特集などに出てきた重要語句を分かりやすく解説
HPCI
概要
HPCI(革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ)とは、兵庫県神戸市にある理化学研究所(以下理研)・次世代コンピュータ開発実施本部に置かれた次世代スパコン「京」と、全国の大学や研究所にある主要なスパコンを結び、多様なユーザニーズに応える計算環境を目指す基盤を指す。運用開始後はHPCI上のスパコンで計算したデータを共有することや複数台のスパコンを使い共同で分析することなどが可能になり、まるでひとつの大きな計算機のような環境をユーザに提供できるという。
日本の科学技術の発展や産業競争力の強化に貢献するとともに、スパコンユーザの裾野を広げることなどによって人材育成の場として機能することも構築の目的とされている。
誕生の経緯
「京」の開発が始まった当初、HPCIの構築は計画になかった。しかし、2009年の事業仕分けで数々の批判を受けて一時は凍結が決定した次世代スパコン(のちの「京」)の事業を継続させるにあたり、利用者本位の開発に切り替えることが求められた。そして多様なユーザニーズに応えるためにHPCIが構築されることとなった。2010年4月に文部科学省(以下文科省)で行われた第1回の検討会では、中川正春副大臣(当時)が「これまではスパコンをつくっていく政策だったが、今後はそれを活用し、さらに新たな時代を生み出すところにポイントをシフトする」と政策の転換について述べている。
現在では、HPCIの構築と、この構築を主導する共同体の形成に向けて検討と準備を行う「HPCI準備段階コンソーシアム」が設けられている。公募で決定された、理研をはじめとする研究機関や大学のメディアセンターなど計38機関がコンソーシアムに参画し、準備を進めている。
戦略分野
一方で、HPCIを効果的に使っていくための「戦略プログラム」も文科省主導で始まっている。「京」の演算能力を必要とし、かつ社会的・学術的に特に大きなブレークスルーが期待できる分野で研究支援や人材育成を進める体制を作るため、以下の5分野が「HPCI戦略分野」と位置付けられた(表)。
5分野ではそれぞれに、研究開発などを牽引する機関が決められ、戦略目標が設定された。たとえば『防災・減災に資する地球変動予測』の分野では、「地球温暖化時の台風の動向の全球的予測と集中豪雨の予測実証、および次世代型地震ハザードマップの基盤構築と津波警報の高精度化」を戦略目標とし、海洋研究開発機構が代表機関として事業を進めている。また、『予測する生命科学・医療および創薬基盤』分野では、理研が中心となり、創薬プロセスを革新する新しい技術の確立を目指す創薬応用シミュレーションや、生命プログラムの複雑性・多様性や進化をゲノムによって理解するための大規模生命データ解析など、4つの目標を挙げている。
「京」を含めたスパコン同士のつながりは、社会にどんな成果をもたらすのか。HPCIの運用は、「京」の共用開始に合わせて2012年11月に始まる予定である。
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