ビッグデータに必須!“数学脳”の鍛え方
~世界と戦える人材育成術~
新井紀子 国立情報学研究所教授
2013/4/11  3/3ページ

ビジネスに必要な数学は「関数」と「統計」

―では、社会人として最低限持っておくべき「数学力」とは。

新井氏:「関数」と「統計」を使って、「未来を予測する力」でしょうか。いえ、もっというと、その2つが未来を予測するもっとも重要な方法論だということを認識することでしょうね。


 関数というと、みなさんはグラフを思い浮かべると思います。しかし、実際の現象から観察できるところというのは、このグラフのうち、実はほんの少しの部分しかできないんです。全体が観察できていたらグラフを読んで「ここはこうですね」で終わるので、なにも頑張って関数をやる必要はないわけです(笑)。


 ほんの少しの情報しかない中で、どうやってグラフの全体像を知りうるか、というと、それぞれの関数には性質があるからなんですね。たとえば、2次関数(放物線)ですと、そのグラフ上にあるたった3つの点がわかっていれば、完全に全体がわかる。それってある意味すごいことでしょう。


 ただし、多くの場合は、ある現象がどんな関数で表現されるのかなんてわからない。その中で、物理現象の基本的なところは、こんな関数で表現されるだろうということがわかっている。ニュートンの運動方程式は代表的なものですけれども、他にも、天気予報に使われる「ナビエ・ストークス方程式」がそうですね。


 高校までの数学で、もちろん個別の解法を習うことも必要ですけれども、より重要なのは、「こういう問題は、物理と数学で解けそうだ」という感覚を持てるようになることだと思います。


―統計はどのような場面で?

新井氏:因果関係を数式で表現できるものは、関数の守備範囲です。けれども、世の中、そんなことができる範囲はごく限られているんですね。そのときに必要になるのが、統計の考え方です。

新井氏「数学を使いこなせるかは、企業の命運を左右する」
新井氏「数学を使いこなせるかは、企業の命運を左右する」

 POSデータから「20代の女性と40代の男性では、どのドリンクをよく買うか」という傾向などを出したいときにも使います。これは、どう考えても理論のある物理現象として書ける感じがしない。でも、何かしら傾向はあるだろうな、と思うわけです。それをビジネスに活かしたいと思うのは当然ですよね。


 この時も、単に「多い」「少ない」というだけではなく、「何と相関がありそうか」「何と関連がありそうで、どのデータを取れば『20代女性は40代男性よりもコンビニでコーラよりお茶を買う人が何%多い』ことがわかるか」という数量的なことを予測したいわけです。そうしなければ在庫管理に失敗してコストがかさんでしまいますから。


 「とりあえず本を1000部刷っておこう」とか、「とりあえずこの弁当を100個注文しておこう」の“とりあえず”の部分を、きっちり出すことができたら、どれだけコストが削減できるか。数理的な予測は、今や社運を左右するんですよ。


 勘や感性だけで問題解決ができる時代は終わったんです。文系の人が、「統計」や「関数」の手段があるということを少なくとも知っておいて、問題が発生した時に、「誰に相談して、どういうチームを作って解決をしていくか」という認識をできる程度のリテラシーを持っていてもらわなければ困る、ということです。

「数式」に怯えないこと

―数式を頑張って覚えなければ、というわけでもないんですね。

新井氏:大人の方が「これから数学をやろうと思うんですが、昔のチャート式の問題集をやったらいいですか?」と聞かれることがあるのですが、それでは意味がありません(笑)。それでは明治時代に逆戻り。


 自分が直面した問題を、数理的な問題に近づけて考える。「難しい式が書いてあるけど、式で書いてあるということは関数で解けることを言っているんだな」ぐらいの、ざっくりした感じでもいいんです。日本人は数式を見ると「解かなきゃ」と思ってしまうところがあります。実際に解くのはプロに任せればよいので、「なんとなく」の雰囲気をつかむことができれば問題ないと思います。


 その「仕組み」がわかれば、コミュニケーションを取るべき人たちが誰なのか、どういうプロジェクトチームを作ればよいか、ということにもつながってくるわけです。


 まずは数式を見た時に、怯えない耐性だけはつけてほしい。そして、理系・文系の枠を超えて本質をコミュニケーションできる論理的表現力を身に着けて欲しいと思います。

(中西 啓)
新井紀子氏

【新井紀子氏 プロフィール】(あらい のりこ)
1962年、東京都生まれ。一橋大学法学部卒業後、イリノイ大学数学科博士課程修了。国立情報学研究所助教授を経て、現職。
CMS「NetCommons(ネットコモンズ)」のシステム開発なども手掛ける。 著書に『数学にときめく』(講談社ブルーバックス)、『ハッピーになれる算数』(理論社)など。
国立情報学研究所HP

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