インタビュー 著作権を活かすには デジタルコンテンツの功罪

1991年東京大学法学部卒。米国コロンビア大学法学修士。現在、骨董通り法律事務所 代表パートナー。著書に「著作権とは何か」「著作権の世紀」(集英社新書)など。国会図書館審議会・文化庁ほか委員・理事を務める。

インタビュー(1)

弁護士・福井健策氏に聞く

著作権を活かすには デジタルコンテンツの功罪

2013/10/31  1/3ページ
弁護士 福井健策氏 「コピーを売る」というビジネスモデルは
崩れてきています

 インターネットが普及し、記事・動画などデジタルコンテンツには事欠かない時代になった。しかし、利便性が高まる一方、これまでの著作権の範囲では対応しきれない問題が次々と発生している。その内容とは? また“クールジャパン”と言われるなか、日本が海外にコンテンツを売り込むためには何が必要なのだろうか? 

 著作権に詳しい日本大学芸術学部客員教授で弁護士の福井健策氏にお話を伺った。

成立しない「コピーを売る」モデル

―インターネット上にデジタルコンテンツがあふれる中で、著作権を守るにはどこに気を付けるべきだと考えますか?

福井氏:著作権は、もともと著作物の売り上げを守るための仕組みです。メディアが限定されていた時代をみると、小説ならば書籍、音楽ならばCDの販売など、大量の「コピー」を売って収益にするというビジネスモデルでした。この「コピーを売る」ビジネスモデルを守るために機能していた制度がコピーライト、すなわち著作権です。そうした従来のビジネスモデルを海賊版によって侵されないように、機能していた権利とも言えます。


 しかし今はその前提となっていた「コピーを売る」ビジネスが崩れてきています。例えば、月極で新聞をとらない人が多数いますが、それはなぜか? SNSでニュースの手掛かりをつかめる、そしてGoogleなどで検索すれば、何百もの記事を読むことができるからです。映像に関して言えば、ネットの動画サイトは非常に充実している。今や適法のものが多く、いくらでも無料で見ることができます。


 ネットで無料の記事や動画を見た方が、簡単で用は足りると思う人が増えており、正規版の売り上げが落ちていると言われています。いわば「フリーとの戦い」です。無料=フリーのコンテンツが大量に増え容易に手に入るので、「コピーを販売する」というモデルが成立しづらくなっているのです。


 著作権がビジネスモデルを守るためにあるならば、ビジネスモデルが変わる時期に著作権の考え方が変わるのは当然です。言い方を変えれば、「著作権を守る」こと自体が目的であるかのような発想を変えて、著作権をどうやって「活かしていくか」という、転換が必要なのではないかと考えています。

オーディオレコード総生産金額と出版販売額の推移
CD・出版物などの売り上げは軒並み下がっている
(出典: 日本レコード協会・出版科学研究所発表資料)

―「フリーとの戦い」ですか?

 はい。コンテンツを製作する側としては、本当は作品が広く流通し、多くの人に見て貰いたいに決まっている。ただ、流通するだけで収入が得られなければ創作で生活の糧を得られませんから、どのようにコンテンツを売って、収入を得るかという、マネタイズ(収益化)が重要になります。例えば「試し聞き・試し読み」のように「ここまでは無料で、ここからは有料」といったものも、フリーミアム(基本的なサービスは無料にし、高度にものになると課金するシステム)も、そのマネタイズの手法の1つです。


 この手法も、著作権が守ろうとしたビジネスモデルが変わり、収入を得る手段が機能しづらくなる中、何が良いのか様々なことが試されてきた結果生み出されたもので、こうした試行錯誤はこれからも続いていくでしょう。


 ですから従来のビジネスモデルで機能していた著作権を“守る”のではなく、新しい変化の中で著作権をどう“活か”し、新しいビジネスモデルをどう構築するかという考えが大切になります。


ネット上に再流通する「裁断本」

―依頼者が頼めばどんな本でも裁断してスキャンし、デジタルデータにする自炊代行業者も増えています。これについてはどうお考えですか?

福井氏:自炊代行を名乗る業者は、最初はごく少数でしたが、1年ほどで100業者程度にまで急増しました。新刊本をアマゾンで注文し、そのまま代行業者に送らせる人も多い。確かに本は保管に場所をとりますし、こうしたサービスに対してニーズがあるのはよくわかります。「自分が買った本を電子化しようが自由なはずだし、それに業者を使って何が悪い」という感情も理解できる。


 一方で、無軌道な業者による大量のスキャンが問題を招いていることも事実です。例えば「裁断本の再流通拡大」という問題がある。ヤフーオークションなどで「裁断本」と検索すると、数えきれないほどのコミックスや実用本が出てきます。漫画喫茶が廃業するときに裁断してスキャンし、裁断済みの本をトン単位でオークションで販売するといった現象も起きています。


 スキャンして電子データを入手後に裁断本を出品し、流通させる。それを廉価で入手した人がまたスキャンし裁断本は流通に回す…これでは著者に1円も入りません。現在、代行業者は著者の許諾なくスキャンを続けていますが、裁断本のスキャンを受け付けたり、スキャン後の裁断本を返す業者もかなり多い。そのほかにも、さすがに著者や出版社の困るような形態も見られます。課題は多いのですが、やはり著者や出版社の許諾を得てスキャン事業をおこなう、という方向で進むべきだろうと思います。

>>Googleブックス問題が問うものとは?


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