電子情報の開示(e-Discovery)について何を注意するべきか:HH News & Reports:ハミングヘッズ

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町村泰貴 北海道大学大学院法学研究科教授に聞く「電子情報の開示(e-Discovery)について何を注意するべきか」

北海道大学大学院教授
町村 泰貴
「電子情報の開示(e-Discovery)について何を注意するべきか」

日本の情報開示の課題

―日本の法制度で、企業の情報開示の課題はどんなところでしょうか。

町村氏  まず、1つは開示義務があっても強制力が欠けているという点です。アメリカのディスカバリーには強い強制力があるのですが、日本の場合は強制することができないことが弱点の1つとなっています。日本にも、訴訟の相手方に質問して回答を求めるという、当事者照会制度があります。当事者同士で照会し合う制度ですけれど、これが全然使われない。なぜかというと、照会に対して相手方が回答してくれる保障がないのです。答えなくても何も不利になりませんから。照会する方は、情報が得られる保障もなく、むしろ自分の手の内を相手にさらすことになるのです。「何が知りたい」ということを敵対する相手に教えてしまうわけですから。これは単純に言ってマイナスです。

 ここの場面では、正直に答えないと後で困ったことになるという制度に変える必要があります。そうなってくると回答が必要ということになりますし、聞く方も、聞くことによって手続きを進めることができるのです。今は制度を作ったけれども、まったく強制力がなく、「仏作って魂入れず」という状態です。

―その辺をもう少し、国が取り組まなければならないということでしょうか。

情報開示の課題について語る町村氏
情報開示の課題について語る町村氏
町村氏 そうです。今は強制力がないから、照会を求める条件もゆるく、何でも聞くことはできるのです。しかし強制力がかかるとなると、聞いていいことと悪いことと、きっちりと区別して、照会できないことを照会したときには回答しなくてもよいというルールを整備しなければいけなくなります。それだけ考えることが多くなるのですが、それをやらないと、「絵に描いた餅」になります。
 それから裁判で企業に開示を求める場合も、それに従わない場合に適切な制裁がないと、結局、隠したり嘘をついりした方が得だということになってしまいます。それでは「積極的に情報を開示して身の証を立てましょう」という企業の意欲を削いでしまい、最終的に破綻するまで隠し続けるインセンティブにつながっています。そういう意味では、コンプライアンスを重視する経営を広げていくためにも、それによって得をするようなプラスのサンクション(社会的制裁)が必要です。
 また「ここだけは絶対秘密を守ることができる」という保障がないとなかなか開示に応じられないということがあります。その開示の範囲を広げて強制力をかけるということと、開示しなくてもいい情報をきっちり守るということのの両方において、日本の法制度は改善が必要だと思います。

裁判員制度による変化

―米国では陪審員制度がe-Discoveryを加速させていますが、日本でも裁判員制度となったときに同じことが言えるのでしょうか。

町村氏 まったくそのとおりだと思います。裁判員制度は刑事裁判ですが、日本でも取り調べ過程の可視化がホットな話題になっていますが、裁判員に取り調べ方法が適正だと納得させるためには、その適正さを分かるように立証しなければなりません。
 電子情報についても、裁判員が納得するかたちで、電子情報の正しさを明らかにしなければなりません。フォレンジックの技術もブラックボックスではダメなのです。フォレンジックの過程で、「このようにしっかりと情報を確保しました。改ざんの可能性はゼロです」ということが後付けられてくれば、それは裁判員に対する、証拠の説得力につながります。そうすると日本でも電子情報の取り扱いをきちんとしようという方向につながります。

―電子情報にすれば、万人が見てもわかりやすいとなりますよね。他に町村先生の目から見て、以前に比べてここは変わった部分というところはありますか。

裁判員制度の変化について語る町村氏
裁判員制度の変化について語る町村氏
町村氏 量刑の部分――すなわち、「これくらいの事情があったら、これくらいの刑罰に処する、反省したらどれくらいカウントする」というところでしょうか。量刑の基準が、今までは裁判所の内部情報にとどまっていて、また決め手となるのは裁判官の常識だったりしたようですが、それをデータベースとして裁判員も使える形で整備して、裁判員のためにわかりやすい例にしようということがでてきました。
 今までも量刑のばらつきというのはありましたし、裁判所によって量刑の重い、軽いという傾向があったとか、東は重い、西は軽いとか、そういうことが言われていたわけです。それを無理矢理統一しなければならないということはないのでしょうが、少なくとも裁判に初めて携わる裁判員のためには、これまでどうしてきたかをわかりやすく示す資料が必要なことは否めません。

これからについて

―なるほど。それでは町村先生が今後、取り組んでいきたい研究や、裁判を見据えてこうしたらいいということはありますか。

町村氏 さしあたりは、企業内にしても個人のパソコンにしても電子情報というものが、裁判でどれほど通用するのか、信用できるものは信用できるように扱う態勢作りが必要です。また簡単に改ざんしたものを間違って信用しないようにしなければなりません。そのあたりの適正な取り扱いルールを整備する必要があります。要するに「電子署名」とか「電子認証」だけでは十分ではない、という点ですね。そういうルールが整備されていくと、デジタルの社内文書であっても、その成り立ちからみて、「私たちは適正にやっていました」ということの証拠に使えるわけです。

 また、個々の取引履歴も、改ざんの有無がはっきりするようになれば、ごまかしようがなくなります。そのためには裁判のルールとしても電子情報の取り扱いルールが必要です。「紙媒体で出してください」という時代は早く終えてしまって、電子情報を電子情報として取り扱える体制にして、証拠も申し立てもみんな電子化して共有できるようになればいいと思います。そのことが裁判制度自体にとってもイノベーションになるはずです。証拠だけでなく、裁判の申立てから準備書面、訴訟記録などをトータルに電子化することをe-Filingといいますが、そのためにも法制度も裁判ルールも変えなければいけないと思います。


※このインタビューとセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。





【町村 泰貴(まちむら やすたか)氏 プロフィール】

【現職】
北海道大学大学院 法学研究科教授

【略歴】
1960年 東京生まれ
1986年 北海道大学大学院法学研究科修了
1989年 小樽商科大学講師
1999年 亜細亜大学法学部 助教授
2003年 南山大学法学部 教授
2007年 北海道大学法学研究科 教授(法学政治学専攻現代法講座)

専門分野は、民事訴訟法,サイバー法

【業界関連】
NPOデジタル・フォレンジック研究会(IDF)理事(2004年設立以来)

【主な著作】
『Q&Aケータイの法律問題』(弘文堂) 2007
『デジタル・フォレンジック事典』(日科技連出版) 2006 他


(掲載日:2008年7月17日)

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