インタビュー(2)
弁護士・福井健策氏に聞く
著作権を活かすには デジタルコンテンツの功罪

2013/10/31  2/3ページ
福井健策氏
デジタル技術が生みだす大量の情報と
著作権の衝突はこれからも起こるでしょう

Googleブックス問題が問うもの

―デジタルコンテンツの流通に国境はありません。代表例が2005年以降に生じた「Googleブックス*1問題」です。こうした問題はこれからも続くのでしょうか?

福井氏:デジタル技術が生みだす大量の情報と著作権の衝突は、今も世界的規模で続いていますし、これからも起こるでしょう。


 Googleは出版社と電子書籍に関するパートナー契約を結び、共存をはかる一方、著作権に関する訴訟で争っています。Googleブックスはまさにその典型的な問題です。この問題に代表されるように、新たなデジタル技術・サービスと既存のコンテンツ産業の間では、「片手で握手しながら、片手で殴り合う」ような時代がしばらくは続くのではないでしょうか。


 Googleが行った本のデジタル化は、既に2000万点とも、3000万点ともいわれています。書名だけではなく、あらすじや内容も検索でき、抜粋も表示される。それで気に入ったら紙の本も買うだろう――Googleがやろうとしていることはある種の「フリーミアム」です。しかし「便利ではあるが、そのフリーミアムは果たして機能するのか? 得をするのはGoogleだけではないのか?」と出版社や作家は危惧し、訴訟になりました。


 この問題を考えるときに大事な視点のひとつは、「Googleはコンテンツの売り上げには本来あまり関心がない」ということです。Googleは、いわば魅力あるコンテンツでアクセス数を稼ぎ、個人のライフログを集め、関心の高いキーワードに付随する検索連動型広告を見せ、収益を稼ぐビジネスモデルです。だから彼らは無料でコンテンツが見られる方向でも恐らく痛痒は感じない。他方、出版社・著作者側の人たちにとってはGoogleブックスがどう収益につながるか不透明だった。Googleとどの範囲なら共存できるのか――Googleブックス訴訟はまさにそれが問われた裁判でした。


 このGoogleブックス訴訟は今も米国で続いています。ところが、2013年9月中旬に興味深い動きがありました。米国の連邦地裁を担当する裁判官が、フェアユース(米国の著作権法に認められている、公正な利用であれば著作者の許諾を必要としなくてもよいとするもの)を認めるのではないか、と匂わせる発言したのです。


 動向はなお不透明ですが、仮に「書籍をスキャンし、全文検索させて抜粋を表示する営利企業のサービスはフェアユースである」という判断を米国の司法が下せば、今後のネットビジネスは当然そういう方向に流れていくでしょう。日本も大きな影響を受けるはずです。


日本版フェアユースの可能性

―今「フェアユース」という言葉が出てきましたが、フェアユースとはそもそもどういう考え方なのでしょうか?

福井氏:現在の日本の著作権法には「私的複製」など、著作権者の許可を得なくても作品を利用できる、個別の制限規定があります。しかし、利用目的に合わせて細かい条件が決められており、個別規定がない領域については、権利者の許可を得ない限り作品は利用できません。


 「フェアユース」とはこうした個別の制限規定がない分野でも、諸般の事情から許されてもよいような公正な利用は、権利者の許可を得なくても利用できるという一般規定です。米国など一部の国の著作権法にある考え方です。


―なるほど。では日本でも米国のようにフェアユースの規定が設けられる可能性は今後あるのでしょうか?

 2012年に「日本版フェアユース」を導入しようと文化審議会などで議論したことがありますが、結果としてフェアユースとは言いかねる、いくつかの新しい制限規定*2が設けられています。


 仮に今後、日本でフェアユースを導入した場合、米国人ほど日本人もフェアユースを使いこなせるかどうかは正直わかりません。そもそも米国人は、行政による事前規制は好きではなく、どちらかといえば自分の判断でリスクテイクして、クレームを受けたら裁判で白黒つけることを好む傾向があります。日本人は、これと比べると裁判が嫌いで、それよりは事前に行政にスタンダードを決めて貰い、それを守ることで「安全」にビジネスをおこないたいという傾向が強いでしょう。裁判が嫌だとすると、フェアユースの規定が新たにできても、自己責任で判断してまずはやってみようという人がどれくらい出てくるのかという懸念はあります。


 それでも私がフェアユース導入論に賛成なのは、新しいビジネスや新しい利用法が生まれてから、法律を変えようというのでは現実に間に合わないからです。日本は検索エンジンを許すための制限規定を入れるのにおよそ10年もかかり、その間に米国勢のヤフーが来て、Googleが来て90%以上のシェアを取られてしまった。従来型の事前に個別の規定を作って行く方法だけでは、新しい産業を生み出すのを難しくさせ、日本企業はどんどん後手にまわってしまう。それならば個別の制限規定とは別に、「著作物の公正な利用は著作権を侵害しない」という一般条項を設ける方式(=フェアユース)をうまく活用してもいいのではないかというのが私の意見です。  

>>違法ダウンロード問題については?

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