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2013/3/21

言文一致体

概要

 言文一致体とは、話し言葉(口語)とかい離した書き言葉(文語体)に、話し言葉を取りいれることで、生み出される新しい文体(≒口語体)を指す。主に明治維新以降広まっていき、現代の文体の基礎となっている。


日本語の発生と口語・文語


 話し言葉と、書き言葉のかい離自体は昔から存在している。話し言葉が存在していたはずの古事記以前において法令などの文章は、漢字のみ文法は漢文を使った、いわば「中国語」で書かれていた。漢字を「日本語の文字」として導入(=借字)し、日本語として書かれた文章は「古事記」が最古になる。


 この借字は後に「万葉仮名」と呼ばれ、純粋に音と漢字を対応させた使い方をしており、現代のように書かれた漢字の意味を取ることはない。古事記から時代を経て平安時代になると、万葉仮名を崩した「ひらがな」が発生。漢文と合わさることで和漢混交文と呼ばれる今の日本語表記の原点となる表記方法が始まった。


 残念ながら当時の「声」は記録に残っていないため、口語と突き合わせた検証をすることはできない。当時、日本正史として記録されている日本書紀、続日本紀、日本後紀などのように正式かつ非日常のできごとは「漢文」で残されている。それに対して日常の内容を記す和歌に使われた万葉仮名や、そこから発展したひらがなで書かれた文章は、相対的に口語に近かったのではと考えられている。ひらがなと漢文が合流した和漢混交文への変化は、古代における「言文一致」の一種と見ることもできる。

発音と万葉仮名の対応一例(あ行)
ほかにも1字で2、3文字の発音を表す漢字もある

明治期から近現代の言文一致


 言文一致が元来の意味で使われているのは明治維新以降。これまでの古典文学と切り離した新しい文学を創造するための一手として語られることが多い。同時に、近代文学と古典の敷居が、大抵ここに引かれる理由の一つにもなっている。作風ががらりと変わり、原文でも比較的読みやすい文体へと移行している。


 教科書にも引用される言文一致体の作品と言えば、坪内逍遥の刺激を受けた二葉亭四迷の「浮雲」が有名だ。しかし「浮雲」で言文一致体が完成したわけではない。むしろ「浮雲」を嚆矢に、自然主義文学の代表格である「蒲団」を書いた田山花袋を始め、数多の文学者による試行錯誤によって、明治期に始まった「言文一致体」は練り上げられていく。現代においても、言文一致は逐一されている。特に外来語などは、正しいとされる表記が発音=口語に忠実な表記に改められることがままある。


 また、近年における大きな言語の変化の要因に、インターネットを媒介した電子メールや掲示板、SNSの台頭がある。インターネットを経由した文章の変化は、日本史上行われてきた言文一致のように、文章技術に卓越した文学者や知識層による試行錯誤ではなく、一般市民の側が自らの生活を体現する言葉としての言文一致を進めている。インターネットメディアは、これまでの紙などのメディアと異なり高い即時性を持っており、やりとりは文章よりも会話に近い。そのため、よりダイレクトに会話文をそのまま起こしたような文章への移行が今日も続いている。

(井上宇紀)

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