犯罪・捜査のIT化にともなう刑法のあり方とは:HH News & Reports:ハミングヘッズ

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石井徹哉 千葉大学教授に聞く「犯罪・捜査のIT化に伴う刑法のあり方とは」

千葉大学教授
石井 徹哉
「犯罪・捜査のIT化に伴う刑法のあり方とは」

犯罪・捜査のIT化が進む中、それに対処するべく刑法改正の動きにも注目が集まっている。変化のめまぐるしいネットワーク社会の中において、犯罪を取り締まる際の問題点はどこにあるのか。捜査現場におけるデジタル・フォレンジックの動向も併せて、千葉大学の石井徹哉教授にお話をうかがった。


捜査現場においてのデジタル・フォレンジック

―近年、デジタル・フォレンジックに注目が集まっていますが、刑法をご専門とする立場からみてどのような感想をお持ちですか?

石井徹哉 千葉大学教授
石井徹哉 千葉大学教授
石井氏 犯罪捜査の場面において、そもそも科学が発達していない時代は、犯罪が起こっても目撃者の証言や犯人の自白以外に犯人を特定する術がなかった。しかしそれだけでは確たる証拠として不十分だということで「科学的に証拠を確定していきましょう」という流れのもとに、フォレンジック(法科学)が始まったわけです。その最初の技術が、皆さんもよくご存知の「指紋照合」だと言われています。現場に指紋が残っているという事実から、犯人が実際その場所にいたことを明らかにする。このような物的証拠として、犯罪を立証していくのです。そして現在のようなネットワークが発達した社会においては、犯罪の証拠もコンピュータの中に存在する場面が増えています。

 例えばライブドア事件では電子メールや会社のサーバ、あるいは関係者が使用していたPC内のデータが証拠として大変注目されました。デジタル・フォレンジックの技術ではそれらを適切に収集することができるのです。適切にというのは、データとして正確に集めることはもちろん、刑事手続きに則って合法的に集められるという点でも重要です。デジタル・フォレンジックは「捜査方法の公正さ」も兼ね備えた技術なのです。

石井氏 ネットワーク化が進んだ昨今、犯人は犯行現場に訪れないという場面も多く出てきました。極端な例で言えば、ネットワーク上の掲示板に殺人依頼を書きこんで、他の誰かがそれを実行するとか、最近では放火予告の書き込みも増えています。今までは社会の中で人と人が対面する、または実際に人が動いて犯罪現場に現れないと犯罪にならなかったのが、自分が手を下さなくてもネットワークを通じて犯罪を行えるようになってしまったわけです。犯人がいる場所と、犯罪が起こっている場所がズレるという現象も起こります。そういった局面ではそのつながりを明らかにして、犯罪をきちんと裁判で立証しなければならない、そのためにデジタル・フォレンジックの技術の発達もますます重要になってきます。

裁判員制度導入とデジタルデータの開示について

―デジタル・フォレンジックを裁判の現場で適用する機会は、今後はもっと増えてくるのでしょうか。

石井氏 デジタル・フォレンジックの技術的な手法としては、アメリカもヨーロッパも日本もそんなに変わらないと思います。ところが、特にアメリカは日本よりもはるかに導入に積極的で、デジタルデータ自体を証拠としてとらえて、それを法廷でどういう風に提示をするのかという議論も高まっています。

―日本とアメリカの文化の違い、考え方の違いが及ぼす影響が大きいのでしょうか。

石井氏 そうでしょうね。日本の場合は、捜査の段階でデジタルデータも含め、証拠を全部書類化します。書類化するのが適切かどうかという問題はありますが。アメリカの場合は陪審員制度がありますので、法廷に証拠をデータのまま直接陪審員に提示する、という事情もあると思います。日本も裁判員制度が始まれば、データのまま提出することを可能にする法改正がなされるかもしれません。ただ裁判員制度自体がまだ課題の多い制度なので、それ自体が定着した後での議論になると思います。

デジタルデータの証拠性としての問題

―デジタルデータを証拠として犯罪を立証する場面も、今後増えてくるのでしょうか。

デジタルデータの開示について語る石井氏デジタルデータの開示について語る石井氏
石井氏 ここで難しいのが、デジタルデータというのはかたちがないもの、つまり「無体物」ですから、法規制をする際に、明確に定義することが難しいものです。特に刑罰を科す要件を規定する刑法では、今なお、処罰する対象を「有体物」として念頭に置いています。例えばわいせつな画像をネットワーク上に公開した場合、現行の規定だと画像データ自体を処罰対象とするのではなく、わいせつな画像を保管していたサーバ自体をわいせつ物と解釈して処罰するという方法になります。サーバ自体はかたちがあるもの、つまり「有体物」ですから、法的な明確性のある「客体」として認識されるわけです。ですが、さすがにこのような現状には矛盾があるだろうと、データ自体を処罰する法を作らなければという議論はあります。

 さらに対応が難しいのが、Winny*1が代表的な例ですが、各PCがキャッシュを持ち合って、それがシステムと結合し合い、1つの大きなバーチャルサーバを作っている場合です。それまでは単体のサーバがあって、そこからデータにアクセスするという、つまりハードディスクとデータの所在が一致している場合が多かったのですが、それが最近は分散する傾向にあります。参加している各々のPCは相対としては1つの物であっても、固体としては別々のPCで、ただネットワークで繋がっているだけという状態です。そういった中で犯罪が行われた場合に、どのように法を適用するかといったことも課題としてあると思います。

―新しいシステムに対しての適用が、法律上でなされていかないことには、これからは防ぎきれないものが出てきますよね。

情報窃盗について語る石井氏
情報窃盗について語る石井氏
石井氏 科学技術の発達によって様々なことができるようになると、物理的な制約がなくなってきます。著作権の領域でも同じことが言えるのですが、著作権とは元々は法的に情報を保護するものでした。本の内容や、特許もそうですが、無体財産と呼ばれるもの、いわゆる情報内容自体に価値があって、その情報内容を他者が利用するのを制約する法律です。でもそれは紙(書類、書物)やCDなどかたちがあるもの、つまり有体物に情報が入っているということを前提に情報の利用を制約できていたのです。唯一違ったのが放送ですが、ただTVにしてもラジオにしても情報を提供する側がその取り扱いを完全にコントロールしています。ところがインターネットの世界は双方向ですから、情報を発信する側も受信する側も自由にやりとりできてしまう。そうすると権利者側が情報提供を管理・把握できないという状態になり、問題が生じてきます。音楽CDが顕著な例ですが、PCを使って簡単に複製できてしまうという時代になっているわけですよね。

 また情報窃盗に関していうと、犯罪を処罰する法律を作ろうとしても「どこまで処罰するのか」を決めるのが難しい、また決めたとしてもその制定した範囲にうまくおさまるような、明確な法律を作ることも困難です。コンピュータウイルスの製造や配布を処罰する法律も、明確な規定にするためにわかりづらくなっています。もっとも、この法案は、2004年からずっと審議されているのですが、共謀罪と一緒になっていることもありなかなか可決されないのが現状です。
 
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