経済学的見地からの“業務データ”分析:HH News & Reports:ハミングヘッズ

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渡辺 努 一橋大学経済研究所教授に聞く
経済学的見地からの“業務データ”分析

一橋大学経済研究所教授
渡辺 努
経済学的見地からの“業務データ”分析

政府統計への活用

「政府統計においても、業務データがもたらすメリットは大きい」語る渡辺氏
「政府統計においても業務データがもたらすメリットは大きい」と語る渡辺氏

―消費者物価指数のような統計にもミクロデータは活用されるようになるのでしょうか。

渡辺氏 消費者物価指数は各国で算出されているのですが、従来はどこの国でも、調査員が店を訪問して商品の値段を収集し、物価指数を作るという方法で消費者物価指数を作っていました。日本はまだ立ち遅れていますが、オランダやスイスのような国では、POSデータのような業務データから割り出すということを始めているようです。

渡辺氏 GDPに関しても、業務データを活用して作れないかという試みはあります。GDPの算出には、消費者物価指数とは比べものにならないくらいの膨大な手間とマンパワーが必要なのですが、業務データを使えばはるかに効率化される公算が高い。具体的には、経済活動が活発であるか否かをEメールや銀行送金の本数といったトラフィック(ネットワーク上を飛び交うデジタルデータ)の量に置き換える、という発想です。これらが可能になればGDPも業務データを活用して作られる日が来ると思います。

 消費者物価指数にしろGDPにしろ、他の政府統計にしろ、業務データを使うことのメリットとは、コストダウンももちろんですが、何より迅速にデータを作ることができるという点です。現在、消費者物価指数は月毎であり、GDPは四半期毎です。しかもリアルタイムに発表されるわけではないので、多少のタイムラグがあるわけです。
色々な価格データ
色々な価格データ
POSデータに限らず、様々な業務データが研究に活用されている
資料提供:一橋大学 渡辺 努氏(クリックすると拡大します)
 しかし業務データを使えば、もっと高頻度に、早いタイミングで、昨日の消費者物価指数はこうでした、昨日のGDPはこうでしたという風にニュースで流れるようになるかもしれない。今まで到底出来なかったことが出来るようになり、皆がもっと早く、世の中の現状について認識を持つことができるようになるかもしれません。

―そうすると経済学の研究に関しても、もっと緻密な分析ができたりするわけですよね。

渡辺氏 そうですね。あるいは政府政策に関しても、もっと迅速に色々なことが考えられるようになるでしょう。例えば昨今の経済危機についても、統計データが遅れて出てきますので、現状を把握するのがいつも後手になってしまいます。何か対策を打つにしても、もっと早く状況を把握できれば、タイムリーに対応できますよね。世の中これだけ忙しく動いているにも関わらず、1ヶ月遅れ、四半期遅れでデータを見ているというのが逆に不思議な気がします。

経済活動の未来予測

―業務データの可能性は、他にどのようなことがありますか。

渡辺氏 業務データを使った経済現象の研究に関しては、経済学だけではなく物理学の研究者の方々も非常に興味を持って取り組んでいらっしゃいます。そのような方々と親交する中でうかがった話に、非常に印象深いものがあります。
それは、世の中で行われている全ての取引、コンビニで何か買ったとか、銀行の為替を売買したという、要するに全世界で行われている経済取引1本1本を電子化し、さらにそれを全て収集出来たとして、総データ量は一体どれくらいになるかを計算した人がいるのです。そして、それは1台のPCに全て入ってしまう量だと聞いて、私は非常に驚きました。

 PCのハード面の問題よりも、多分一番のネックは、どうやって企業や個人の守秘義務を保護しながらデータを収集するか、という部分に集約されてしまうと思いますが。収集方法の方がはるかにハードルの高い話ですので、実現したとしても遠い未来かもしれませんし、実現可能かもわかりません。
 しかし技術的な面だけで言えば、1台のPCに擬似的に世界経済の全て収めることが可能なのですね。もしそんなことが出来れば、そのデータを使って本当に様々なシミュレーションが出来ます。明日マンハッタンのこの地域でこういうことが起きるとか、1ヶ月月先にはこういう事象が起きるとか、まるで地域別の天気予報のように予測できるようになるかもしれない。それが可能になれば、我々のマクロ経済の研究成果ももっと様々な人が活用できるようになると思います。

―もっと具体的な経済予測が可能になるかもしれないと。

将来的な経済予測のあり方、その可能性について語る渡辺氏
将来的な経済予測のあり方、その可能性について語る渡辺氏
渡辺氏 現在中国の景気が非常に良いと言われていますが、そうすると中国の具体的にどの地域の経済活動が一番活発なのか、トラフィック量を正確に把握出来れば、地域も時期もピンポイントで特定できます。どれくらいの速度で拡大しているとか、その余波がいつごろどのような形で日本に来るのかという予測も立つようになります。雲の動きを知るように、経済活動を目に見えるような形にする、業務データの研究はそれくらいの可能性を秘めたものであると思います。

RIETI政策シンポジウム「大規模業務データから何を学ぶか」が開催



※このインタビューとセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



注釈

*:EBS(Electronic Broking System)
EBS社が行っている電子仲介システム。為替ブローカーに頼らずに、各銀行などに設置された端末から直接為替取引の注文を出すことができる仲介方法。



【渡辺 努(わたなべ つとむ)氏 プロフィール】

【現職】
一橋大学 経済研究所教授
物価研究センター教授

【略歴】
1982年東京大学経済学部経済学科卒業後、日本銀行に入行。1992年ハーバード大学ドクター・オブ・フィロソフィー 取得。1999年日本銀行退職後、一橋大学経済研究所助教授に就任、2002年より現職。専門分野はマクロ経済、国際金融。2006年度よりスタートした学術創成研究「日本経済の物価変動ダイナミクスの解明:ミクロとマクロの統合アプローチ」の研究代表者を務め、一橋大学内に物価研究センターを立ち上げる。

【著作】
『検証 中小企業金融―「根拠なき通説」の実証分析』(日本経済新聞社)渡辺努・植杉威一郎 共編著 2008
『新しい物価理論―物価水準の財政理論と金融政策の役割』(岩波書店)渡辺努・岩村充 共著 2004

(掲載日:2009年10月7日)

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