セミナーレポート

情報処理技術遺産の認定式行われる

2010年度は9点のハードウェアが認定

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2011/5/9

 東京都目黒区の東京工業大学キャンパスで3月2日から3日間にわたり、情報処理学会の全国大会が開催された。大会初日、2010年度の「情報処理技術遺産」、そして「分散コンピュータ博物館」の認定式が行われた。認定されたうちの2点については会場に実機が展示された。

会場に展示された情報処理技術遺産「PANAFACOM Lkit-16」の実物
会場に展示された情報処理技術遺産「PANAFACOM Lkit-16」の実物

9点の機器、1ヶ所の博物館が認定


 情報処理学会による「情報処理技術遺産」の認定制度は2008年度よりスタートした。計算機やコンピュータなど、情報処理技術の歴史上で重要な役割を果たしたハードウェア、ソフトウェアなどを広く知ってもらう、というコンセプトから始まったものだ。同時に、こうした貴重なコンピュータ等を保存している博物館や組織などを対象にした「分散コンピュータ博物館」の認定も行っている。


 2010年度の認定式では、九州大学が1958年頃に開発した言語処理用計算機「KT-1」、世界初のオールトランジスタ・ダイオードの卓上計算機「CS-10A」など計9点が情報処理技術遺産として認定された。また、分散コンピュータ博物館には北陸先端科学技術大学院大学のJAIST記号処理計算機コレクションが認定された。


 このうち、1976年に製造された「TK-80」と、1977年に製造された「PANAFACOM Lkit-16」の2点が会場に実機展示された。「TK-80」は、企業の技術者向けに製造されたマイクロコンピュータ(マイコン)のトレーニングキットで、後のPCにつながるもの。「PANAFACOM Lkit-16」は国内初の1チップ16ビットプロセッサが使用された。


保存の難しさ・ソフトウェア収集の課題


 このように貴重な機器が多数存在するが、情報処理に関する専門の博物館が存在しない日本では、それらの保存が難しいのが現状だ。2010年の調査結果でリストアップされていたものが、認定する段階になって調べてみると所在が不明になっているケースもあったという。またソフトウェアの認定に関しては、今回は9点の情報処理技術遺産のうち、1点もなかった。


 情報処理学会歴史特別委員長の発田弘氏は、「(計算機などの)ハードウェアはともかく、ソフトウェアは保存が難しい上、マニュアルやソースコードがきちんと管理されて残されていないのが現状」と語った。厳しい保存状況だが、遺産認定活動によって、引き取り先をあっせんして廃棄を免れたものもあるという。発田氏は「我々の活動が世の中に認知されてきた。今後も調査を引き続き行っていきたい」と活動に意欲をのぞかせた。

マイコントレーニングキット「TK-80」に見入る参加者   「SENAC-1」の開発当時を語る渡部氏
マイコントレーニングキット「TK-80」に見入る参加者   「SENAC-1」の開発当時を語る渡部氏

技術者のエピソードも


 認定式の後に行われた講演では、創価大学名誉教授の渡部和(ひとし)氏が登壇した。渡部氏はNEC在籍時に電子計算機「SENAC-1(NEAC-1102)」(2008年度に情報処理技術遺産認定)を1958年に開発した。


 渡部氏は濾波器(フィルター装置、特定の周波数を取り出す機器)の設計をしていたが、設計の計算にあたり手動の計算機を使用していたため、膨大な計算量が必要であった。「この計算から脱するために、電子計算機の開発を、1人で勝手にやり始めた」という渡部氏は、1954年から通常業務と並行して電子計算機の回路設計を1人でやり続けたという。


 その後の1957年、東北大学が計画していた科学技術用計算機を共同開発するにあたって渡部氏の設計が全面採用され、SENAC-1の完成に至ったという。渡部氏は「(勤務していた)工場前に引っ越して計算機研究の時間にあてたり、上司に計算機の必要性を何度も説いたりした」と、当時の様子を振り返った。


 情報処理技術遺産は、機器の実物を見て技術の発展過程を知ることができる。渡部氏のエピソードも合わせて、当時の開発者の熱意を追体験することが出来る貴重なイベントであった。

(中西 啓)

【セミナーデータ】

イベント名
:情報処理学会第73回全国大会
主催   
:一般社団法人情報処理学会
開催日  
:2011年3月2日~4日
開催場所 
:東京工業大学大岡山キャンパス(東京都目黒区)

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