セミナーレポート

低炭素社会実現を目指すシンポジウムが開催

経済活動と低炭素社会を両立する最適な方法を模索

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2011/6/6

 科学技術振興機構(JST)は2011年5月10日、シンポジウム「低炭素社会実現に向けたシナリオと戦略」を開催した。このシンポジウムはLCS(低炭素社会戦略センター)の設立1周年を記念して行われたもの。経済活動を停滞させることなく、いかに低炭素社会を実現できるかについて、講演が行われた。

会場は多くの参加者で埋め尽くされた
会場は多くの参加者で埋め尽くされた

普及型需要から創造型需要へ

 

 LCS・センター長で前東京大学総長の小宮山宏氏は低炭素社会実現に向けたビジョンを説明した。


 これまでは先進国へと成長していくためにはいわゆる車、テレビ、家といった飽和物に対する需要である「普及型需要」が主だった。しかし、これからは人々の生活が一定の水準に達してきたなかで、太陽電池やLED照明といった環境に配慮することを念頭に置いた“これから生まれつつある”「創造型需要」を意識していくことが重要になってきている。


 近年、二酸化炭素削減など低炭素社会へ向けて多くの取り組みを実践してきた日本では、「ものづくり」を行っていくうえでエネルギー効率が低いことが悩みの種となっている。そのためにこの「創造型需要」を視野に入れて、低炭素社会を実現させていくためには、「エネルギーの効率化」が重要だ。具体的にはハイブリッド車や燃料電池車を普及させることで自動車のエネルギー効率を5~10倍に高めたり、給湯エネルギーが8割減になるヒートポンプを普及させるといったことが必要不可欠となる。


 もちろん高齢者や人口減少といった社会背景を考慮にいれることは大前提。小宮山氏はエコロジカルで高齢者が参加し、人が成長し続け、雇用のある社会を「プラチナ社会」と定義し、21世紀のモデル社会として目指していくべきだと語っている。

LCSセンター長・小宮山宏氏   前環境大臣・小沢鋭仁氏
LCSセンター長・小宮山宏氏   前環境大臣・小沢鋭仁氏

エネルギーの分散・効率化で「プラチナ社会」を目指す


 この「プラチナ社会」を築いていくためにはCO2削減は避けて通れない道だ。LCS副センター長の山田興一氏は「東日本大震災が起きたことで2009年に制定した『CO2 25%削減計画』*1で描かれたシナリオへの影響は避けられない」と指摘。そのため「新しいエネルギーシステムへとスムーズに移行することを念頭に置き、住宅、家電などの省エネルギー化を徹底していかなければならない」と意見を述べた。例えば、すべての家庭や企業でで、照明効率を2倍にするだけでも3000万トンのCO2が減る。こうした地道な取り組みの積み重ねが低炭素社会に繋がっていくというわけだ。


 この「プラチナ社会」の実現について前環境大臣の小沢鋭仁氏も発言した。


 日々の暮らしのなかで、様々な低炭素投資を実現すると、最初に費用はかかるが、光熱費の節約によって元が取れ、快適で健康的な生活を送ることができる。すなわち“低炭素な暮らし”は投資ととらえるべきなのだ。


 小沢氏は新築で家を建てる家庭には太陽光パネル付高断熱住宅、さらに高効率給湯器・家電を購入するようはたらきかけを行っており、これからも一層手綱を締めていく構えだ。


 また地域レベルの取り組みに目を向けると、例えばデンマークのコペンハーゲンでは地域での熱供給システムの充実ぶりがうかがえる。コペンハーゲンは地域全体で環境問題に取り組んでおり、同都市の熱需要の98パーセントが地域暖房を利用している。地域暖房とはひとまとまりの地域に熱供給設備を建設し、配管を通じて各家庭・企業に暖房などを配給する設備のことだ。その地域暖房システムにつなぐことを、各家庭・企業に義務化しているというわけだ。そのためいわゆる化石燃料はほとんど使わないため、いくら暖房で部屋をあたためても、そこにCO2はほとんど発生しない仕組みとなっている。小沢氏は日本でもこうした取り組みが地域レベルでも行われていくことの必要性を訴えた。


 衆議院議員で自民党広報本部長・茂木敏充氏も低炭素社会の実現には「エネルギーの分散」が不可欠だと言及。


 これまでは大型の発電所によって集中型の電力供給を行っていたところから、太陽光、風力といった比較的、小型化の自家発電への転換が求められてくる。それだけでなく、ガス、燃料電池、コージェネレーション*2への移行といった「エネルギーの分散」を意識して取り組んでいかなければならない。


 茂木氏はこのほかにも「幅広い省エネニーズを組み入れた日本の製品は圧倒的に世界最先端のレベルであることに変わりはない。これを利用して国際競争力の今後の回復にもつなげていくべきだ」と力を込めた。


 低炭素社会を実現するためには高水準のエネルギー効率や、エネルギーの分散化など、実現しなければならない課題がまだまだ残されている。しかし日本では依然として普及しておらず、意欲ある一挙手一投足が求められている。東日本大震災で今後一層取り沙汰されるであろう低炭素社会実現に向けた取り組みから目が離せない。

(山下雄太郎)

注釈

*1:CO2 25%削減計画
地球温暖化を防ぐために2009年に当時の鳩山由紀夫政権で策定された二酸化炭素を2020年までに1990年比で25%、2005年比で33.3%削減するといった取り組み。

*2:コージェネレーション
内燃機関などを利用して動力を取り出し、総合エネルギー効率を高めるシステムのこと。

【セミナーデータ】

イベント名
:「低炭素社会実現に向けたシナリオと戦略」
主催   
:科学技術振興機構(JST)
開催日  
:2011年5月10日
開催場所 
:一橋記念講堂(東京都千代田区)

【関連カテゴリ】

IT政策その他