裁判のIT化(サイバーコート)とは:HH News & Reports:ハミングヘッズ

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笠原毅彦 桐蔭横浜大学大学院法学研究科・法学部教授に聞く
裁判のIT化(サイバーコート)とは

桐蔭横浜大学大学院法学研究科・法学部教授
笠原 毅彦
「裁判のIT化(サイバーコート)とは」

今後の課題

―技術面でこれから進めていく研究はありますか?

笠原氏 裁判の動画での公開、当事者間の訴訟資料など、データ化された情報を管理するためのリーガルなXMLをどう作っていくかが主な課題ですね。研究が進んでいる名古屋大学などと協力して、作業を進めています。 動画配信にはMPEG4を選びました。理由は、MPEG4にタグをつけたMPEG7になるとXMLになじんでくれる、そうすると訴訟記録を動画であろうと静止画であろうと統一的に記述できるのです。リーガルXMLだけで訴訟資料ができてしまう、というようなものを作り上げるべく研究を進めています。

 あとはデジタル原本の認証問題です。いくらでもクローンができるデジタルデータですから、原本を決めるために認証局が必要になってくると考えています。認証局に関しては、裁判所が独自に持つか、もしくは電子公証制度など従来からあるものを使用する、という形になるでしょう。それからどうやってデジタルデータを保存していくかという保存方法の研究も行っています。

司法のIT活用の現状

―サイバーコートの研究は進められているようですが、現在、日本の裁判所はどこまでIT化が進んでいるのでしょうか。

笠原氏 IT化については、裁判制度の一部ですが督促手続が、民事訴訟法改正でオンライン化されました。また、1998年からISDNテレビ会議システムを利用した証人尋問も導入されています。ただし、インデックス(目次)などがないので、後から見るときにはすべて目を通さなければなりません。また、IPネットを使ったテレビ会議システムと違い、高額な費用がかかるので、裁判官も使用を避けています。 裁判を行う前に行われる弁論準備手続には、トリオフォンと呼ばれる三者間通話システムを利用した、電話会議システムを利用することが認められています。電子署名を利用したオンライン申立ても、札幌地裁で試験的に導入されていましたが、2009年3月で運用を休止しています。

 米国を始めとして、積極的にITを利用している韓国、民事訴訟事件書類のほぼ100%がデジタルデータ化されているシンガポールなどの諸外国に比べ、書面でのやり取りを基本としている日本は、全般的にIT化への取り組みが進んでいるとは言えません。
笠原氏

―サイバーコートプロジェクトなどで、裁判のIT化に向けた活動は進んでいるようですが、肝心の法曹界サイドは裁判のIT化についてどう感じているのでしょうか。

笠原氏 日弁連のコンピュータ委員会でアドバイザーをしていたときに、議論で「クローズドな専用回線にしてしまえばセキュリティの問題は解決する」という意見が出てきました。インターネットを使わなければサイバーコートの意味がありません。こうした意見を持つ方はかなり多いので、海外の事例などを含め、研究会など様々な場所でサイバーコートへの取り組みを紹介することで、弁護士や学者にサイバーコートを理解してもらおうとしています。

 裁判所について言えば、少ないですけれども若手からのアプローチはあります。部課長レベルまでは(裁判のIT化を)進めなければならないと感じているようです。 ただ、裁判所は非常に慎重な組織です。ある裁判所の書記官から「(笠原さんの)研究会に行きたい」というメールをいただいたことがありました。是非どうぞ、ということをお伝えしたのです。書記官の方が裁判所に研究会出席の話をしたところ、最高裁に話が持ち上がってしまい、「一般の人が集まっているところで意見を述べるのはいかがなものか」ということで、結局職員の方は研究会へ出席できませんでした。裁判官も、検察官の方も来られている研究会ですし、下部の研究会には書記官の方もおられるのですが、表からお伺いを立てると慎重すぎるくらい慎重になってしまうようです。

裁判のIT化に向けて

―IT化が立ち遅れている感の否めない日本の司法ですが、これは裁判所の意識の問題だけなのでしょうか。

裁判のIT化は「司法により近づきやすくなるための手段」という笠原氏
裁判のIT化は「司法により近づきやすくなるための手段」という笠原氏
笠原氏 司法に割り当てられる予算が少なすぎるというのも、サイバーコート化が進まない理由の1つだと考えています。現在、裁判所の予算は一般会計のうち、0.4%を切っているのが現状です。米国などと国際比較するために特別会計も含めると、国家予算のうち司法への割り当ては0.06%。このうち8割以上が人件費に割かれ、施設費は多くても1桁のパーセンテージですから、裁判のネットワーク構築などとてもできません。

 道具としてITを活用すれば、離島や北海道のように自宅の近くに裁判所がない高齢者でも、場所を選ばずに裁判をすることができます。またサーバ上でプライバシーに配慮した操作をした上で、オンラインで裁判が行われ、その様子がIPストリーミングでリアルタイムに配信されれば、傍聴席の制限がなくなります。著名事件の裁判でも、傍聴するためのくじ引きに長蛇の列を作る必要もなくなり、裁判の「公開の原則」も実現できるのです。せめて裁判所の庁舎内の配信は実現して欲しいものです。 また、民事訴訟で原告・被告などの当事者が1ヶ所に集まるのが理想ですが、それが困難な場合には集まらずに済みますから、経費の削減にもなりますし、国民に対するサービスとしての司法を実現できます。国民へのサービスとしての司法の自覚があれば、裁判当日に裁判所の受け付けに行かなければ見られない訟廷表(裁判の日程表)も、WEBサイトで事前に公示するようになると思います。米国では、半年後までの訟廷表がWEB上に公開されている裁判所もあります。

 現在の日本の司法では、司法を支える基盤部分が整備されていない部分もあります。例えば司法通訳については、公的な資格というものが日本にはありません。また、免許証もパスポートも持たない個人を証明する公的なものは住基ネットだけで、これも普及が進んでいません。IT化を進めることで、こうした行政上の課題を再確認することにも繋がっていきます。 サイバーコートの実現にあたって、もはや技術面の問題はありません。裁判所がIT化へ積極的に取り組み、なおかつ予算や制度などの問題が解決できれば、すぐにでも導入できると考えています。

※このインタビューとセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。





【笠原 毅彦(かさはら たけひこ)氏 プロフィール】

【現職】
桐蔭横浜大学 大学院法学研究科・法学部 教授

【略歴】
1988年、慶応義塾大学大学院法学研究科博士課程修了
福島学院大学、常磐大学を経て、1993年、桐蔭横浜大学に勤務。
1997年、「法情報学」を講義科目として開き、インターネットと法律の関係を研究。

【研究内容】
高度情報化社会と私法制度(情報、法情報、コンピュータ)

【関連業界】
私立大学情報教育協会 法律学教育FD/IT活用研究委員会委員
情報ネットワーク法学会理事


(掲載日:2009年5月28日)

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