―AKB48の話で言うと前田敦子さんから、ごく稀に返信がくるわけですね。
境氏:そう。その時にどうやってそういう感覚を、どういうバランスで持たせるかも大事です。絶対もらえないのはダメ。例えば「●●さんへ」と書かれるような手間がかかっていてほしい。でも本当に全部返信したら、ありがたみはないし、物理的に前田敦子さん1人ではできない。そこでITの力を使い、前田敦子さんのリプライやツイートから若干情報を取ってきて、ワードを抽出し、ランダムパターンにあてはめ、返信します。
いわばBOT*2ですね。これはアイドルだけではなく、本だけで収益を得ることがどんどん難しくなるだろう作家も同じです。これからは作家自身とネット上のエージェントであるBOTが連携する時代になるでしょう。すでに芸能人や作家は、プロダクションや編集チームという「人力」でこれを実現しています。しかし複数の人を使うコストも高いですし、自分で発信もしたいでしょう。そこで自分のエージェントBOTと連携する。そんな可能性はかなり見えてきているのではないでしょうか。
全員に毎日返事することもBOTは可能ですが、返信の「貴重感」をなくしたら意味がないので、頻度を吟味し、たまに編集者やマネージャーを名乗って返事を書くことで信憑感を出すなどの工夫も必要でしょう。まあ現時点でそこまで論ずるのはやや妄想的だとしても、作家間の競争が激化している現在、作家は原稿を編集部に渡しておしまいではなく、自分が本を基軸にどうやって収益を得るのか考えざるを得ない時期が来ているというのは現実だと思います。
―ITの利用ですね。やはりITが入ることによって、媒体の変化などへの影響は大きかったのでしょうか?
境氏:文字が生まれたのがおそらく紀元前5千年紀。紙とインクで書くようになったのが紀元前2世紀頃、印刷が生まれたのは7世紀、活版は11世紀。いずれも中国です。そして金属活字印刷が13世紀の高麗(朝鮮半島)、ヨーロッパでは15世紀。印刷する本の文化となると16~17世紀ごろが始まりです。
20世紀頃には音が録音されるようになり、すぐ後に映像。1950年代にはテレビ放送が始まり、デジタル伝送路が1995年に世界的に完備され、1990年代後半から2000年ころにはPCが小さく持ち運べるようにと、進化の速度は何10倍にもなっています。
紙で作ってきた書籍全般において「●●はこういうものだ」という「スタイル」が崩壊しようとしている現在、これからは作り手側が「この本がどんな本なのか」ということをじっくり見極めて、コンテンツの出し方や売り方を逆算する時代になると思います。「書籍だから電子化していこう」と安易な考えでいると、相当痛い目を見る人でしょう。
これを乗り越えて「スタイル」が確立されれば、コミケの壁サークル*3のような心地のいい世界が見えるかもしれません。コミケは、本来あらゆるジャンルが参加してよい自由度の高いフィールドですが、その分、ジャンルが細かく分類されていて、売る側にとって顧客が良く見えます。一つ一つのジャンルを見れば、ニッチな分、共通の理解もあり楽なんです。もし共通の理解がいない相手に物事を説明しようとすると、1つのことを書くのに30くらいの背景を書かなければなりませんから。
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| 電子化も所詮、数多ある手段の1つにすぎない |
―電子書籍化は、そうしたスタイル・売り方の手段の1つにすぎないわけですね。
境氏:電子書籍は、ものすごく大きな環境変化が起きたことに対して、表現したいコンテンツ産業がどのように対応するか、というものの一部なのです。
将来的に出版社が芸能プロを持つとか、テレビを持つということもあり得ます。その方が強いですから。そうすると僕たちにはまだ想像がつきませんが、「かわいいだけで売れている作家」もでてくるかもしれません。本に握手券がつく時代も早晩来るでしょう。そうやって全てのコンテンツは、エンターテインメントに還元されていくでしょうね。
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【境真良氏 プロフィール】 さかい まさよし |
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注釈
*1:AKB48のCDは握手券購入費
AKB48は2005年結成のアイドルグループ。シングルCD発売に合わせて購入者に対して握手会を行っている。そのため「何度も握手をしたい一部の過激なファンが、握手券を目的に複数枚(場合によっては100枚単位)購入してCDの販売数を押し上げている」という非難がある
*2:BOT
様々な意味があるが、ここではメールを出したり、ツイッターでつぶやくなどの情報発信を、予め決めておいた条件に従って自動的に行ってくれるプログラムのこと
*3:コミケの壁サークル
同人誌の即売会「コミックマーケット(コミケ)」で作品が大量に売れている有名なサークル(または個人)のこと。スペースが大きく取れて販売に有利な「会場の端」=「壁」に販売スペースを割り当てられることからこう呼ばれる