ビッグデータに必須!“数学脳”の鍛え方
~世界と戦える人材育成術~
新井紀子 国立情報学研究所教授
2013/4/11  2/3ページ

「仕組み」をわかることが大事!

―新井先生は著書『ハッピーになれる算数』(理論社)で、「仕組みを考える体質」を養うことが重要だ、と書かれています。

「この正方形に無限の面積は書けますか?」
「この正方形に無限の面積は書けますか?」

新井氏:そうなんです。「仕組み」というものは、理系だろうが、文系だろうが、芸術系だろうが、必要な考え方です。「仕組み」がわかるために必要なのは、「そもそも」に戻って考えられること。数学では「定義」ですね。そこに生徒を立ち戻らせるような「よい問い」を立ててやることが授業の中では大切なのです。たとえば(ホワイトボードに図を描きながら)「10cm四方の正方形の中に、無限の面積がある図形は考えられますか?」という問い。いかがでしょうか。


 この問題の面白いところは、ふつうの公立校でも進学校でも、みんな同じ反応をするという点なんですね。進学校の子でも「うわ、先生に当てられたくない」と顔をそむけたり、目が点になってキョロキョロ周りを見回したりします(笑)。明らかに、頭が真っ白になって困っている。でも、その「困る」という、この感覚をまず味わうことが重要なんです。


 この問題では、戻るべき「そもそも」は「面積」と「無限」という2つの言葉。 無限というのは、ありとあらゆる数よりも大きい、ということ。けれども、正方形の中に含まれる図形の面積は必ず100cm2よりも小さい。なので「無限の面積は書けない」という論理です。


 これが「仕組みのわかる」体質なのです。ですが、文系の人が陥りやすいのは「無限と言えば……、宇宙」という連想に走って、考えが発散してしまいがちなところです。


―その通りです。

新井氏:連想とは、過去の経験からの積み上げ、つまり帰納的な思考方法なんですね。「過去にこんな経験をした」「そのときはこんな風にしたらうまくいった」という。帰納的な思考法は過去のデータがある時には強いのですが、そうでないときには極めて弱い。新しい場面では、「そもそも」に戻って論理で積み上げる演繹的な思考法が必要になる。帰納に強い人も、演繹しか通じない場面に何度も直面することで、少ない原理で結論を導き出す能力、「仕組みを考える体質」が養われてくるのです。

入試を変えなければ教育は変わらない

―「仕組みを考える体質」にする教育を中・高で行うように、指導要領を変えていけばいいのですね。

新井氏:いえ、文部科学省が指導要領などを決めても、高校教育は動かないんです。というのは、高校の現場にとって、「どこの大学に何人入学させたか」が評価基準になっています。ですから、大学入試が変わらない限り、教育方法を変えることができないんです。


―基本調査では、記述式の入試を経験した学生の方が、マークシートのみ経験した学生よりも正答率が高い、という結果が出ました。記述式の入試を増やすのが望ましい、ということでしょうか。

新井氏:基本調査でもフォローアップ調査でも、正答率をもっとも左右したのが、理系・文系によらずどのような方式の数学入試を受けたかということでした。記述式か、マークシートのみか、数学は不受験だったか。やはり記述式を受けている層は典型的な問題にも論理的思考力を問う問題にも強い。AO入試や推薦入試、マークシート方式から記述式試験にもどすというのはひとつの処方せんだと思います。


 ただ、昔からある記述式で十分だとは思えない。今回の調査でわかったのは、現在の入試は相対的なスクリーニング(選別)には効いているけれども、絶対的なスクリーニングとしては効いていないということなんです。入試で、ものすごく難しい微積分の問題を解いてきたはずなのに、「偶数と奇数をたすと奇数になること」を証明できなかったりする。理由のひとつは、入試問題のバリエーションが狭すぎて、受験生や受験産業にパターンを読まれてしまっているからだと思います。


 その原因は、日本人がもつ、入試への過度な潔癖性でしょう。マークシートが好まれる理由のひとつが、採点基準が明確でないと公平でないと多くの人が考えるからなんですね。「はっきりした答えが出る問題でないと公平さに欠ける」というスタンスで試験が作られていますから、「ざっくりした質問」ができないんですよ。


 でも、入社試験でそんなことを公平に聞くかと言えば、どう考えてもそうではありません。実社会でも研究でも問題になるのは、答えがわからない問題だからです。なのに、どうして大学入試だけざっくりしたことを聞いてはいけないのか。極度に公平性を気にするために、設問にも縛りが出てきてしまうのです。そうすると今までの入試の枠からも出られないし、入試が変わらなければ教育内容も変わらないんですね。

>>現在のビジネスに必要な数学は?

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