セミナーレポート

医療情報のIT化について講演

JAMINAセミナー2011が開催

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2011/6/2

 設立9周年を迎えるNPO法人日本医療情報ネットワーク協会(JAMINA)が2011年4月21日、「JAMINAセミナー2011」を開催した。病院や診療所などの医療機関でのIT活用について、大学・行政・民間からの講演が行われた。

 点滴などのデジタル管理、遠隔医療を利用して出産した事例など、医療現場での実際のIT利用の現状も紹介された。

「10年前から医療のIT化を訴えてきた」と述べる田中氏
「10年前から医療のIT化を訴えてきた」と述べる田中氏

医療IT化の必要性


 セミナーの冒頭でJAMINA理事長の田中博氏は「病院完結型医療は実質的に崩壊している」と断言した。医師数の減少を国際機関の経済協力開発機構(OECD)のデータをもとに解説。「人口1000人あたりの医師数は日本で2.1人。OECD平均より1人少ない」として、特に医療訴訟の危険性、勤務形態の過酷さなどで産婦人科・小児科・外科は減っているとした。


 こうした現状を紹介した上で、田中氏は医療のIT化によるメリットを「医療費軽減」とした。日本には人工透析を受けている患者が29万人おり、国は毎年約1兆5000億円の負担をしているという。田中氏は「半数は糖尿病を放置したことが原因。自分の体の情報がわかっていれば、こんなことにはならないはず」とし、IT化によって「治すのではなく管理する医療」にすることで医療費の軽減ができると強調した。


 カルテの管理についても、「紙のみでの保存や、電子化されていても各病院がバラバラに管理していては意味がない。集約されてこそ医療情報が個人も活用できる」と述べた。


遠隔医療で震災後に出産も


 ITを活用した事例も紹介された。一般財団法人医療情報システム開発センターの山田恒夫主席研究員は、岩手県遠野市で行われてきた「すこやか電子手帳」を紹介した。


 四方が山に囲まれている同市では、分娩を扱う医師が2002年から「ゼロ」の状態になっている。加えて小児科医も県立病院に1名いるだけ、という状況だ。そこで、妊娠・出産期から高齢期までの健康情報を「すこやか電子手帳」として市民にサービスを提供している。

山田氏はWebを利用した電子手帳の実例を紹介   iPadを利用した健康管理ツールなども展示された
山田氏はWebを利用した電子手帳の実例を紹介   iPadを利用した健康管理ツールなども展示された

 「すこやか電子手帳」のうち、妊娠・出産期に使用する「電子母子手帳」は、妊婦さんと産婦人科医をテレビ電話で結ぶ「周産期ネットワーク」とリンクし、Web上の電子カルテなどの情報をもとに検診データなどが閲覧できるシステムだ。出産後は子供の予防接種の実施状況や母体の体重変化などの情報が蓄積されていく。このシステムのサーバは盛岡市にあり、東日本大震災後も稼働していた。このため遠隔医療によって無事に出産できた女性もいたという。


 高齢期には携帯電話専用の「長寿電子手帳」としてサービスを提供している。PCは持っていないが携帯電話はある、というお年寄りが多かったためだ。また、ログインIDやパスワード入力になじみの薄いお年寄りのために、市役所から毎日携帯にメールが届き、本文に記載されている本人専用のログインURLをクリックすれば「長寿電子手帳」にアクセスできる仕組みにしている。


国が進める「どこでもMY病院」構想


 現在、国ではITを活用し、全国どこにいても自分がこれまでに受けた診療情報をもとにした診療を受けられ、自分の健康状態も知ることができる「どこでもMY病院構想」を進めている。セミナーではこの構想にかかわる内閣官房・厚労省・経産省・総務省の担当者が講演を行った。


 この構想が実現すれば通った病院ごとに散逸しがちなカルテや、バラバラにもらう処方せんが共有でき、その利便性は計り知れない。しかし、構築されたシステムの運営主体がどこになるのかなど、課題もある。


 電子カルテ、レセプト(診療報酬の明細)のオンライン化、遠隔医療など、IT利用による個別の利便性はすでに見えてきている。高齢化、人口減少が進む中、本当の意味での「医療のIT化」は日本にとって喫緊の課題である。

(中西 啓)

【セミナーデータ】

イベント名
:JAMINAセミナー2011
主催   
:日本医療情報ネットワーク協会(JAMINA)
開催日  
:2011年4月21日
開催場所 
:文京シビックセンター(東京都文京区)

【関連カテゴリ】

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