迷惑メールや違法サイトをはじめ、インターネットにおける犯罪が、年を追うごとに増加している。その対策について、通信業界は一体どのように取り組んでいるのか―社団法人テレコムサービス協会のサービス倫理委員会委員長で、また通信業界4団体*1における取り組みの中心人物でもある桑子博行氏にお話をうかがった。
テレコムサービス委員会とは
―テレコムサービス委員会とサービス倫理委員会についてご説明いただけますか。
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桑子博行 テレコムサービス協会倫理委員会委員長 |
- 桑子氏 テレコムサービス協会(以下:テレサ協)は電気通信事業者および情報通信関連事業者を中心とする業界団体です。電気通信および情報通信関連事業の競争市場における健全な発展を図り、その事業全体の発展に寄与することを通し、国民利益の増進と公共の福祉に貢献することを目指しています。
テレサ協の活動の三本の柱として、「健全な競争市場の発展」、「多様な情報通信サービスの創出」、「安全・安心なネットワーク社会の実現」の分野があります。私が担当しているサービス倫理委員会は、「安全・安心なネットワーク社会の実現」の分野に含まれており、具体的な活動には違法・有害情報に関する対応をはじめ、個人情報保護に関する対応、プロバイダ責任制限法に関連した権利侵害への対応、サイバー犯罪等に関する対応、インターネット上の違法・有害情報に関する相談窓口の運営などに携わっています。
最近の取り組み
―取り組みとして最近、主だったものはどんなものでしょうか。
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テレサ協の取り組みを語る桑子氏 |
- 桑子氏 通信業界4団体で様々な取り組みを進めているところですが、平成17年度は自殺志願者がインターネット上で集団自殺の呼び掛けを行うなど、ネット上で自殺に関する書き込みが多発しました。政府としてもこの点は問題視しました。そこでネット上に自殺予告事案が書き込まれたときに「どう対応するべきか」ということを議論してきたわけです。
例えば、一般の利用者が自殺サイトに書き込みを見つけて警察に通報するケースがあるのですが、警察はその通報を受けても誰が書き込んだのかはわからない場合があります。そうした中で、「どうすれば人命救助ができるのか」を検討し、その結果、「プロバイダと警察が連携することで、書き込んだ人を特定できるかもしれない」という結論に至りました。
その際、発信者情報の開示、ある意味で「通信の秘密」というものを開示することがどういう場合に対応できるのかを検討しました。手続きに沿って発信者情報を開示することできれば、人命救助に結びつくのではないかという議論を行い、ガイドラインの作成に取り組むことができました。
また、平成18年度の取り組みとして、インターネット・ホットラインセンターの立ち上げがあります。インターネット上の違法・有害情報や犯罪に関する情報などが増えているなかで、一般の利用者が通報できる仕組みを作った方がよいのではないかとの提言が警察庁の有識者会合で出されております。それらの提言をふまえて、問題となるサイトを発見したときに通報する民間の組織としてインターネット・ホットラインセンターが設立されたもので、業界の代表メンバー等が集まり違法・有害情報を判断するためのガイドラインを策定し、平成18年の6月からインターネット・ホットラインセンターの運用が開始されています。
サイバー犯罪への対応
―現状では実際に行われているサイバー犯罪にどう対応されているのでしょうか。
- 桑子氏 実際のサイバー犯罪に対しては警察庁が各都道府県の警察に専門部隊を置いています。この分野は非常に専門性があり難しいため、全ての47都道府県の警察において十分な対応ができているかというと難しいところもあると思います。
そこで平成17年6月に行われた「インターネット上における違法・有害情報に関する関係省庁連絡会議(IT安心会議)」において4つのアクションプランが決定されています。1つ目はフィルタリングソフトの普及の促進・技術の開発です。2つ目として、プロバイダによる自主規制の支援。これについては国が法律で規制するのではなく、原則は表現の自由の観点などから、自主規制を推進することとしております。3つ目は違法・有害情報対策に関するモラル教育の充実―つまり、国としてモラル教育をしっかりやらなければならないということです。そして4つ目は相談窓口の充実です。
ガイドラインの作成
―インターネット上の違法な情報に対するガイドラインの作成について、どのように進行されているのでしょうか。
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プロバイダ等による自主規制
出典:社団法人テレコムサービス協会
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- 桑子氏 現在では様々な被害が発生しているので、被害者の救済・情報流通の適正な確保を必要としています。この適正さを確保することは非常に重要で、バランスが大切です。
なぜならば、法制度が強化されても、表現の自由が一旦失われてしまうと、もとには戻せないからです。「違法な情報」、「違法ではない情報」を判別することは対象とする範囲も広く難しいところで、われわれとしても懸命にガイドラインを整備している状態です。
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ガイドラインについて説明する桑子氏 |
- 一方で、有害な情報をプロバイダが勝手に削除することによって、利用者から「表現の自由を侵害した」と訴えられる可能性もあります。当然、裁判所で敗訴する場合も十分ありうるわけです。
では、どういう方法で対応すればよいかということですが、利用者はプロバイダとの間で契約約款を交わしています。その契約約款のなかで、「どういう書き込み、どういう行為が許されない行為であるか」や「その行為をしたときに削除するか、契約を解約するか」といった内容を約款にしっかり盛り込んでおく。利用者との間で契約約款に合意いただいた上で契約が行われているとすれば、契約に基づく情報の削除や解約が許されると考えております。だからこそ約款を整備することが非常に大切なのです。
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通信業界における違法・有害情報対策の取り組み
出典:社団法人テレコムサービス協会
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- また、違法・有害情報対策の取り組みにおいて、情報を1.権利侵害情報、2.その他の違法な情報、3.公序良俗に反する情報、4.青少年に有害な情報の4つに分けており、業界として具体的な取り組みを進めております。
進む啓発活動
― 一方、犯罪を防ぐための啓発活動が必要になってくるわけですが、業界が取り組んでいる啓発活動についてお聞かせください。
- 桑子氏 モラル教育に関する取り組みとしては、「e-ネットキャラバン」*2があります。それは、われわれ通信事業者が学校に出向いて、インターネットの基礎的な知識や携帯電話の適正な利用方法に関する勉強会を開くものです。そこで、犯罪に巻き込まれないように子供たちに向けて啓発活動をしています。平成19年度には、全国の小中学校においてボランティアで1000講座の勉強会を開きました。