セミナーレポート

「ウィキリークスが意味するもの」が開催

ウィキリークスの事件が語りかける様々な問題とは?

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2011/3/10

 2011年2月2日、東京都港区の慶応義塾大学にてシンポジウム「ウィキリークスが意味するもの―外交、ジャーナリズム、ビジネスへの影響―」が行われた。
 このシンポジウムでは2010年11月28日にウィキリークスによって米国の機密文書が公開された事件をテーマとし、機密を守ろうとする国家や、既存のマスメディアなど、様々な観点から話し合いが行われた。

個会場の様子。白熱した議論が行われた
会場の様子。白熱した議論が行われた

情報漏洩は誰が悪いのか


 ジャーナリストの町田徹氏はこの事件について「米国の国防総省・国務省が、9.11テロのあと情報の共有化をはかり、情報の閲覧を結果的には容易な状態にしていたにもかかわらず、ウィキリークスに責任転嫁している」と指摘。


 日本経済新聞論説委員の関口和一氏も「セキュリティは情報を漏らした方・盗まれてしまった方が悪く、プライバシーは侵した方が悪い。この点で大きく違っている」としたうえで、この事件は情報を盗んできた方が悪いという報道になっているが、そうではなく、情報が漏れる状態にした政府組織の方が問題であるとした。


 さらにみんなの党衆議院議員の柿沢未途氏は「行政がもっている情報は全て国民に公開しなければならない」という持論を展開したうえで、今回の事件のように行政が都合の悪い情報を隠そうするのは間違っていると話した。


 同氏は今回の事件で、ウィキリークスが行政にとって都合の悪い情報を一般大衆(公)に公開することを目的としたのであれば、「正しい意味でジャーナリスティックな行為であった」と解釈するべきであると独自の見解を述べた。

発言する慶大特別招聘教授の夏野氏と   参議院議員の世耕氏
発言する慶大特別招聘教授の夏野氏   参議院議員の世耕氏

テクノロジーの変化と問われる既存メディアの存在


 こうした、ウィキリークスの行動を肯定的に捉える意見があるのに対し、自民党参議院議員の世耕弘成氏は「ウィキリークスが報道機関としての役割を果たしていくのか、情報テロなのかはまだわからない」という中立の姿勢をとった。


 世耕氏は速報性という意味では新聞・雑誌よりもネットツールの方に完全に利があると説明。新聞やテレビという既存のジャーナリズムの役割がどうあるべきか、「立ち位置」を明確にしていく必要があると訴えた。


 この既存のメディアの「立ち位置」については町田氏も発言。ウィキリークスに圧力をかける米国政府に対して、新聞などの既存メディアが追及していかなければならないにもかかわらず、ただでさえネットの台頭で広告が減っている自社媒体への広告掲載に影響があるために「ことなかれ主義」に陥っていると批判している。


 こうした既存のジャーナリズムの姿勢を問う意見が出る中、慶応義塾大学特別招聘教授の夏野剛氏はウィキリークスのようにITが社会において壮絶な変化をもたらしているにもかかわらず、これまで既存のメディアが真剣に考えてこなかったと指摘。「テクノロジーの変化」に既存のマスコミも対応していかなければならないとした。


 「テクノロジーの変化」については世耕氏も言及。ネットが政治にもたらした影響で権力の構造が変わったことを例に挙げた。例えば、これまでは派閥のボスが情報を独占していた状況は、インターネットの普及で非常に難しくなっている。


 同氏はさらに、政治家の発言がすべてアーカイブス化される現実を再認識すべきだと言う。様々な発言が瞬時にしてtwitterなどで拡散されることを挙げ、政治家はあらゆる発言について未来永劫的に責任をもたなければならなくなった点を強調した。


情報漏洩をさせないためには


 シンポジウムでは今後、今回のウィキリークス事件のように機密情報を漏洩させないためにはどのような処置が必要なのかについても意見交換がされた。


 夏野氏は、「インターネットというテクノロジーがある限り、ウィキリークスというサイトは誰でもつくれる」としたうえで、むしろ情報を漏らす人間をどう抑えていくかを考えた方が良いと意見を述べた。さらに、「社会が新しいテクノロジーによっておこる変化をどうやって受け入れていくかについて、社会そのものが考えていかなければならない」と主張している。


 一方、世耕氏は「国家公務員法の守秘義務違反は懲役1年のみ。もっと刑を重くするなどしていかなければならない」と発言。情報の持ち出しをさせないようにするために、一定の抑止力をもつ必要があると危機感を募らせた。


 ウィキリークスの事件はいまだに賛否両論があり、意見が分かれるところだ。今回のシンポジウムでは同事件に対して様々な角度から意見を出したうえで、既存のメディアの存在意義や情報を漏洩させないためにどうしたらいいかなどについて話が展開していき、非常に聞きごたえがあった。同時に今回の事件の影響力の大きさを痛感する貴重な機会だった。

(山下雄太郎)

注釈

*:ウィキリークス
匿名により政府、企業などに関する機密情報を公開するウェブサイト。投稿者の匿名性を維持し、機密情報から投稿者が特定されないようにしている。創始者はジュリアン・アサンジ。

【セミナーデータ】

イベント名
:「ウィキリークスが意味するもの―外交、ジャーナリズム、ビジネスへの影響―」
主催   
:慶応義塾大学プラットフォームデザイン・ラボ
開催日  
:2011年2月3日
開催場所 
:慶応義塾大学(東京都港区)

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