医療におけるデジタル・フォレンジック導入の必然性とは(前編):HH News & Reports:ハミングヘッズ

ITをもっと身近に。新しい形のネットメディア

- Home > コラム > インタビュー記事 > 医療におけるデジタル・フォレンジック導入の必然性とは(前編)
 コラムトップページ
 インタビュー記事 ▼
 イベント・セミナーレポート ▼
公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
(動画あり)

秋山昌範 マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院客員教授に聞く「医療におけるデジタル・フォレンジック導入の必然性とは(前編)」

MIT スローン経営大学院客員教授
秋山 昌範
「医療におけるデジタル・フォレンジック導入の必然性とは(前編)」
~マーケティング理論を適用した医療フォレンジックの可能性~

網羅性は信頼のバロメーター

秋山氏 医療においてデジタル・フォレンジックを導入する際、「全部やる」か、もしくは「一部やるか」の方法がありますが、私は全部やらない限り意味がないと思います。医療におけるIT化のメリットというのは、「全数が取れる」ということです。そういう意味でいうと一番ポピュラーな国勢調査は全部データをとらないと、話にならないです。

 また、例えばなぜ患者さんは私の話を聞くかというと、医師免許をもっているからです。しかし実際に医師免許を見せたわけではない。それなりのところに勤めて、それなりのことを話しているからなのですが、つまり信頼があるわけです。医師免許を毎回見せてから治療を受けるのは非効率ですよね。このように信頼というのは手間とコストを下げる最大の武器です。
 医師と患者間に信頼関係があれば、デジタル・フォレンジックはいらないのです。そして信頼のバロメーターとは何かというと「全数をとる」つまり網羅性です。抜け穴があったら、信頼はできませんよね。

コンビニのPOSレジを参考に(マーケティングの考えを用いて) 

―確かに、網羅性は確かにフォレンジックにおいて信頼してもらうために必要な要素ですね。

コンビニのPOSレジ
写真1 コンビニのPOSレジ(クリックすると拡大します)
秋山氏 私が言いたいのは、まず、医療に対する信頼が揺らぎかけているということです。まずは、国民の信頼を復活させる、そうすることによって実はコストを下げることができるのです。
 では、国民全体はどう思っているのでしょうか。信頼を支えるものがなくなってきているのだと思います。信頼を維持するために取り戻すものは全数であるという話です。全体を補足するのに紙だとものすごいコストがかかります。だから電子化が必要なのです。
 もちろん全数をとるのは面倒ですし、時間がかかります。しかし本当にそんなに大変なのでしょうか。大変ではないことを実はみなさんはよく知っています。

 私がお話したいのは20年くらい前から使われているPOSレジ*1と呼ばれるものです。(写真1参照)このPOSレジはセブンイレブンのものですが、これはもともと1個のボタンでした。1個のボタンだったものを10個に分割したのです。これがセブンイレブンのオリジナルです。バーコードを使って読み取るのはオリジナルではなく、アメリカのウォルマートで普及したものです。ですが、セブンイレブンは独自に生み出したのです。特徴は年齢と性別を表すボタンです。12歳以下か、20代なのか、男性か女性か、ということがボタンを押すことでわかります。商品に対してどれくらいの購買層があるのかを、精算ボタンに取り入れたのです。売れない商品があるかどうかを調べるのにも、これを使ったわけです。

 私が調べた当時、セブンイレブンは約8000店舗*2ありました。8000種類もの陳列の仕方があるのです。店舗によって、品揃えが違うわけです。
 実はこのセブンイレブンのPOSレジがフォレンジックの1つです。網羅的に全数のお客さんのデータを集めることによって、無駄なコストが減るわけです。

―なるほど、医療においてこの概念を導入すれば、非常に有効ですよね。

コンビニのシステムについて説明する秋山氏
コンビニのシステムについて説明する秋山氏
秋山氏 例えば、医療機関が監視する人を導入しようとすると、ものすごく大きなコストですよね。こういう観点でフォレンジックを照らし合わせる人は残念ながらいないと思います。なぜかというとマーケティングの知識が不足しているからです。セブンイレブンでは、データセンターやお店ごとの詳細、天気すべての状況を加味して計画をたてていたわけですね。

 こういうことを調べていると、何十円、何百円のおにぎりを売るのに、様々な努力をしているのに、医療分野においてはこういう努力がまだまだできていない。私は医療にこの概念を持ち込みたいと考えたのです。私が作った医療システムが国立国際医療センターで今でもきちんと機能しています。国際医療センターは私が作った電子医療システムをやめるとは言いません。このように、デジタル・フォレンジックが成功した事例もあるということです。

医者の負担を軽減するために

秋山氏 要するに今までのシステムと違うのは、記録が中心という点です。患者さんはカルテが見たいわけではないのです。何か問題があって、不信感を持つからカルテを見せろと言うのです。何もないのにカルテを見せろとはいいませんよね。
 カルテを見るまでのプロセスがあるわけです。そしてカルテの閲覧を要求されない仕組みがフォレンジックです。

 私は一般的になされている議論はずれていると感じています。一般的には「カルテの閲覧を要求された際に、フォレンジックみたいな仕組みがあったほうがいい」と言われています。しかしそれは違います。そもそもカルテの閲覧を要求されるような不信感を持たれないためにデジタル・フォレンジックが必要なのです。
 それとコミュニケーションの問題です。私が開発した医療システム*3は全部バーコードによる自動入力なので恣意的に嘘はつけません。キーボードからの入力やカルテへの記入では嘘をつくことができますよね。
 もともと患者の情報を記録するためにコンピュータが導入されました。事務の人が入力していたものを、医者に直接入力させればいいようにしたシステムなのです。だから、医者の負担が増えるだけで、医者のメリットはありません。

―確かに、昨今、医師の仕事量の負担増が声高に叫ばれています。現場での改善はなかったのでしょうか。

平均在院日数の変化
図表2 平均在院日数の変化(クリックすると拡大します)
秋山氏 2001年に医療法が改正され、患者の入院日数が半分に短縮されました。それまで30日だったのが、15日に短縮されたのです。ここで重要なことは、看護師に負担がかかるとのことで、看護師の数が増えました。10対1から7対1となり、患者7人に対して看護師1人で看護すればよくなったのです。それに対して医者の仕事が倍になっている。なぜ医者は増えないのでしょうか?(図表2参照) 医療崩壊の本当の原因はこちらにあります。
医療システムについて語る秋山氏
医療システムについて語る秋山氏
  私はこの時期に新しいシステムを作りました。例えば、アメリカの病院に患者さんが入院する平均の入院期間は4日です。日本の医療費と呼ばれているものの中には、余分な入院日数の食事代のように、医療費ではないものもたくさん入っているのです。日本の医療費は非常に安い。しかし国民は医療費を増やしたくないという流れになっています。

 こういう状況の中で、フォレンジックは絶対に必要です。フォレンジックが必要でないという理屈はどこにもありません。そういうのをむしろ一般の国民の方が勉強すべきだと思います。一番の当事者である国民サイドから、フォレンジックのように医療行為に対し透明性のある制度を作るよう、要求をつきつけるべきだと私は思います。


※このインタビューとセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



注釈

*1:POS(Point of sale)レジ
主にコンビニやスーパーマーケットなどで、商品の販売と同時に商品名・数量・金額・購入者の年齢層などの情報をバーコードリーダーなどで読み取り、収集することができるレジスターのこと。

*2:セブンイレブンの店舗数
2008年8月末現在は1万2099店舗。

*3:(秋山教授が開発した)医療システム
バーコードで薬を管理し、患者の取り違えや投薬ミスを防ぐ病院情報システム。投与直前にオーダーの薬の変更があっても瞬時に反映される、使い勝手の良さが特徴。同システムは、医療行為の1つ1つをリアルタイムに記録できる機能も備えており、それらデータを分析した結果、与薬のミスを誘発しやすい要因も明らかになっている。



【秋山 昌範(あきやま まさのり)氏 プロフィール】

【現職】
マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院客員教授
医学博士
東京医科大学医療情報学教室客員教授 

【略歴】
1983年 徳島大学医学部医学科卒業
同泌尿器科、徳島市民病院、高松赤十字病院、慶應義塾大学医学部病理教室
国立四国がんセンター、国立国際医療センター内科医長、情報システム部長
医療情報システム開発研究部長を経て、
2005年 マサチューセッツ工科大学スローン経営大学客員教授
2005~2007年 文部科学省科学技術振興調整費研究代表者
2006年 バーコードや電子タグの国際標準組織GS1-Healthcare参加
2007年 流通・物流効率化システム開発調査委託費検討委員会委員長

【現在の役職】
日本医療情報学会 理事
デジタル・フォレンジック研究会 理事 他

【主な著作】
『ITで可能になる患者中心の医療』(日本医事新報社)2003 他

(掲載日:2008年11月17日)

Back


お問い合わせ

  コラムトップページへ▲