必要な情報の流れを見たときに、首相官邸や原子力安全・保安院から直接、国際社会や科学者に伝わっていくのではなく、必ず「報道者」を介して発信されていた。そのため、「情報を受け取る側として必ずしも正確な情報が伝わっていなかった」と吉川氏は指摘する。結果、国際社会に対して風評がまかり通り、一般の科学者は想像の域で推測や評論を行わざるを得なかった。吉川氏はこの他にも「本来であれば、科学者の声を集約する役目を持つ日本学術会議(科学アカデミー)も、情報不足によって提言が定まらず、外国の科学アカデミーも『支援したいが要請待ち』という事態に陥っていた」と状況を説明した。
つまり、今回の震災時では科学者の意見が「集約されなかった」ということになる。もともと学会にいくつかの理論があり、それを集約して「科学者の合意した声」として中立的助言となって発信することができれば、社会における政策決定の対立を緩和することができる。しかし、それが科学者それぞれの「ばらばらな意見」のまま発信されれば、社会では混乱の原因になる。今回はそうした事態に陥っていたというわけだ。
吉川氏は、「震災後の復興のために、科学者は中立的な助言を行う事が重要。被災地を中心に、日本が持続的進化をしていくためには、『専門家』が問題提起をし、情報を正確に伝え、『科学者』が正確な助言を行う。対等な対話を通じた協力をしていかなければならない」と強調した。
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| CRDSセンター長 吉川弘之氏 | 経営共創基盤CEO 冨山和彦氏 |
日本の科学技術の現状と課題
シンポジウムではさらに日本の科学技術の現状と課題について、震災時とその後の背景を踏まえた発表が行われた。
CRDS上席フェローである丹羽邦彦氏は、電子情報通信分野に言及。日本が優位性を持つ技術領域としてロボット、有機材料・デバイス、光計測などを指摘。逆に日本が遅れている技術領域として、ソフトウェア基礎理論・開発技術、CAD、高周波・アナログ集積回路を挙げた。そして震災で明らかになったこれらの技術の問題点として、社会インフラとしての脆弱性があり、個別技術のシステム化・統合化、社会で実際に役立てるところまでつなげる仕組みが欠けている点を挙げ、「普段からフィールドで使用し、改良していく努力が必要」と話した。
一方、同上席フェローの田中一宜氏はナノテクノロジー・材料分野について言及。「グリーンナノテクノロジーの分野において、日本は太陽電池、環境技術など、総合力ではトップレベル」とした。ただ、ナノエレクトロニクスでは世界的に研究開発の拠点化が進む中、日本メーカーの研究開発の勢いは大幅に低下し、懸念されると指摘している。
しかし、この分野は他の分野に比べて日本の論文引用件数が圧倒的に多く、国際的に最も高い科学技術ポテンシャルをもっている。田中氏は「東日本大震災後、再生可能エネルギーの拡大政策を目的としたナノテク・材料技術が中心となる『グリーンナノテクノロジーの拡大基盤技術』が今後の柱になっていくだろう」と説明した。
非常時の科学技術や情報伝達について意見交換
こうした科学技術の課題と展開の発表を経て、後半では意見交換が行われた。
株式会社経営共創基盤CEOの冨山和彦氏は震災時の自身の経験を報告。経営に関わっていて再建中の東北地方のバス会社の震災時における対応を例にとった。
冨山氏は政府の要請で被災者の避難のためにバスを向かわせるときに、どんな情報を信じればよいのか判断に迷ったことを説明。そのうえで「産業サイドから見たときに、起きていることが政治的にきわめて不透明で、その結果としてどういう判断をすればよいかよくわからなかった」と発言した。そして「科学は『神学』ではなく『事実』である以上、その科学をベースに、政府の政権担当者が知見に基づいたうえで、ある種の価値判断に基づいて判断しなければならない」と意見を述べた。
また、震災復興に関してCRDS副センター長の植田秀史氏は、同機関が2011年5月23日に発表した「東日本大震災からの復興に関する提言」を紹介。それによると復興には多くの科学者の持つ多様な専門知識が必要であり、被災地で活動することによって、専門知識の有効な活用方法を見いだすことができる。例えば再生可能エネルギー、ICT医療などによる「新しい街づくりへの科学技術の活用」などだ。
同氏は「このような活動により、新しい有効な科学的知識を創出し、科学技術のシステム改革を進めることができる」としている。
震災が発生して以降、科学の真価が問われている。同シンポジウムでは、日本の科学技術が世界の先端を走っている分野もまだまだ多いことを再確認できた。さらに今後は吉川氏の発言のように非常時でも正しく情報を集約し、正しく発信していく姿勢が、間違いなく求められてくるに違いない。
【セミナーデータ】
- イベント名
- :「これからの科学技術イノベーション政策」
- 主催
- :科学技術振興機構 研究開発センター
- 開催日
- :2011年6月28日
- 開催場所
- :ウ・タント国際会議場(東京都渋谷区)
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