米国事例から学ぶe-Discoveryの実情とは:HH News & Reports:ハミングヘッズ

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橋本豪 外国法事務弁護士に聞く「米国事例から学ぶe-Discoveryの実情とは

外国法事務弁護士
橋本 豪
「米国事例から学ぶ e-Discoveryの実情とは」

2006年12月の連邦民事訴訟規則の改正により、米国連邦裁判所における 民事訴訟において当事者となる企業は、e-Discovery(電子情報開示)の義務を背負うことになった。米国訴訟におけるe-Discoveryの現状、また日本企業が海外での事業展開の際に打つべき対策について―ニューヨーク州弁護士で外国法事務弁護士の橋本豪氏にお話をうかがった。


米国訴訟とe-Discovery

外国法事務弁護士の橋本豪氏
外国法事務弁護士の橋本豪氏

―10年余に渡ってニューヨークでご活躍されてきた橋本先生が、e-Discoveryにかかわるようになったきっかけを教えてください。

橋本氏 私はもともとコーポレート(企業間取引)専門でしたが、日本企業のクライアントの要望があり、訴訟も扱うようになりました。米国においては私の最大の特技は日本語ですから。
 最近のアメリカの法曹界の傾向から申しますと、コーポレート系の人間が訴訟業務に本格的に関与するケースはあまりなく、そういう意味では恵まれた環境だったというか、最初は必要に迫られた形ですが、やってみたら大変やりがいを感じ、またクライアントのお役に立てるという充実感もあって、訴訟の分野にも入りこむことになりました。その関連で、訴訟において重要な要素となってきていた、e-Discoveryにかかわり始めました。

―ニューヨークでの勤務を経て、現在は東京でご活躍ですよね。

橋本氏 日本企業のクライアントと米国の訴訟専門弁護士との間に立って、日本企業のニーズや考え方、日本の組織の動き方などをふまえつつ、知恵袋として訴訟戦略を練るというポジションにいます。例えば「日本の組織では、こういう証拠はここにあるのではないか」、また「こういう話はこうもっていけば内部にも通りがいい」といったような組織力学的な部分をふまえたアドバイスも行っています。

日本と米国における訴訟の相違点

―e-Discoveryは、日本と米国ではどのような違いがありますか?

米国訴訟制度についての基礎知識
米国訴訟制度についての基礎知識(クリックすると拡大します。)
橋本氏 最も顕著な違いは日本が大陸法*1主義、米国が判例法*2主義の国であるというところに集約されると思います。陳腐な言い方かもしれませんが、e-Discoveryにおいてもそれは変わりません。
 ローマ法をベースに再編成された大陸法は、考え方が演繹的(一般的・普遍的な前提からより個別的・特殊的な結論を得る推論方法)なんです。それに対して、アングロサクソン系の国は考え方が帰納的(個別的・特殊的な事例から一般的・普遍的な規則を見出そうとする推論方法)です。日本人が米国の裁判に遭遇すると、まずそこに非常にギャップを感じるのでは思います。

―具体的な違いはどのようなものがありますか?

橋本氏 米国ではとにかく「事実」と「証拠」が重要で、「それに関係するものを全部開示してください」という動きになります。訴状が送られてきて、日本企業がまず面食らうのはディスカバリー(証拠開示手続き)の対象範囲の広さだと思います。
 事実に対するあくなき執念があり、「事実をすべて見て、そこから推論を積み上げていかなければ結論は出ない」という考え方を持っています。それに対して日本のような大陸法系の国は「ルールはこれだから、これをあてはめたらこういう答えになる」という考え方が基本になります。

 弁論主義と書面主義の違いというように手続き的な理由も言われますが、いちばん大きな部分は考え方の違いに根差しているので、日本人からすると理解困難なことも多々あると思います。
 裁判でいうと、裁判官の意識も大きく違います。例えば、裁判官に判断が委ねられている部分がかなりあるので、日本人から見ると「裁判官が勝手に判決を下している」「ルールはどこにあるんだ」と感じる部分もあると思います。米国人の感覚からすればきちんとルールが決まっていて、その範囲内で裁判官は判断しているのですが、実際問題なかなか感覚的に受け入れにくい所がままあると思います。

―日本企業が米国訴訟において、まだまだ面食らう部分はありますか?

橋本氏 米国進出して企業市民として活動を行う場合には、当然米国企業が背負う各種のリスクを同様に、背負わなければならないわけですよね。ですから否応なしに訴訟の世界に飲み込まれてしまったということはあるでしょう。訴訟リスクは米国での企業活動に加わるためのメンバーシップフィー(会員登録費)のようなものだと考えざるを得ないのでは、と思うこともあります。

 ただしそれを全部払ってくださいという話ではなくて、米国企業が講じているのと同じ防衛策が、日本企業も米国進出する際には必要になってくるということです。逆にいえば、その様な防衛策が必要となることを考えてもマーケットの大きさからすれば米国はまだまだ魅力がある国なのだと思います。

e-Discoveryを巡る諸問題

―日本企業が米国民事訴訟において電子証拠の開示をする際には、どのような点が問題になりますか。

橋本氏 e-Discoveryの難しさには、まず「Discovery(証拠開示手続き)」があります。米国では、訴訟や証拠に関する情報を、非常に広い範囲で開示請求できるので、請求された側は膨大な時間と費用と手間をかけるはめになる。そこで日本人の感覚からすると「何でこんなことまで開示しないといけないのだ」という風になります。
 そして「e-Discovery」は、幾何級数的に「Discovery」が増大した変種だと思っていただければいい。e-Discoveryの問題点とは、「e」(電子情報)の部分と、「Discovery」(証拠開示手続き)の部分、それぞれに難しさがあって、それらが複合しているため、さらに対処が難しくなっています。
 ですからそれぞれ問題の所在がどこなのか、ひとまず分けて考えれば問題の本質も見えやすく、対処の仕方も出てくるのではと私は考えています。
e-Disoveryにおける問題点について語る橋本氏
e-Disoveryにおける問題点について語る橋本氏

―情報量が増えるとそれだけ管理も大変になりますよね。

橋本氏 2008年に発表されたおもしろいデータがあって「『ニューヨークタイムズ』1週間分の情報量は、18世紀の生きた人の一生分の情報量に値する」のだそうです。IT技術の進化による情報量の増加は、それほど劇的なものなのでしょう。
 また、情報コントロールの難しさは単に量の問題だけではなく、現在のように皆がEメールを使う時代では、情報を発信できるソースも爆発的に増えているということになります。昔だったら上位下達で上長から順番に書類が回っていただけなのに対し、今は瞬時に皆に広がって、またそれぞれからレスポンスできる。
 一方、iPhoneやBlackberryといったワイヤレスデバイス上に乗ってしまった情報をいかに管理するかという問題もあります。Blackberry中毒の人は膨大な量のEメールを送っていますし、日本でもスマートフォンが普及してきているので、考えなければいけない事だと思います。

 情報マネジメントで重要なのは、いかに情報をコントロールし、有事の際にはきちんと対処できるように備えておくことです。そのためにいつも私が思うのは、会社が生み出す情報に対し、もっと分別のある形で制限がつけられないかということです。
 文書に残す必要のないものが残っていたり、逆に文書で残しておきたいことが残っていなかったり、その辺の判断は難しいですが、皆の中でルールや落とし所が今後徐々にできてこないといけないのだろうと思いますね。

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