インタビュー(2)
「チーム DeepZen」代表・加藤英樹氏に聞く
天声人「碁」 コンピュータ囲碁の地平線

2013/7/4  2/3ページ
加藤英樹氏
モノクロの「鉄腕アトム」を見ていた世代
「人間みたいなAI」が作りたかった

―コンピュータ囲碁にかかわり始めたのはいつ頃だったのでしょう?

加藤氏:富士通研究所に入ってからも人工知能を研究していました。ちょうどその時はメーカー各社が人工知能をやろうとしはじめていた頃です。その後、別のプロジェクトでリーダーをしていましたが、残業のやりすぎで、出社できないくらいになってしまいました。いわゆるうつ病になったんです。


 脳のスタミナみたいなものがあって、1日3~4時間しか持たない状態になりました。それで会社を辞めて、しばらく自宅で静養してからコンピュータ囲碁の研究を始めたんですね。

「研究」としてのコンピュータゲームの立ち位置

―富士通研究所時代にはゲームの研究はしていなかったのですか?

加藤氏:その頃はゲームを研究する、という空気はなかったです。日本全体にも言えることですが、ゲームに関して論文を書いたとしても、評価が低いんですね。


 私が助手をやっていたころなどは、教授から「ゲームなんかやったって論文書けないよ」と言われていましたからね。先生方からすると、学生が論文書けないとかわいそうだから、論文として成立するか微妙な研究は避けさせるんですね。最近は研究としても徐々に認められてきましたけれども。


―なぜゲーム研究の評価が低いでしょう。

加藤氏:物理や医学などは自然が対象で、実験や分析で新しいことを見つけて論文を書く。ところが、ソフトウェアはコンピュータが相手です。ですから、「できること」と「できないこと」がすでに分かっている。


 研究というのは、「できないこと」が分かって初めて次のステップへ行ける、というのが基本なのですね。コンピュータゲームもしかりで、「強くなりました」では論文にならないんです。「こういう問題があって、こんな苦労をして、こう解決して強くなりました」と書ければいいんですが。論文というのは、どれだけ広くみんなの役に立つかが評価です。なので、コンピュータゲーム専用のテクニックだけでは狭いわけです。


 だから、なかなか評価が上がらない。でも、私は「鉄腕アトム」を白黒テレビで見ていた世代。「人間みたいなAIを作りたい」というのが心の中にずっとあったんです。

ハードの性能とソフトの性能

―加藤さんの時代から比べると、コンピュータ囲碁もかなり進化しました。

加藤氏:ハードにある程度の性能がないと、使えないアルゴリズムもあるんです。「ゾブリストハッシュ」という、同一局面を調べるのに使われる手法は、まさにこれにあたります。


 将棋には「千日手」、囲碁には「コウ(劫)」があります。1回の対局中に同じ駒や石の配置になっている状況のことです。これを回避するために、ある局面がそれまでと同じ局面かどうかを高速に探したい。このときにそれぞれの局面にインデックスをつける。ハッシュを使うんです。


 「ゾブリストハッシュ」は、次の一手を探索する時に、命令1回で全局面のハッシュが得られるのです。しかし、このハッシュを将棋や囲碁で利用するには、少なくとも 64ビットのマシンが必要なのです。ですから、最先端の世界は、ハードとソフトは不可分。ある程度ハードを想定して、それに最適なソフトを作る、ということをやっているんです。こういった意味で、アルゴリズムはテクノロジーとともに変化しますね。

Zenのマシン群   Zenのスペック
Zenのマシン群   Zenのスペック

Zenは「いいとこ取り」のソフト

―改めてZenの特徴を教えて下さい。

加藤氏:Zenはシミュレーションの質が良いです。無駄なシミュレーションをしない。悪手をシミュレートしないようにしています。


―ランダムにプレイアウト(終局まで打つこと)して勝率の高い手を選ぶ、「モンテカルロ探索」を使っているから、ということでしょうか。

加藤氏:モンテカルロ法がブレイクしたきっかけは、レミ・クーロンが開発した「Crazy Stone」です。2006年のコンピュータオリンピック囲碁9路盤で優勝しました。モンテカルロ法を強くするには2つ方法があります。


 1つは、例えば「3目中手*2のような格好が出てきたら、真中に打つ確率を上げる」とか、「眼(め)*3に見えるところを埋めるのはやめる」という碁の知識を組み込んでいく方法です。後者はシミュレーションが終局するため でもあります。


 もう1つはUCTという探索木を導入する方法です。UCB(Upper Confidence Bound)という方法をもとにしたものですが、多腕バンディット問題*4を解決する数式を使って、効率を上げるものです。UCTを最初に実装したのは「MoGo」という囲碁ソフトです。「MoGo」自体は「Crazy Stone」をベースにしたものですが、UCTの実装は「MoGo」が先でした。MoGoの開発者は優秀なプログラマです。囲碁の腕前は18級程度ですがね(笑)。


 ZenはCrazy Stone と MoGoのいいところを組み合わせたものです。Zenのハード構成がバラバラなのは、マシンを作った時代によってリーズナブルなメモリの量が変わってくるから。自作ですからね、コストパフォーマンス的に最適なポイントで組み立てています。Zenのセットは100万円くらいでできちゃいますよ。


―ハンデはありながらも、自作マシンでトッププロの囲碁棋士と張り合っているのはすごいです。

加藤氏:プライベーターがF1やってるようなもんですよ(笑)。

>>強くなるコンピュータにも限界が?

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