インタビュー(3)
「チーム DeepZen」代表・加藤英樹氏に聞く
天声人「碁」 コンピュータ囲碁の地平線

2013/7/4  3/3ページ
加藤英樹氏
コンピュータは「エネミー」ではない
「ライバル」であるべき

コンピュータ囲碁の先に見えるもの

―人間とコンピュータの対決というのは、今後どのようになってくるのでしょうか。

加藤氏:それ以前に、「プロ棋士VSコンピュータ」なのか、それとも「プロ棋士withコンピュータ」という捉え方をするのか、という差があって、これが大きい。コンピュータは単なるツールであって、うまく使って人間がもっと強くなるのが理想です。これはチェスですでに通った道なんです。実際チェスプレーヤーはアマチュアからプロまで、コンピュータを利用して勉強しています。


 ただ、世間の見方はあくまでコンピュータは「エネミー」ですよね。「エネミー」は叩き潰す相手で、「ライバル」は自分が強くなるためにいてくれないと困る存在。コンピュータはライバルであるべきなんです。


―囲碁ではどうなのでしょうか。

加藤氏:囲碁の界隈はコンピュータが強くなって自分たちを手伝ってくれるとありがたいな、というプロ棋士の方が多いですね。大橋先生(拓文6段)はZenと9路の対局をして1勝1敗だったのですが、対局の数日後に「ここでこう打っていれば1目得していた」と、きっちり答えを出してきたんですね。この執念もすごいし、人間の能力のすごさはここだと思いました。コンピュータにはこうした執念は一切ありませんから。


 コンピュータの方は(公式盤より小さい)9路でプロといい勝負になっています。公式盤の19路で名人に勝つには、モンテカルロだけでは無理です。「名人に定石なし」という格言がありますが、名人は「定石を作る人」なんです。その定石も、ランダムでやって結果オーライではなくて、演繹的な処理能力で作っていく。コンピュータに帰納・演繹能力がない限り、「人間に近いAI」とは言えませんね。最低でもこの能力は必要だと思っています。


―現在のアルゴリズムではまだ勝てない、ということですね。

加藤氏:名人戦を見ていると、活きているか死んでいるかわからず、プロがじっくり見てようやく判定できるような石が4つくらいあるんです。このレベルだと、投了した局面でもZenは「勝率50%」としか出せません(笑)。ランダムだから、死活が絡み合った答えが出せないんです。演繹的な詰め方ができない。モンテカルロの原理的な困難です。(Zen開発者の)尾島さんも「(モンテカルロでは)限界」と言っていますから。


 まあ、モンテカルロ法でよくここまで来たな、という感じですね。2004年にはKGSで1d(アマ2、3段程度)なかったんですから。10年経たずにKGSの6dですからね。人間でもこんな速さで強くならない(笑)。


 将棋では「何を打ってもダメな気がする」というプロ棋士の感想があります。でも、これは食わず嫌いみたいなものです。「数値計算を絶対に間違えない」というイメージが先行している。探索機能についてはコンピュータも間違えます。「人間よりものすごく効率が悪い」作業をしていることを、まずはプロ棋士に知ってほしい。人間が本気になれば絶対勝てるんです。

(中西 啓)

注釈

*1:ミニコン
メインフレームと呼ばれた大規模コンピュータを、よりコンパクトにしたもの。それでも、大型冷蔵庫並みの大きさがあった。

*2:3目中手(さんもくなかで)
囲碁の盤上において、同色の石で囲まれて繋がった3目の中央に打つこと。例えば、黒が外側、白が内側に囲っている場合、黒が真ん中に置けば全ての白石を死に石にできる。

*3:眼(め)
囲碁の盤上において同色の石で囲われた箇所のこと。

*4:多腕バンディット問題
複数台あるスロットマシンのうち、限られたコインでどれだけ多くのコインを得られるか、というジレンマ。モンテカルロ法の課題だった。

加藤英樹氏

【加藤英樹氏 プロフィール】(かとう ひでき)
1953年東京都生まれ。1980年東京工業大学工学部情報工学科修了。1982年3月から富士通研究所に入社し、人工知能の研究に従事する。2009年5月にフリープログラマ、尾島陽児氏を誘ってスペインで開催されたコンピュータオリンピックに参加し、コンピュータ囲碁ソフト「Zen」が初参加、初優勝を果たした。その後尾島氏と「チーム DeepZen」を結成。2010年4月からコンピュータ囲碁フォーラム理事。

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