激変する時代を生き抜くための企業活動とは:HH News & Reports:ハミングヘッズ

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公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
(動画あり)

大久保和孝 新日本有限責任監査法人CSR推進部長に聞く
激変する時代を生き抜くための企業活動とは

新日本有限責任監査法人CSR推進部長
大久保 和孝
「激変する時代を生き抜くための企業活動とは」

危機対策の本質

―コンプライアンス対策において重要なことは何なのでしょうか。

大久保氏 コンプライアンスという言葉はもともと「Comply」という動詞から派生したもので、その語源は「満たす、充足する」とされています。また工学用語では「しなやかさ、柔軟性」とも訳されます。つまりコンプライアンスの本質はいかに組織が社会に柔軟に対応し、調和することができるかを考えることであり、決して単純な法令遵守ではないのです。

日本と米国の法意識の違い
日本と米国の法意識の違い(クリックすると拡大します)
 例えば米国のように多民族・多宗教による多様な価値が、1つの経済システムの中で共存し、客観的かつ合理的に決定する法令等に経済価値の全てを表している国では、社会からの要請は全て法制化されることから、コンプライアンス=法令遵守の図式が成り立つかもしれません。

 しかし日本は単一民族的思想が強く、例えば企業活動においても、業務契約を締結する前から業務が開始し、仮に現場でトラブルが生じても、弁護士が出てくるのはあくまでも最後の手段でしかありません。また、日本人の法に対する意識は、律令制度*1に象徴されるように、「法令はお上(役所)が(勝手に)定めるものであり、社会生活上はそれとは別の社会規範としての『村の掟』がある」という二層意識、つまり本音と建前の存在がありました。その意味では、社会生活上は“お代官”が定めた律令制度よりも、村人たちで決めた“掟”を遵守することのほうが重要とされてきたのです。

―そういった日本人の法意識はどのような問題を引き起こすのでしょうか。

大久保氏 例えば、最近になって急に問題となってきた「談合問題」が顕著な例です。談合問題の根本的な要因に、国が物を購入する際に準拠すべき法令としての「会計法*2」が1889(明治22)年の会計法制定時に定めた基準が現在に至るまで何ら変わっていないことにあります。文明開化の時代に単純な仕様で物を買おうとした判断基準を、現在のように高度化・複雑化した商品を購入する際に用いようとしても当然限界があります。その穴を埋めるという形で談合が行われるという仕組みだったのです。すなわち、会計法が、経済実態とは大きく乖離しているにも関わらず、条文そのものは100年以上何ら変わることなく運用されてきたのです。

 冒頭で述べた企業不祥事の背景にも、日本人の法意識の二層化は強く影響しています。企業にとっては、法令の背後にある社会の要請や期待を如何に捉えることができるかが重要になってくるのです。「なぜ問題が起こったのか(社会の期待や要請は何か)」「何が重要なのか」これらを捉えた活動こそがコンプライアンスであり、法律は社会の要請を知るための単なる手がかり(旗印)に過ぎないのです。

今後の企業の課題

―企業は危機対策をどう捉えるべきでしょうか。

大久保氏 様々な経営用語が飛び交いますが、「コンプライアンス」「リスクマネジメント」「CSR」の3つは、いずれも社会からの要請や期待を受け入れるという意味では同義です。社会からの要請や期待が顕在化する時点間(タイムラグ)の相違にすぎません。

 例えば、狭義のコンプライアンスは、社会からの要請のうち、重要性が高くかつ緊急性の高いものを中心に対応を図ります。例えば道路交通法を例にすると、昨今の社会環境では飲酒運転は「コンプライアンス」として取り上げます。しかし、速度制限やシートベルトの着用は、重要であっても社会からの要請としての緊急性は中位ということで一般的には「リスクマネジメント(危機管理)」として扱われます。地震や火事もそうです。そしてさらに中長期的スパンで環境変化要因を捉えようとするのが「CSR」なんです。

―CSRもその定義が難しいですが、どのようにお考えですか。

大久保氏 CSRと言う言葉が、最も企業の経営者に誤解されていると思います。CSRとはそもそも慈善事業的な社会貢献に取り組むことではありません。現実的に社会で起きている社会問題を、企業がどのように事業化して対応を図っていくかを考えるものなのです。
 しかし、多くの企業のCSR活動は企業本位の取り組みばかりで、そもそも社会問題を捉えきれていない場合が多いのが現実です。それを象徴しているのは、CSR担当者ですら政府が組もうとする補正予算の中身を知らないことが多いのです。補正予算というのは、その時々の社会問題がすべて包括されているのです。社会全体の問題を把握することなくCSR活動を行うことは、単に企業本位の自己満足的な取り組みをしているにすぎません。

 例えば、社会問題をその重要性(主観的で構いませんが体系的な整理が前提)でランク付けした時に、上位から順に100番目まであった時、85番目くらいの問題を取り組んでもあまり社会的には意味がありません。しかし、例えば社会問題の1番目が北朝鮮問題だとすれば、さすがに一企業での対応は無理です。重要なことは、より高位の順位から検討を行い、自社でできる取り組みを行うことなのです。例えばコンビニから出る年間の弁当の廃棄量は一国のODA(Official Development Assistance 政府開発援助)相当とも言われています。この業界が取り組むべきCSRは、植林活動ではなく、食料廃棄問題であるということになります。単純かつ一方的な活動や、思い付き、あるいは付き合いで寄付をすること自体に意味がないとは言いませんが、それはCSRではありません。

コンプライアンスへの取り組みは企業競争力の源泉
コンプライアンスへの取り組みは企業競争力の源泉
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 「社会問題を事業の中に取り込む」とは事業として採算をとる、つまり事業計画の中に明確に位置付けるということです。タイでの社会貢献を例にすると、タイの社会問題はエイズ・労働・貧困の3つです。そういった中で、日本企業が植林事業や教育支援にいそしむ中、欧米企業はエイズ問題への取り組みを率先しています。エイズ発症が最も多いといわれているのは20代後半ですが、10代後半で入社した社員が20代後半なり企業に貢献する人材に成長した時、エイズによってその貴重な人材を失うのは重大な「企業のリスク」なのです。だからこそ、率先してエイズ問題に取り組むのです。CSR活動とは、社会の問題に取り組むとともに、企業自身のリスクマネジメントにもなり、社会と企業の両者がWin-Winの関係を築くことなのです。
 こういう説明をすれば、投資家もCSRの活動を理解できる。ただのきれいごとでも思いつきでもない、そこに企業の戦略があるわけです。

 そして、ビジネスを通じて積極的に社会問題に取り組んでいけば、結果として社会からの信頼が上がり、ブランド価値が高まり、企業の競争戦力となっていきます。これだけ社会問題が鬱積しあるいは社会の不信感が高まる中では、積極的に社会問題と向き合っていくことは、むしろ、同業他社との差別化にもつながり、本気で社会の課題に取り組んでいけば、それがまさにビジネスチャンスともなるのです。
 社会からの要請や期待に積極的に応えていくという観点からは、CSRもコンプライアンスも重なり合う概念として捉えることができ、いずれの取り組みも企業競争力の源泉ともなるのです。

―企業が今後取り組むべき課題は何だとお考えですか。

大久保氏 今、私が最も関心を持っているのは教育制度です。最近の社会問題となっている企業不祥事の多くは、隠蔽・偽装・改ざんなど見てもいずれも直接的な法令違反行為ではありません。極端なことを言えば、法令の1つ2つ違反しても企業は倒産しませんが、社会の関心事や常識に反した行動を行えば些細なことでも瞬く間に企業は倒産します。今、企業にとって最も大切なことは、きちんとした倫理教育をどう醸成できるかではないでしょうか。そして倫理観とは人に押し付けられるものではなく、自発的でなければならないのです。法令遵守のように決められた規則を一方的に遵守させようとするのではなく、倫理観のように自発的に取り組んでいけるような仕組みを作らなければならないのです。
「生き残るのは最強の種ではない。最も高い知能を有している種でもない。最も敏感に反応する種である」大久保氏はダーウィンの言葉を引用し、社会環境変化への適応の重要性を説く
「生き残るのは最強の種ではない。最も高い知能を有している種でもない。最も敏感に反応する種である」大久保氏はダーウィンの言葉を引用し、社会環境変化への適応の重要性を説く
 そもそも倫理感とは、言い換えれば仲間意識です。企業の構成員の1人としての仲間意識をどう育てていくか。倫理感を醸成させるために重要な要素は「自分でものを考える力」「(社会との)コミュニケーション力」「社会の要請を敏感にキャッチするセンシティビティの醸成」「自尊心・自負心の醸成」の4つであり、これを社員1人1人が実現するためには、社内にどういった仕組みを作るかを考えることが重要です。体制整備を中心としたPDCA(Plan Do Check Action)から、倫理感の浸透を目的としたPDCAを考えていくことで、時代の変化に敏感な人材を1人でも多く育成し、持続的成長を実現させていく必要があるのです。


「内部統制の意義について新日本有限責任監査法人が講演」セミナーレポートはこちら

「新日本有限責任監査法人『理念経営の実践とCSR 2009』セミナーを開催」セミナーレポートはこちら



※このインタビューとセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



注釈

*1:律令制度
主に古代東アジアで見られた中央集権的な統治制度。日本では7世紀初頭に中国から導入したとされている制度。

*2:会計法
昭和22年3月31日法律35号。国による歳入徴収、支出、契約等について規定した日本の法律。



【大久保 和孝(おおくぼ かずたか)氏 プロフィール】

【現職】
新日本有限責任監査法人 CSR推進部長
パートナー 公認会計士
株式会社新日本サステナビリティ研究所 常務取締役

【略歴】
慶應義塾大学法学部法律学科卒業(独占禁止法、国際経済法専攻)。中央政府における企業会計手法の導入アドバイザーとして行政改革・規制改革に関与するほか、政策分析ネットワークを通じた政策研究を行う。また、企業・行政機関・大学等に対する不祥事等の危機管理対策・再発防止策に関係する委員会委員等を歴任。各種研修会講師、早稲田大学等複数の大学非常勤講師。

【主な活動】
ECS2000(倫理法令遵守マネジメントシステム)規格の作成委員
ISO/COPOLCO対応 第1回企業の社会的責任ワーキンググループ(経済産業省)
情報セキュリティガバナンスワーキンググループ(経済産業省)
社会的責任研究会委員・国内排出量取引制度検討会委員(環境省)
研究費不正対策検討委員会・核物質管理センター評価委員(文部科学省)
建設業における内部統制のあり方に関する研究会委員(国土交通省)
横浜市コンプライアンス外部評価委員、不二家信頼回復対策会議委員
慶應義塾大学150周年記念事業福澤諭吉記念文明塾 アドバイザー
高知大学学長アドバイザー
他、多数の団体のCSR/コンプライアンス対策委員として参画

【著作】
『会社員のためのCSR入門』(第一法規)共著 2008
『会社員のためのCSR経営入門』(第一法規)共著 2008 など


(掲載日:2009年6月5日)

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