セミナーレポート

「日加シンポジウム」が開催

日本とカナダが公文書・図書資料の管理について意見交換

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2011/3/31

 2011年2月2日、東京都港区のカナダ大使館にて日加シンポジウム「理想の電子政府文書管理、国立図書館、及び国立公文書館~知的資産の保存と利用のための新しい枠組みづくり~」が行われた。

 国会図書館や公文書館をはじめ、各国の政府機関は、インターネットと記録媒体のデジタル化によって、文書管理と利活用方法の変革を迫られている。今回のシンポジウムは、カナダ国立図書館・公文書館の館長であり、カナダ連邦政府電子図書管理政策に携わるダニエル・キャメロン博士来日にあわせたもの。文書管理と利活用に関する両国の意見交換が行われた。

カナダ国立図書館・公文書館長のダニエル・キャメロン博士
カナダ国立図書館・公文書館長のダニエル・キャメロン博士

カナダの記録管理の歴史


 ダニエル・キャメロン博士は、カナダにおける公共の記録保存について講演を行った。


 キャメロン氏は情報通信技術の急速な発展によって、情報や知識に対する概念や社会にとっての有用性が根本的に変わったことを再認識すべきだと語った。その上で「カナダでは民主主義政府の台頭によって『記録する』行為が政府の国民に対する義務として重要になっていった」と指摘。


 つまりカナダ政府は民主化によって、記録を作成し維持管理、保存することが必然となり、政府の行動の説明責任を国民に対してきちんと行わなければならなくなったことになる。


 同政府は記録について国民に対する説明責任・透明性を強化する法律を2000年初頭に制定している。
 また、同時期に「保護体制の不足」「管理手順が弱い」といった理由から、同国会計検査院より、古文書などの文化遺産を紛失するリスクが高いという報告を受けた。この報告を真摯に受けとめた政府は、同国の資料管理が危機的状況であると認識。新しい記録管理制度を2004年に施行し、カナダの全国立資料館・全国立図書館を一つの組織とすることで、同国における情報源の管理を刷新している。


カナダと日本の取り組み


 キャメロン氏の講演を受け、内閣官房公文書管理検討室・内閣府大臣官房公文書管理課参事官の岡本信一氏は、カナダにおける記録管理について補足した。


 カナダでは1992年~1993年の政権交代による緊縮財政政策によって、政府職員の人員削減が行われている。しかし政府の財政赤字は解消される反面、資料管理の予算も削減されてしまう。岡本氏は「カナダ政府が記録管理の能力低下を防ぐために、情報アクセス法を制定するなどして、『情報管理』を重要な活動と位置付けて取り組んできた」と意見を述べた。


 このようにカナダの記録管理に注目する一方、岡本氏は日本の公文書管理に言及している。日本では2009年に公文書管理法*1が新たに制定公布され、2011年4月から施行される。


 岡本氏は同法の施行について1.統一的な管理ルールを法令で規定、2.専門家のサポートを受けながら歴史資料として重要なものの評価・選別をできるだけ早期に行う仕組み(レコードスケジュール)の導入、3.内閣総理大臣による実地調査制度や勧告制度を新設するといったコンプライアンスの確保、4.外部有識者の知見の活用と国立公文書館の機能強化、5.歴史公文書等の利用促進、という5つのポイントを挙げている。

国立公文書館長の高山正也氏   国立国会図書館長の長尾真氏
国立公文書館長の高山正也氏   国立国会図書館長の長尾真氏

日本の公文書・図書資料の管理について


 日本の公文書管理については、国立公文書館長の高山正也氏も講演した。


 日本では公文書の作成量の増大や電子政府化の進展などを背景に、公文書館体制の強化拡充が社会的な課題となっている。


 欧米諸国に比べて公文書館制度の体制の差は実は圧倒的(国立公文書館の職員数が米国2550人、ドイツ800人に対し、日本は42人)だ。しかし数百人規模で行う公文書館の活動は日本の経済財政環境や適切な人材不足などにより難しい状況だ。そのためデジタル化をはじめとした公文書管理の技術革新や人材の養成が必要不可欠となる。同氏は「公文書管理法の施行が公文書管理改革の到達点ではなく出発点。これから粘り強い公文書文化の変革に向けた努力が必要」と強調した。


 日本の図書資料の管理については、国立国会図書館長の長尾真氏が登壇した。国立国会図書館では国会議事録(戦後)が全て文字テキスト化され検索が可能であり、1867~1925年の同館所蔵の全ての図書をデジタル画像で読むことができる。一方で、図書のデジタル化には著作者の許諾を必要としたり、著作者を探し出すのに手間がかかることが課題となっている。


 長尾氏はIT時代に望まれる著作権法に言及。万人が読者であり、著作者である時代から、著作物の相互利用を促進すべきであるとし、フェアユース*2利用の活性化を挙げた。そして日本・カナダ両国が取り組む、蔵書の電子化・ネットワーク化のような知識インフラの必要性を説いた。


 今回のシンポジウムでは日本とカナダの目指す公共の記録保存の歴史や取り組みに関して、両国代表者における意見交換がなされるのみならず、両国の図書館、公文書関係者一同が揃う貴重な機会となった。両国の資料保存に関して国際交流の場になっていたと感じる。両国が互いに切磋琢磨して、よりよい記録管理・資料保存の形を築いていくことを期待したい。

(山下雄太郎)

注釈

*1:公文書管理法
正式名称は「公文書等の管理に関する法律」。中央省庁による公文書の作成、管理や保存、国立公文書館への移管などについて統一の規定を定めたもの。2009年に成立し、2011年4月に施行される。

*2:フェアユース
アメリカの著作権法にある規定で、著作物の1.使用目的、2.使用量、3.創造性、4.権利者の程度が定められている。大きな特徴のひとつに、著作物の無断利用ができる場合(つまり、著作権が制限される場合)の規定の仕方につき、私的使用のための複製や裁判手続等における複製のような具体的な類型を列挙する方法によるのではなく、抽象的な判断指針を示す方法によっていることが挙げられる。

【セミナーデータ】

イベント名
:「日加シンポジウム 理想の電子政府文書管理、国立図書館、及び国立公文書館
 ~知的資産の保存と利用のための新しい枠組みづくり~」
主催   
:カナダ大使館/カナダ外務国際貿易省
開催日  
:2011年2月2日
開催場所 
:カナダ大使館(東京都港区)

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