国立国会図書館の蔵書電子化と未来の図書館の姿 長尾 真 国立国会図書館長:HH News & Reports:ハミングヘッズ

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国立国会図書館の蔵書電子化と未来の図書館の姿


長尾 真 国立国会図書館長

目次

 国立国会図書館では現在、蔵書の電子化に取り組んでいる。アマゾンのKindle、アップルのiPadの発売により勢いづく電子書籍端末の動きや、日本・中国・韓国の国立図書館同士で結ばれた協定なども含めたこれからの展望について国立国会図書館長である長尾真氏にお話をうかがった。

電子書籍市場の急成長について

 書籍販売の売り上げが落ち、電子書籍の売り上げが伸び始めている。日本国内の書籍・雑誌の推定販売金額をみると1996年には2兆6564億円だが、2009年には1兆9356億円と大幅に減少している。一方で、電子出版市場は2001年の4億円から2008年の467億円と急成長している。

長尾 真 国立国会図書館長
長尾 真 国立国会図書館長

―アマゾンのKindle、アップルのiPadなど、電子書籍端末の販売が盛んです。これまでの日本における電子書籍端末普及への流れについて所感をお聞かせください。

長尾氏 新聞や雑誌が毎日電子配信されるようになり、電子的にどんどん購入できるようになれば、電子書籍端末の普及がますます広がってくるのではないでしょうか。
 新聞、雑誌のように一過性のもの、1回読みきりのようなものについては電子端末の方が、相性が良い。一方で、本のように何度も「じっくり読みたい」というのであれば、まだまだ紙の方が便利です。

―新聞報道でも取り上げられていましたが、紙の本の良さは普遍的であると多くの人が感じています。その辺りはいかがでしょうか。

長尾氏 紙の本はなくならないと思います。特に年配の方は紙の本に慣れていますので。
しかし、20代、30代の人たちというのはいわゆる「パソコン世代」のため、電子書籍端末を自由に使うことができます。加えて電子書籍端末には多くの本を記憶しておくことができるため、いつでも自分の好きな本を取り出して読むことができる。多くの学術書が1つの端末に入るのなら、私も喜んで使います。
長尾氏は、電子書籍端末の普及への流れを肯定的にとらえる
長尾氏は、電子書籍端末の普及への流れを肯定的にとらえる

Googleの攻勢

―Googleが「Googleブックス*1」「Googleエディション*2」によって、書籍の電子化を進めていますよね。

長尾氏 本を電子化することによって、利用者が電子書籍端末でどこにいても自由に読めるようになります。
 しかしそのためには電子書籍の流通プラットフォームをうまく構築して、利用者にとってそう高くない値段で、電子図書の相互利用ができるような環境をつくる必要があります。端末を広く普及させることと同時に、そうした利用環境を整えることが非常に重要になってくるのです。

 ですから、電子書籍の流通プラットフォームをどのように構築するかが今業界で最も関心の高いものとなっています。
 現在Googleエディションで行っているのは、出版社が本をGoogleに預け、Googleがデジタル化してデータベースに電子書籍を貯めて、利用者に販売する。Googleは売り上げの中から手数料をとって、残りの金額を出版社に渡すという仕組みです。

 Googleは今、日本の出版社に対してものすごく攻勢をかけている。ぼやぼやしていると、日本の出版社がGoogleの傘下に入ってしまいます。これは非常に危惧するところです。

国立国会図書館の蔵書電子化

 2009年度補正予算において、約127億円の予算が計上され、国会図書館の蔵書資料の電子化*3を進めている。今回電子化される蔵書で許諾が得られたものは、インターネットで閲覧可能となり、その他のものは国会図書館館内のPCでのみ閲覧可能となる。デジタル化の対象は、戦前期刊行図書、古典籍資料、官報、学位論文などだ。また、館内でのみ閲覧となるのは、戦後期刊行図書(1945~1968年納本分)、雑誌(戦前~2000年刊行分)などとなっている。今回の計画により、国内図書の約1/5にあたる約89万冊が電子化終了となることが見込まれている。

図表1 デジタル化資料の利用提供(枠組み)
図表1 デジタル化資料の利用提供(枠組み) (クリックすると拡大します)

―国会図書館で進めている蔵書の電子化の現状についてお話をお聞かせください。

長尾氏 そもそも、国会図書館の「役割」は2つあります。ひとつは「保存」――すなわち書籍を永久保存するということ。もうひとつは誰にでも「利用」してもらうということです。現在進めている蔵書の電子化もこの「役割」に基づいて行っています。もちろん図書館の場合は無料で読んでもらうというのが原則ですので、図書館に来た人はこうした電子化された蔵書も自由に読むことができます。
 紙の本と電子化されたものの「どちらが良いのか」については難しいところですが、紙の本であれば、国会図書館の場合は、書庫から取り出してきて、利用者に渡すのに、15分~20分待ってもらわなければなりません。また利用者がコピーをする場合、本が痛むというデメリットがあります。その分、電子データはプリントするのに便利ですし、待たなくても良いというメリットがあります。




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