IFRSをめぐる議論と日本の取るべき施策:HH News & Reports:ハミングヘッズ

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公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
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平松一夫 関西学院大学教授に聞くIFRSをめぐる議論と日本の取るべき施策

関西学院大学教授
平松 一夫
「IFRSをめぐる議論と日本の取るべき施策」

国際基準vs日本基準

―IFRSと日本基準とでは、どういった違いがあるのでしょうか?

平松氏 一番大きな違いは、IFRSは原則主義(プリンシプルベース)、日本や米国の会計基準は細則主義(ルールベース)、この違いだと思います。細則主義は細かな規則をたくさん作っているのですが、原則主義は大枠の考え方だけを作るという方法です。
 原則主義ですと、監査をする際、あるいは企業が経理・会計処理をする際に、人によって判断が異なるという場面が出てくることが懸念されます。例えば企業側と会計士の間で判断に相違があるとなると、監査は通らなくなってしまいます。細則主義では「こう書いてあるのでこの通り処理します」と言えるわけですよね。細則主義に慣れた日本が、これにどう対応するのか。

 そのためには、企業であらかじめ自社規則を文章化、つまり経理問題についての詳細を取り決めて、社内で徹底し、かつ会計士が問題ないかチェックする、そういう枠組みを作ることが必要だろうと思います。
 韓国も2011年からIFRS導入を決定していますが、やはりもともとは細則主義の国ですので、韓国固有の問題をどう処理するかが大変大きな問題になっています。私もアドバイザーのような形でかかわっていますが、やはり韓国内でルール案を作成し、IASBに審議を諮るという方向しかないだろうと言われており、国内のルールは必要だと考えています。日本においても、細かく自国のルールを決めるという風になっていくだろうと私は考えています。そうしなければ監査ができませんから。

―その他にはどのような違いがあるでしょうか。

平松氏 もう1つ大きな違いが、IFRSが「資産負債アプローチ」であるのに対し日本基準は「収益費用アプローチ」であるということです。
 「収益費用アプローチ」とは、実現した「収益」から、それに要した「費用」を引いて「利益」を出すというものです。対して「資産負債アプローチ」とは、やや極端に言えば時価主義で、「時価の資産」「時価の負債」「時価の純資産」これらの額を期首と期末で比べ、その増減を「利益」とするという考え方です。

 最近、建設業で非常に話題になった「工事進行基準」ですが、これはまさに収益費用アプローチです。当期にどれだけ工事が進んだか、工事の進行度合いに応じて、ある一定の期間内に完成した分を、収益にあらかじめ計上します。全体の何%かを期間に応じて、まだ建物が完成していなくても計上します。
 ところが資産負債アプローチだと、完成して資産が確定しなければ収益に上げられません。まだ議論の途中ですが、資産負債アプローチをつきつめればそういう違いが出てくる恐れがあります。

 米国基準も基本の考え方は時価主義ですから、IFRSと比較的似ています。米国は株主重視ですから、株主の利益が優先になります。日本にもM&A(企業買収)はありますが、日本と米国では発想自体が違います。そしてIFRSは、米国から発展してきた考え方を受け継いでいる部分が多くあります。

関西学院大学 平松一夫教授
 日本は本来、製造、物作りが中心で株主中心の国ではありません。そのような日本的経営や、経営の発想の延長線上にある日本の会計基準と、株主優位の米国の会計基準はおのずと違ってきます。思想や考え方、文化の背景がまったく違うから当たり前なのですが。それをIFRSはじめ、株主優先の米国基準に近い会計基準に合わせようとしている所に、日本のつらさがある。この事実は否めないと思います。

日本の課題と取るべき施策

―IFRSに向け、日本が抱える課題にはどのようなものがあるでしょうか。

平松氏 先ほど韓国を例にしましたが、日本でも日本基準をきちんと作る。これはASBJの課題であると思います。
 ほかにも、IFRSの翻訳の問題があります。理解が深まるにつれ、訳が変わることもないとは言えません。さらにテクニカルの部分でも難しいものが随時追加されていますので、正確な翻訳が早急に必要になってくるでしょう。
 また会計士の教育に関しても、多くの人が知らないIFRSの中身を、どう理解して教育するのか、公認会計士協会も含め取り組んでいますが、大事な問題です。国際会計基準とともに国際監査基準、さらにディスクロージャー基準もあり、これらを教育するためにはIES(国際教育基準)というものも設定されています。しかし日本のこれらに関する取り組みはまだまだこれからで、今度の課題です。

―日本が今後とるべき方策についてはどのようにお考えですか。

平松氏 今後はコンバージェンスを進め、日本基準との差異をできるだけ小さくしながら、いずれIFRSをアドプションするという流れになると思います。そして大事なことは、その流れの中で日本は“会計の国際基準の形成に影響を及ぼす” 存在になるべきだということです。

 IFRSが世界で採用される、特に上場企業の連結財務諸表で採用されるとなると、大筋では「世界の企業の財務諸表が比較可能になる」ということになります。この壮大な夢が実現しようとしているのは、大変望ましいことです。

 しかし1つの基準になったときに、本当にその基準が正しいかどうかを判断するのは難しいと思います。違う基準があってこそ、初めて違いがわかり、どちらが良いかという議論が成り立ちますので。会計基準が1つになったときに、健全な方向に進んでいるかどうか判断するためにも、日本は基準設定の能力を維持しながら、IFRSにも貢献するべきです。
関西学院大学 平松一夫教授

―IFRSに関し、日本もある部分ではイニシアチブをとっていけるような姿勢を持つのが大事ということですよね。

平松氏 1970年代、まだIASBの全身であるIASC(国際会計基準委員会)が活動する中で、白鳥栄一先生という方が日本人として初めて、そのチェアマン(議長)に就任されました。 白鳥先生はIOSCOがまだ、国際基準を認めようとしていない時から、一生懸命その重要性を訴えていらっしゃいました。まだ世の中が国際基準に見向きもしていない頃です。白鳥先生が「なんとかしなければ」と国際舞台で活動される姿を見て、私は非常に感銘を受け、学者としてできることは協力していこうと思いました。

 残念ながら白鳥先生は亡くなられましたが、現在でも国際的な舞台で活躍をしている日本人の方はいます。藤沼亜起先生は国際会計士連盟の会長を務められましたし、現在、山田辰己氏がIASBの理事を務められています。また、日本のASBJは理論的にも実務的にも世界に向けて影響力を持つ、会計基準に関する議論を発信できる力を十分持っています。これからも世界への情報発信に積極的に取り組んでいくべきです。

 いち早くIFRSアドプションを決めた国々は、コストや人的資源など、自国で基準設定するための体力がなかったと言えます。基準を作るというのはそれだけ大変なことです。しかし日本はそれだけの負担をしながらも作り続けるべきだと思います。自国の基準を明確にしつつ、さらに世界の基準設定にも貢献していく、そうなっていかなければならないと思います。


※このインタビューとセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



注釈

*1:ASBJ(企業会計基準委員会)
日本における、財団法人財務会計基準機構の常設委員会。企業会計の基準、調査研究、提言及び国際的な会計制度への貢献に寄与する。IASB(国際会計基準審議会)と連携しつつ、日本の意見も積極的に発信していくことを目的としている。

*2:資金調達
企業・組織が外部から事業に必要な資金を調達すること。方法としては資本による調達と、負債による調達の2つに大別できる。資本による調達とは、株式の発行による調達のこと。負債による調達は、金融機関からの借入れや社債の発行による資金の調達などを指す。

*3:IASB(国際会計基準審議会)
世界中で通用する国際会計基準の作成を目的とする民間の専門家組織。前身となるIASCが1970年代に日米欧の会計団体により創設され、2001年に現在の組織形態となった。本部はイギリスのロンドン。IASBの理事会は14名で構成されており、会計基準の作成を行う。現在、日本人の理事は1名。

*4:IOSCO(証券監督者国際機構)
日本の金融庁や、米国SECをはじめ、世界109の国・地域(2008年11月現在)の証券監督当局や証券取引所等から構成されている国際的な機関。

*5:私募債
限定された投資家に発行する債券のこと。私募とは、特定の投資家を対象に証券を発行することであり、一般向けに行われる公募とは異なる。公募の定義は50人以上を対象とし、私募は50人未満の場合とする。

*6:東京合意
2007 年8 月8 日、ASBJ(企業会計基準委員会)とIASB(国際会計基準審議会)は2011 年までに会計基準のコンバージェンスを達成する「東京合意」を公表。

*7:ノーウォーク合意
2002年10月29日、FASB(米国会計基準委員会)とIASB(国際会計基準審議会)はコネチカット州ノーウォークにて、会計基準のコンバージェンスを達成する「ノーウォーク合意」を公表。



【平松一夫(ひらまつ かずお)氏 プロフィール】

【現職】
関西学院大学 商学部教授
商学博士

【略歴】
1975年関西学院大学大学院商学研究科博士課程修了。関西学院大学商学部専任講師、米国ワシントン大学客員研究員を経て、1979年関西学院大学商学部助教授、1985年同大学同学部教授に就任。1991年 英国グラスゴー大学客員教授。2002~2008年関西学院大学学長。

【主な研究】
会計基準の国際的統一、国際水準の会計教育

【主な社会活動】
金融庁 企業会計審議会委員、企業会計基準委員会委員、日本学術会議会員、日本会計研究学会理事・国際交流委員会委員長、関西生産性本部副会長、大阪商工会議所・大阪簿記会計学協会理事長、大阪商工会議所・ビジネス会計検定委員会委員長

【著作】
『財務諸表論 第二版』(東京経済情報出版)共著 2008年
『国際財務報告論―会計基準の収斂と新たな展開』(中央経済社)編著 2007年、他 


(掲載日:2009年4月7日)

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